夜紅の憲兵姫

黒蝶

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第6章『七夕騒動』

第42話

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「少し、話を聞かせてもらえないだろうか」
「え、憲兵姫!?」
第一発見者として名前があがっていた生徒を見つけ、ひとまず声をかけてみる。
「あ、あの…」
「切り裂かれていた短冊について教えてほしいんだ」
「短冊…あ、あの糸くずみたいに細く切り裂かれてたやつですよね?」
たまたま自分が願い事を書いた短冊を結びに行くと、ひらひら落ちてきたらしい。
「ありがとう」
「い、いえ」
照れ屋みたいだったけど、丁寧に説明してくれて本当に助かった。
他にもあった証言を頭で整理しながら監査室に戻ると、陽向が外に向かって手をふっている。
「誰にふってるんだ?」
「猫又にです」
「結月、何か知ってたか?」
「怪しい奴は見てないらしいです。ただ、最近このあたりに新しい妖が来た痕跡があるって言ってました。
集団みたいだけど興味ないって…自由気ままですよね」
それらの仕業と決定づけるものがない以上、もう少し調査してみるしかない。
「取り敢えず放課後警護してみるか」
「放課後はやめといた方がいいんじゃないですか?」
「なんでそう思う?」
「まあ、先輩がやるなら俺もやりますけど…」
「バイトまではやるよ。できる対策はちゃんと取りたいんだ」
「分かりました。じゃあ俺もホームルームが終わったら中庭か昇降口行きますね」
午後の授業を適当にやりすごし、いつの間にか生徒たちがまばらになる時間になっていた。
「先輩」
「ごめん。生徒会長様に捕まってた」
用があるとき、必ずと言っていいほどファンを引き連れて話しかけてくる。
彼女たちからの視線が怖い気もするが、気のせいだと思っておこう。
「先ぱ、」
「憲兵姫、お仕事ですか?」
「一応警護をしているんだ。気をつけて帰るように」
「憲兵姫が好きなお菓子って何かありますか?」
「お菓子か…最近あんまり見かけないけど、シガレットが好きなんだ。基本的にどんなものでも食べられる」
「憲兵姫、こっち向いてください!」
陽向が何か言いかけていたのに、何故か話したことがない生徒たちが周りに集まりはじめた。
若干困惑したものの、話しかけてくれる人たちを無視するわけにはいかない。
ようやく人混みがはけてきた頃、陽向は苦笑いでお茶をくれた。
「ありがとう」
「…やっぱりこうなりましたね」
「知ってたのか?」
「先輩は自分で気づいてないと思うけど、すごい人気者なんです。
その先輩がこのあたりを見回りしてるって分かったらファンの子たちが黙ってませんよ」
「そういうものなのか」
「そういうものです」
クラスに馴染むのを諦めたからか、そんなことを考えたことなんてなかった。
理由なき悪意を向けられるよりはいいがなんだか照れくさい。
「今は何もおこらなかったみたいだな」
「そうですね。まあ、それはそれでありがたいんですけど」
陽向のいうとおりだ。問題がないならそれでいい。
ただ、今回に限っては少し事情が違う。
「何やってるの?」
「うわ!?」
背後から忍び寄る瞬に気づかなかったのか、陽向は驚いて尻もちをついてしまった。
「吃驚した…なんでちびがここにいるんだよ」
「詩乃ちゃんがもてもてだったのと、ひな君が不審者みたいにしてるのが気になったんだ」
「ひな君って…ていうか不審者ってどういうことだよ!?」
「きょろきょろというか、にやにやしてうろついてる感じかな…ちょっとだけ詩乃ちゃんのストーカーっぽかった」
「ストーカーとか言われると地味に傷つくからやめて…」
俯いた陽向をよしよし撫でながら、瞬は短冊に手を伸ばす。
「…ねえ、これって事件?」
人の願い事を勝手に読むのは悪くて見ないようにしていたが、瞬が持っていた1枚に釘付けになった。
【世界よ呪われろ。世界が滅ばないなら、あいつらをこの世界にいられないようにしてやる】
その文字には殺意がこめられていた。
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