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第6章『七夕騒動』
第45話
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「なんとかなりそうですね」
「そうなったらいいけど、一筋縄ではいかなそうだな」
あれから桜良の放送どおりの時間になり、ざわざわと人間ではない何かの気配が多目的ホール付近に集まりはじめた。
「なんかいっぱい来そうだね。ひな君は隠れてて」
「隠れるのって性に合わないんだけどな…」
陽向はそう呟きながら、近くの戸棚の後ろに身を隠した。
「というか、ちびは戦えるのか?」
「そっか、ひな君は見てないもんね。…大丈夫だよ。噂なんかなんでも、足手まといになったりしないから」
勢いよく包丁を動かしたかと思うと、侵入してきた黒い霧が一瞬で消え去った。
それを皮切りにひたすら火矢を撃ち続ける。
《おのれ、人間め…何故邪気で死んでいない?》
「あんたたちこそ、なんで人間を殺そうとするんだ?どの種族であれ原則禁止のはずだろ」
昔、この地には人間とそうじゃないものが共存できる社会を目指した人々がいたらしい。
その時の取り決めのひとつがそれだ。
「余所者だから知らなかったのかもしれないけど、ここでは人間が妖に手を出すのは原則禁止なんだ。…もちろん逆も然りなんだけどね」
《おまえたちは我々に手出ししてもいいのか?》
「先に攻撃されたら、追い出す程度にはね。…まあ、最近は人間側もそうじゃない側もそれを忘れてる奴等が多いみたいだけど」
相手の軍団は皆鉤爪のようなものがついている。
短冊を切り裂いた一件はこれで解決できるはずだ。
《人間の都合なんぞ知らん。…おまえら、やれ!》
話し合いでどうにかしたかったが、そういうわけにもいかなかったらしい。
「じゃあ、私たちもあんたたちの都合を無視することにする」
もう1度矢を放ったが、鉤爪のようなものであっさり折られてしまった。
《まずは小娘から後悔させてやる》
直接燃やすようなことはしたくなかったが仕方ない。
札を構えようとすると、横から包丁が飛んできた。
「駄目だよ、僕のことを忘れちゃ」
瞬は満面の笑みを浮かべ、地面に刺さったそれを引き抜いた。
《何故人間の味方をする?》
「知らないの?…死者にだってちゃんと人間として生きた時間があるんだよ」
あれだけ鋭い爪相手でも瞬は押し負けていない。
なんとか援護しようと試みたが、今の私にその術はなかった。
《消えろ、雑魚が!》
「……伏せろ!」
瞬を炎で囲むように包みこみ、迷うことなく火炎刃を繰り出す。
《さっきより激しい炎、だと…》
断末魔の叫びを聞きたいわけじゃなかったけど、そんなことを言ってはいられない。
「それ以上妖力を失いたくないならこの地から去れ。…次は本気で消しにいく」
低い声で話しただけなのに、相手はすっかり怯えた様子で消えていった。
瞬の周りに仕掛けた炎を解いた瞬間、瞬が心配そうに私を見ている。
「詩乃ちゃん、大丈夫?」
「これくらいなら問題ない。今夜はこれで終わりみたいだし、本当によかった」
やっぱりあれを使った後は疲れるけど、まだ早い時間だし穂乃には遅くなると伝えてある。
「陽向は大丈夫か?」
「放送室に行くって言ってたけど、全然流れなかったね」
途中で何かあったのか、原稿が間に合わなかったのか…恐らく前者だ。
「探しに行こう」
「学園中を歩くのは大変だよ?」
「それ以外に方法がない」
さっきからずっと電話をかけているが繋がらない。
電源が切れていないらしいのが特に不気味だ。
「瞬、先生を呼んできてくれないか?知恵を借りたい」
「分かった」
瞬が走り去るのとほぼ同時に、反対側の扉が開かれる。
「…陽向?」
相手の気配がおかしいと感じる直前、うっかり名前を呼んでしまった。
「すみません先輩」
「なんでそんなに謝って…」
陽向の背中にカッターナイフが突きつけられているのが目に入り、何故今まで現れなかったのかを察した。
「か、監査部は皆殺しにしてやる…キヒヒ…」
相手の様子がおかしいのは、背後に憑いている人間ではない何かのせいだろうか。
「そうなったらいいけど、一筋縄ではいかなそうだな」
あれから桜良の放送どおりの時間になり、ざわざわと人間ではない何かの気配が多目的ホール付近に集まりはじめた。
「なんかいっぱい来そうだね。ひな君は隠れてて」
「隠れるのって性に合わないんだけどな…」
陽向はそう呟きながら、近くの戸棚の後ろに身を隠した。
「というか、ちびは戦えるのか?」
「そっか、ひな君は見てないもんね。…大丈夫だよ。噂なんかなんでも、足手まといになったりしないから」
勢いよく包丁を動かしたかと思うと、侵入してきた黒い霧が一瞬で消え去った。
それを皮切りにひたすら火矢を撃ち続ける。
《おのれ、人間め…何故邪気で死んでいない?》
「あんたたちこそ、なんで人間を殺そうとするんだ?どの種族であれ原則禁止のはずだろ」
昔、この地には人間とそうじゃないものが共存できる社会を目指した人々がいたらしい。
その時の取り決めのひとつがそれだ。
「余所者だから知らなかったのかもしれないけど、ここでは人間が妖に手を出すのは原則禁止なんだ。…もちろん逆も然りなんだけどね」
《おまえたちは我々に手出ししてもいいのか?》
「先に攻撃されたら、追い出す程度にはね。…まあ、最近は人間側もそうじゃない側もそれを忘れてる奴等が多いみたいだけど」
相手の軍団は皆鉤爪のようなものがついている。
短冊を切り裂いた一件はこれで解決できるはずだ。
《人間の都合なんぞ知らん。…おまえら、やれ!》
話し合いでどうにかしたかったが、そういうわけにもいかなかったらしい。
「じゃあ、私たちもあんたたちの都合を無視することにする」
もう1度矢を放ったが、鉤爪のようなものであっさり折られてしまった。
《まずは小娘から後悔させてやる》
直接燃やすようなことはしたくなかったが仕方ない。
札を構えようとすると、横から包丁が飛んできた。
「駄目だよ、僕のことを忘れちゃ」
瞬は満面の笑みを浮かべ、地面に刺さったそれを引き抜いた。
《何故人間の味方をする?》
「知らないの?…死者にだってちゃんと人間として生きた時間があるんだよ」
あれだけ鋭い爪相手でも瞬は押し負けていない。
なんとか援護しようと試みたが、今の私にその術はなかった。
《消えろ、雑魚が!》
「……伏せろ!」
瞬を炎で囲むように包みこみ、迷うことなく火炎刃を繰り出す。
《さっきより激しい炎、だと…》
断末魔の叫びを聞きたいわけじゃなかったけど、そんなことを言ってはいられない。
「それ以上妖力を失いたくないならこの地から去れ。…次は本気で消しにいく」
低い声で話しただけなのに、相手はすっかり怯えた様子で消えていった。
瞬の周りに仕掛けた炎を解いた瞬間、瞬が心配そうに私を見ている。
「詩乃ちゃん、大丈夫?」
「これくらいなら問題ない。今夜はこれで終わりみたいだし、本当によかった」
やっぱりあれを使った後は疲れるけど、まだ早い時間だし穂乃には遅くなると伝えてある。
「陽向は大丈夫か?」
「放送室に行くって言ってたけど、全然流れなかったね」
途中で何かあったのか、原稿が間に合わなかったのか…恐らく前者だ。
「探しに行こう」
「学園中を歩くのは大変だよ?」
「それ以外に方法がない」
さっきからずっと電話をかけているが繋がらない。
電源が切れていないらしいのが特に不気味だ。
「瞬、先生を呼んできてくれないか?知恵を借りたい」
「分かった」
瞬が走り去るのとほぼ同時に、反対側の扉が開かれる。
「…陽向?」
相手の気配がおかしいと感じる直前、うっかり名前を呼んでしまった。
「すみません先輩」
「なんでそんなに謝って…」
陽向の背中にカッターナイフが突きつけられているのが目に入り、何故今まで現れなかったのかを察した。
「か、監査部は皆殺しにしてやる…キヒヒ…」
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