夜紅の憲兵姫

黒蝶

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第6章『七夕騒動』

第43話

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「…成程。それで俺のところに来たってわけか」
「ごめん先生。生きてる人間が何かやろうとしてるなら、大人に頼った方がいいと思ったんだ」
願い事というより最早脅迫になってしまっている短冊を見せると、先生は苦い顔をした。
「強い決意のようなものを感じるな…」
「悪戯にしては字が綺麗すぎると思うけど、誰が書いたものか当てるのは難しい」
不特定多数が出入りできるうえ、誰でも書くことができるからこそ生徒会主催のイベントは成り立っている。
それを一旦止めるとなると、それなりの理由が必要だ。
「2年前みたいに、犯行予告ってことですかね?」
「2年前…ああ、そんなこともあったな」
一方は怪異が悪戯半分で書いたものだったが、もう一方はしつこいストーカーによるものだった。
「あの子、元気みたいですよ。桜良と時々手紙でやりとりしてるんです」
「そうか。ひとまず安心した」
いくら監査部とはいえ、連絡先を個人的な理由で勝手に調べるのは当然禁止されている。
「桜良の友だちなのか?」
「友だちじゃないけど腐れ縁だって言ってました。詳しいことは教えてもらってないんです」
話を聞き終わるのと同時に監査室の電話が鳴る。
「俺出ましょうか?」
「ふたりとも出るな」
「何かあるのか?」
「恐らくだが、この電話はろくなものじゃない。耳を塞いでおけ」
そのうち、誰もいないことを告げる機会音声が鳴り響いて留守電になった。
『御用の方はメッセージをどうぞ』
「耳を塞げ」
訳も分からず言われたとおりにしたが、陽向は首を傾げたまま電話を見つめている。
その直後、先生の忠告の意味を知ることになった。
「あ、あは、なんか、体…」
「陽向?」
耳を塞いでいても聞こえてくる狂ったような笑い声で、留守電の声はかき消された。
そうこうしていると、陽向が口から泡を吹く。
「どうしたんだ、大丈夫か!?」
「…やっぱりこうなったか」
「何がおこったんだ?」
先生は倒れこんで動かなくなった陽向の目を閉じながら、苦い表情ではっきり言った。
「呪詛だ。ただ、受話器越しにこれだけやれる奴はそんなにいない」
「人間じゃない方だと思うか?」
「俺はそう思う」
先生の真剣な表情から、事の深刻さが読み取れる。
しばらく待っていると陽向が起きあがった。
「あ、すみません。また死んじゃってました?」
「気をつけてくれ。今日こそ死なせずにすみそうだと思っていたのに、なんで耳を塞がなかった?」
「どんな影響があるかは死なない俺じゃないと試せないでしょ?普通の生徒が電話取っちゃったらまずいなって…」
はっとして先生の方を見る。
まだ陽向が死なないことを話していなかったはずだ。
「やっぱり傷口も塞がるのか」
「はい!だから助かってます」
「もう少し怪我を減らさないと木嶋が心配する」
「分かってるつもりなんですけど、俺ならいっかって思っちゃうんです」
「そのままじゃいつか心が死ぬ」
先生も私と同じようなことを感じたらしい。
陽向からすれば古くなったスニーカーを買い換えるような感覚なのかもしれないが、古くなるまで大切にしたものを簡単に忘れたりはしないだろう。
「知らないうちに心がすり減ったら私は悲しい。1番悲しむのは桜良だろうけど、周りに悲しむ人たちがいることを忘れるな」
「肝に銘じます」
改めて物騒な短冊を見てみると、なんとなく見覚えがある気がした。
「先生、ここ5年でおこった事件があれば教えてほしい」
「資料ならここに仕舞ってある」
「ありがとう」
ずっと疑問だった。
何故今の高等部3年には監査部がひとりもいないのか。
全員辞めるように言われたとしたら、それに繋がるものがここにあるはずだ。
資料のある1頁に目が止まる。
「…そういうことか」
「先輩?」
「ごめん。バイトだから一旦抜ける」
嫌な予感が的中しないことを祈りながら、ある生徒についてできる限り調べてみる。
そこに並んだ文字は残酷なものだった。
【xx年度監査部メンバーによる内部情報流出に関して】
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