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第6章『七夕騒動』
第47話
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「いやあ、まさか狸のいたずらだったなんてね」
苦しい言い訳ではあったが、あながち間違ってはいない報告だ。
「その狸はどうしたの?」
「山に帰してきた。だからもう心配ないよ、生徒会長様」
これ以上説明は不要だろうとすぐさまその場を離れる。
私にはまだやらなければならないことがあるからだ。
「佐伯幸香さんの一件について報告があります」
職員会に乱入し、一晩でまとめた報告書を配布した。
「加害生徒が佐伯さんの家に行ったという証言を集めました。詳しい調査はこれからですが、彼女は命を絶とうとしました。
…この件はまだ片づいていません。佐伯幸香さんの心を壊してしまった責任を負う必要があると考えます」
いつものように苛ついた様子の校長と教頭を無視して職員室を出る。
「体調はどうだ?」
「大丈夫だよ。ありがとう先生」
一緒に抜け出した先生に声をかけられ、職員会を荒らしたことを少し反省しつつ監査室へ歩みをすすめる。
あのあと、ほとんど動けなかった私に先生が付き添ってくれた。
陽向も一緒に来ると話していたけど、桜良の側にいた方がいいと伝えるとしょんぼりした様子で放送室へ向かったようだ。
「授業、出なくていいのか?」
「日数はもう少し余裕があるし、午後からでいいかな」
先生は何を言うわけでもなく放っておいてくれた。
手の甲の傷が少し痛むが、生徒会に提出する報告書を仕上げたい。
「先輩、お疲れ様です!」
放課後、走ってきた陽向の首筋にはスタンガンの痕がついている。
「ごめん。痛むだろう」
「先輩のせいじゃないし、桜良には死ななかったからって褒められたし、それで充分です。生徒会に提出する報告書ですか?」
「うん。最終チェックをしてたところなんだ」
そんなことを話しているとゆっくり扉が開かれる。
「佐伯幸香にこれを渡してほしいと言われた」
「お見舞いに行ってたのか?」
「母親に呼び出されたら行くしかないだろ?」
先生の答えはもっともだ。
渡された手紙に目を通すと、謝罪の言葉とこれからどうしたいかが書かれていた。
「なんて書いてました?」
「謝罪と、高卒認定があと2教科で終わるから頑張りますって書かれてる。…先生、併修生扱いにはできないのか?」
「その手があったか」
「ヘイシュウセイってなんですか?」
「これを読んだら分かる」
この学園には併修生という仕組みがある。
本来であれば、通信制や定時制の生徒が早く卒業できるように平日授業を別教室で受ける仕組みだ。
ただ、それなら昼間の生徒が通信制や定時制の授業を受けて単位を取るのはどうだろう。
「逆パターンって通るんですかね?」
「分からない。前例があれば通りやすいだろうけど、そうじゃない場合は厳しいかもしれないな」
「過去に18例あるはずだ。そのうち16例が実際に単位を落とさず卒業してる」
先生だって忙しいはずなのに、わざわざ調べてくれていたのだろう。
私が言わなくても佐伯先輩にもう話していたのかもしれない。
「折原はもう帰った方がいい。あまり働きすぎると体を壊すぞ」
「昨日も穂乃に心配かけたしそうさせてもらうよ。陽向、悪いけどその資料を生徒会に届けておいてくれないか?」
「了解です!」
あの場所に行くのは嫌だろうに、それでも引き受けてくれたことに感謝しかない。
帰り支度をすませてすぐ穂乃に連絡した。
【今日はバイトもないし早く帰るよ。なんでも食べたいものを用意するから見たら返信してくれ】
また左手が痛んでそっとさする。
私はまだまだ弱い。火炎刃を使う度に倒れるわけにもいかないし、怪我が多いと心配させてしまう。
「…もっと強くならないと」
誰に言うでもなく自然と零れたその言葉は、茜色の空に吸いこまれていった。
苦しい言い訳ではあったが、あながち間違ってはいない報告だ。
「その狸はどうしたの?」
「山に帰してきた。だからもう心配ないよ、生徒会長様」
これ以上説明は不要だろうとすぐさまその場を離れる。
私にはまだやらなければならないことがあるからだ。
「佐伯幸香さんの一件について報告があります」
職員会に乱入し、一晩でまとめた報告書を配布した。
「加害生徒が佐伯さんの家に行ったという証言を集めました。詳しい調査はこれからですが、彼女は命を絶とうとしました。
…この件はまだ片づいていません。佐伯幸香さんの心を壊してしまった責任を負う必要があると考えます」
いつものように苛ついた様子の校長と教頭を無視して職員室を出る。
「体調はどうだ?」
「大丈夫だよ。ありがとう先生」
一緒に抜け出した先生に声をかけられ、職員会を荒らしたことを少し反省しつつ監査室へ歩みをすすめる。
あのあと、ほとんど動けなかった私に先生が付き添ってくれた。
陽向も一緒に来ると話していたけど、桜良の側にいた方がいいと伝えるとしょんぼりした様子で放送室へ向かったようだ。
「授業、出なくていいのか?」
「日数はもう少し余裕があるし、午後からでいいかな」
先生は何を言うわけでもなく放っておいてくれた。
手の甲の傷が少し痛むが、生徒会に提出する報告書を仕上げたい。
「先輩、お疲れ様です!」
放課後、走ってきた陽向の首筋にはスタンガンの痕がついている。
「ごめん。痛むだろう」
「先輩のせいじゃないし、桜良には死ななかったからって褒められたし、それで充分です。生徒会に提出する報告書ですか?」
「うん。最終チェックをしてたところなんだ」
そんなことを話しているとゆっくり扉が開かれる。
「佐伯幸香にこれを渡してほしいと言われた」
「お見舞いに行ってたのか?」
「母親に呼び出されたら行くしかないだろ?」
先生の答えはもっともだ。
渡された手紙に目を通すと、謝罪の言葉とこれからどうしたいかが書かれていた。
「なんて書いてました?」
「謝罪と、高卒認定があと2教科で終わるから頑張りますって書かれてる。…先生、併修生扱いにはできないのか?」
「その手があったか」
「ヘイシュウセイってなんですか?」
「これを読んだら分かる」
この学園には併修生という仕組みがある。
本来であれば、通信制や定時制の生徒が早く卒業できるように平日授業を別教室で受ける仕組みだ。
ただ、それなら昼間の生徒が通信制や定時制の授業を受けて単位を取るのはどうだろう。
「逆パターンって通るんですかね?」
「分からない。前例があれば通りやすいだろうけど、そうじゃない場合は厳しいかもしれないな」
「過去に18例あるはずだ。そのうち16例が実際に単位を落とさず卒業してる」
先生だって忙しいはずなのに、わざわざ調べてくれていたのだろう。
私が言わなくても佐伯先輩にもう話していたのかもしれない。
「折原はもう帰った方がいい。あまり働きすぎると体を壊すぞ」
「昨日も穂乃に心配かけたしそうさせてもらうよ。陽向、悪いけどその資料を生徒会に届けておいてくれないか?」
「了解です!」
あの場所に行くのは嫌だろうに、それでも引き受けてくれたことに感謝しかない。
帰り支度をすませてすぐ穂乃に連絡した。
【今日はバイトもないし早く帰るよ。なんでも食べたいものを用意するから見たら返信してくれ】
また左手が痛んでそっとさする。
私はまだまだ弱い。火炎刃を使う度に倒れるわけにもいかないし、怪我が多いと心配させてしまう。
「…もっと強くならないと」
誰に言うでもなく自然と零れたその言葉は、茜色の空に吸いこまれていった。
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