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第6章『七夕騒動』
番外篇『いつか、あの約束を』
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先生は不思議だ。僕が考えていることが分かるような行動をする。
「今日の分は満点だな」
「そっか。ちょっと自信なかったから安心した」
「…やるか?」
「え?」
「天体観測」
この状況になってからというもの、下ばかり見て星なんてもうずっと目にしていなかった。
「いいの?先生なのに悪いことして…」
「おまえはよく夜中学園に忍びこんでやってただろ?…気が向いたら明日の夕方屋上に来い」
先生が望んでいる答えが分からない。ただ、すごく興味があった。
「…分かった、ちゃんと行く」
「そうか」
先生のひどく安心した顔に、答えを間違えなかったと考えてはっとする。
【俺にはもっと本音をぶつけていい。正解を探していい子のふりをしなくていいんだ】
【放っておいて】
【…悪かった】
あのとき先生はいい子じゃなくていいって言った。
思ったことを話すってどうすればいいんだろう。
「…で、私に相談に来たってことか」
「うん。言っちゃったら困らせちゃいそうで上手く話せなくて…詩乃ちゃんはどうしてるのかなって」
詩乃ちゃんはちょっとだけ僕に似ている。
だから、訊いたら答えが見つかるんじゃないかって思ってた。
「特に意識してることはないな。まあ、心配をかけないようにとは思うけど…自分の気持ちを言葉にして、相手の言葉も汲み取る。
特に嬉しいとか楽しい気持ちは相手と共有したいって思うんだ」
僕には、詩乃ちゃんみたいなことはできない。
曖昧な言葉を返すことしかできなかったけど、彼女はまた後でと言ってどこかへ行ってしまった。
「なんだ、ここにいたのか」
「先生?」
天体望遠鏡を磨いていると、先生がハンカチみたいなものをひらひらとふって声をかけてきた。
どうするんだろうと思っていると、望遠鏡のレンズを拭いてさらりと告げる。
「もうみんないるから」
「え?」
顔をあげたときには先生の姿はなくて、望遠鏡を担いで屋上に向かう。
この時期に見えるものなんてなかったはずだけど、生きていたときの記憶が全部だとは限らない。
「お、やっと来たみたいですよ」
「どうしてみんないるの?」
ひな君の隣にいる人は知らない人だけど、先生の他に詩乃ちゃんや黒猫がいるのが見えた。
「先生から、ちょっとしたお疲れ様会程度なら許されるだろうって誘ってもらったんだ。
お弁当も作ってきたから、よければ食べてみてほしい」
「僕、死んでるのに食べていいの?」
みんなに返せるものなんて何もないのに、この人たちは僕のことを怒ったりしないみたいだ。
「当たり前だろ?多少は食べないと栄養失調で倒れるし、少しでも力になりたかったんだ」
「…ありがとう。そっちのお姉さんは誰?」
「私は桜良。あなたのことを陽向から聞いて、少し話をしてみたかったの。よければ紅茶もめしあがれ」
「いいの?」
「勿論」
みんな優しくしてくれる。
先生のおかげもあるだろうけど、きっと根がいい人ばかりなんだ。
「あ、流れ星…」
「きた!先生が言ってたとおりになりましたね!」
「…まあ、今回はこれ頼りだったけどな」
他の面々がわいわい楽しそうにしているのを、詩乃ちゃんがくれたおにぎりを食べながら眺める。
その光景が、今の僕にはどんなものより輝いて見えるのだ。
「悪かったな、ふたりきりじゃなくて」
「ううん。今すごく楽しいよ。だから…ありがとう先生」
今度はちゃんと言えた。本当は心配してくれて嬉しかったんだ。
なのに、僕は意地になって周りに助けを求めなかった。
どうにもならないって諦めて、最後は自分で…。
だけど、それがあってここにいる。
みんなの役に立ちたい…僕が死んでも存在した理由はそれかもしれない。
「【流星群ほどではないが、多数の星が降る夜になる】」
「え?」
「未来予知日記って知ってるか?」
「話だけなら聞いたことあるけど、まさか先生がいつも持ってるそれなの?」
「そうだ」
先生がどうして苦しそうな表情をしているのか分からないけど、はっきりしたことがひとつある。
「貴重なものを僕の為に使ってくれてありがとう」
「素直になったもんだ」
先生は嬉しそうに笑っていて、詩乃ちゃんの言葉の意味を知る。
嬉しいことを相手と共有できたらもっと嬉しくなった。
やっぱり照れくさいけど、多分これでいいんだ。
黒猫の鳴き声に目を向けると、詩乃ちゃんたちが呼んでくれた。
「行こう…瞬」
「うん!」
先生はふたりでいるときだけ名前を呼んでくれていた。
あとは、気を張ってないときにぽろっと出ていた…と、思う。
流れていく星にいつかの約束を重ねながら、先生の手を引っ張って歩く。
いつか僕の気持ちをもっとちゃんと伝えられますようにって…もっと先生たちと一緒にいたいって。
「今日の分は満点だな」
「そっか。ちょっと自信なかったから安心した」
「…やるか?」
「え?」
「天体観測」
この状況になってからというもの、下ばかり見て星なんてもうずっと目にしていなかった。
「いいの?先生なのに悪いことして…」
「おまえはよく夜中学園に忍びこんでやってただろ?…気が向いたら明日の夕方屋上に来い」
先生が望んでいる答えが分からない。ただ、すごく興味があった。
「…分かった、ちゃんと行く」
「そうか」
先生のひどく安心した顔に、答えを間違えなかったと考えてはっとする。
【俺にはもっと本音をぶつけていい。正解を探していい子のふりをしなくていいんだ】
【放っておいて】
【…悪かった】
あのとき先生はいい子じゃなくていいって言った。
思ったことを話すってどうすればいいんだろう。
「…で、私に相談に来たってことか」
「うん。言っちゃったら困らせちゃいそうで上手く話せなくて…詩乃ちゃんはどうしてるのかなって」
詩乃ちゃんはちょっとだけ僕に似ている。
だから、訊いたら答えが見つかるんじゃないかって思ってた。
「特に意識してることはないな。まあ、心配をかけないようにとは思うけど…自分の気持ちを言葉にして、相手の言葉も汲み取る。
特に嬉しいとか楽しい気持ちは相手と共有したいって思うんだ」
僕には、詩乃ちゃんみたいなことはできない。
曖昧な言葉を返すことしかできなかったけど、彼女はまた後でと言ってどこかへ行ってしまった。
「なんだ、ここにいたのか」
「先生?」
天体望遠鏡を磨いていると、先生がハンカチみたいなものをひらひらとふって声をかけてきた。
どうするんだろうと思っていると、望遠鏡のレンズを拭いてさらりと告げる。
「もうみんないるから」
「え?」
顔をあげたときには先生の姿はなくて、望遠鏡を担いで屋上に向かう。
この時期に見えるものなんてなかったはずだけど、生きていたときの記憶が全部だとは限らない。
「お、やっと来たみたいですよ」
「どうしてみんないるの?」
ひな君の隣にいる人は知らない人だけど、先生の他に詩乃ちゃんや黒猫がいるのが見えた。
「先生から、ちょっとしたお疲れ様会程度なら許されるだろうって誘ってもらったんだ。
お弁当も作ってきたから、よければ食べてみてほしい」
「僕、死んでるのに食べていいの?」
みんなに返せるものなんて何もないのに、この人たちは僕のことを怒ったりしないみたいだ。
「当たり前だろ?多少は食べないと栄養失調で倒れるし、少しでも力になりたかったんだ」
「…ありがとう。そっちのお姉さんは誰?」
「私は桜良。あなたのことを陽向から聞いて、少し話をしてみたかったの。よければ紅茶もめしあがれ」
「いいの?」
「勿論」
みんな優しくしてくれる。
先生のおかげもあるだろうけど、きっと根がいい人ばかりなんだ。
「あ、流れ星…」
「きた!先生が言ってたとおりになりましたね!」
「…まあ、今回はこれ頼りだったけどな」
他の面々がわいわい楽しそうにしているのを、詩乃ちゃんがくれたおにぎりを食べながら眺める。
その光景が、今の僕にはどんなものより輝いて見えるのだ。
「悪かったな、ふたりきりじゃなくて」
「ううん。今すごく楽しいよ。だから…ありがとう先生」
今度はちゃんと言えた。本当は心配してくれて嬉しかったんだ。
なのに、僕は意地になって周りに助けを求めなかった。
どうにもならないって諦めて、最後は自分で…。
だけど、それがあってここにいる。
みんなの役に立ちたい…僕が死んでも存在した理由はそれかもしれない。
「【流星群ほどではないが、多数の星が降る夜になる】」
「え?」
「未来予知日記って知ってるか?」
「話だけなら聞いたことあるけど、まさか先生がいつも持ってるそれなの?」
「そうだ」
先生がどうして苦しそうな表情をしているのか分からないけど、はっきりしたことがひとつある。
「貴重なものを僕の為に使ってくれてありがとう」
「素直になったもんだ」
先生は嬉しそうに笑っていて、詩乃ちゃんの言葉の意味を知る。
嬉しいことを相手と共有できたらもっと嬉しくなった。
やっぱり照れくさいけど、多分これでいいんだ。
黒猫の鳴き声に目を向けると、詩乃ちゃんたちが呼んでくれた。
「行こう…瞬」
「うん!」
先生はふたりでいるときだけ名前を呼んでくれていた。
あとは、気を張ってないときにぽろっと出ていた…と、思う。
流れていく星にいつかの約束を重ねながら、先生の手を引っ張って歩く。
いつか僕の気持ちをもっとちゃんと伝えられますようにって…もっと先生たちと一緒にいたいって。
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