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第6章『七夕騒動』
第41話
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「よって、この公式は、」
「先生、そこ間違ってるよ」
「…悪い、間違ってた。ここの式はこっちのを参照して…」
先生の授業を受けているはずなのに、なんだかふたりの先生から習っているように感じる。
「室星先生ってやっぱりかっこいいよね…もっと話したい」
「女子から見てもかっこいいのか。俺も監査部にスカウトされないかな…」
近くの生徒たちがわいわい話す中、私はひとり息を吐いた。
「詩乃ちゃん、なんでため息吐いてたの?」
「別にため息は吐いてないぞ。…ただ、先生の人気と二人三脚の授業を楽しんでいただけだ」
「そっか。楽しかったんだ…」
授業終わり、楽しそうにしているのは瞬の方な気もするが黙って話を聞くことにする。
「流山」
「なに?」
「ここ、間違ってる」
「だってこっちの公式じゃ難しいんだもん」
「たしかに答えは出せるがこっちを使った方がいい。応用問題で躓くぞ」
遠くから見ていると兄弟みたいだ。
ふたりの関係がどうなるのか少し不安だったが、あんなふうに仲良く話せているなら大丈夫だろう。
「僕、今日は帰るね」
「もし退屈ならこの宿題を持っていけ。…終わったらまた採点してやるよ」
「ありがとう」
瞬は心なしか嬉しそうだ。
次の授業に出るつもりになれなくて監査室へ向かおうとすると、前からきらきらオーラを放った人物が近づいてきた。
「やあ、折原さん」
「…生徒会長様がわざわざ私に何の用だ?」
「生徒会からの依頼、受けてくれない?」
「内容による。書類があるなら貰っていくけど」
「これだよ」
この学園では、毎年七夕近くになると用意された笹に生徒たちの願い事が結ばれる。
笹も短冊も生徒会が主体となって用意されるはずだが、何故監査部に話がまわってきたんだろう。
「ちゃんと読んでおく」
ファンたちを連れて遠ざかる背中を見送り、監査室へ入ると陽向が突っ伏していた。
どうやら寝ているらしく、近づいても全く気づかない。
【願いを書いた短冊が切り裂かれる事案について】
【不自然に笹が折れ曲がる等の被害報告が相次ぐ】
穏やかじゃなさそうな話が並べられていて、つい読みふけってしまう。
次に時計を確認したときにはもう4時限目が終わるところだった。
「あれ…詩乃先輩?」
「ごめん、起こしたか?」
「いや、いつの間に寝ちゃってたんですかね…全然覚えがなくて…ふぁ……」
大きく伸びをした陽向はばらばらになった資料に目を向ける。
「警備の依頼ですか?」
「どうやらそうらしい。人間の仕業ならなんとかなりそうだが、どう思う?」
載せられていた写真のものは刃物で切ったにしては綺麗すぎるし細すぎる。
「猫の爪、とか?それならひとり当てはまるのがいますけど…」
「結月は人間嫌いだが、嫌がらせするような奴じゃない。でも、爪っていうのはいい着眼点だと思う。
…人間じゃない何かの仕業なら、目的が何かもはっきりさせておきたいな」
「ですね。警護するなら他のメンバーも呼びますか?」
「いや。まずはふたりでやってみよう」
他のメンバーは部活の夏季大会や家庭の事情がある。
それを無視して朝や放課後の時間を縛るわけにはいかない。
「先輩、優しい…」
「優しいのは陽向だろう?ふたりでって言っても嫌がらずに引き受けてくれるんだから」
嫌なことは断っていいと何度も言っているのに、断られたことなんて数えるほどしかない。
「先輩となら嫌じゃないですよ。俺が死んでも引かないじゃないですか」
「今回は死なせない」
中庭あたりで生徒たちが楽しそうに短冊片手にはしゃいでいる。
その時間を護るのが私たち監査部の仕事だ。
「…今回は夜仕事案件になるかもしれないな」
「相手が人間じゃなかったらそうなりますね」
「今度は桜良を傷つけずに終わらせたいな」
「頑張りましょう!」
桜良のことを想うのと同じくらい自分を大切にしてほしい…そう言ったところで伝わらない可能性が高いから黙っておくが、いつかは分かってくれると思いたい。
「一先ず話を聞きに行くか」
「ですね」
「先生、そこ間違ってるよ」
「…悪い、間違ってた。ここの式はこっちのを参照して…」
先生の授業を受けているはずなのに、なんだかふたりの先生から習っているように感じる。
「室星先生ってやっぱりかっこいいよね…もっと話したい」
「女子から見てもかっこいいのか。俺も監査部にスカウトされないかな…」
近くの生徒たちがわいわい話す中、私はひとり息を吐いた。
「詩乃ちゃん、なんでため息吐いてたの?」
「別にため息は吐いてないぞ。…ただ、先生の人気と二人三脚の授業を楽しんでいただけだ」
「そっか。楽しかったんだ…」
授業終わり、楽しそうにしているのは瞬の方な気もするが黙って話を聞くことにする。
「流山」
「なに?」
「ここ、間違ってる」
「だってこっちの公式じゃ難しいんだもん」
「たしかに答えは出せるがこっちを使った方がいい。応用問題で躓くぞ」
遠くから見ていると兄弟みたいだ。
ふたりの関係がどうなるのか少し不安だったが、あんなふうに仲良く話せているなら大丈夫だろう。
「僕、今日は帰るね」
「もし退屈ならこの宿題を持っていけ。…終わったらまた採点してやるよ」
「ありがとう」
瞬は心なしか嬉しそうだ。
次の授業に出るつもりになれなくて監査室へ向かおうとすると、前からきらきらオーラを放った人物が近づいてきた。
「やあ、折原さん」
「…生徒会長様がわざわざ私に何の用だ?」
「生徒会からの依頼、受けてくれない?」
「内容による。書類があるなら貰っていくけど」
「これだよ」
この学園では、毎年七夕近くになると用意された笹に生徒たちの願い事が結ばれる。
笹も短冊も生徒会が主体となって用意されるはずだが、何故監査部に話がまわってきたんだろう。
「ちゃんと読んでおく」
ファンたちを連れて遠ざかる背中を見送り、監査室へ入ると陽向が突っ伏していた。
どうやら寝ているらしく、近づいても全く気づかない。
【願いを書いた短冊が切り裂かれる事案について】
【不自然に笹が折れ曲がる等の被害報告が相次ぐ】
穏やかじゃなさそうな話が並べられていて、つい読みふけってしまう。
次に時計を確認したときにはもう4時限目が終わるところだった。
「あれ…詩乃先輩?」
「ごめん、起こしたか?」
「いや、いつの間に寝ちゃってたんですかね…全然覚えがなくて…ふぁ……」
大きく伸びをした陽向はばらばらになった資料に目を向ける。
「警備の依頼ですか?」
「どうやらそうらしい。人間の仕業ならなんとかなりそうだが、どう思う?」
載せられていた写真のものは刃物で切ったにしては綺麗すぎるし細すぎる。
「猫の爪、とか?それならひとり当てはまるのがいますけど…」
「結月は人間嫌いだが、嫌がらせするような奴じゃない。でも、爪っていうのはいい着眼点だと思う。
…人間じゃない何かの仕業なら、目的が何かもはっきりさせておきたいな」
「ですね。警護するなら他のメンバーも呼びますか?」
「いや。まずはふたりでやってみよう」
他のメンバーは部活の夏季大会や家庭の事情がある。
それを無視して朝や放課後の時間を縛るわけにはいかない。
「先輩、優しい…」
「優しいのは陽向だろう?ふたりでって言っても嫌がらずに引き受けてくれるんだから」
嫌なことは断っていいと何度も言っているのに、断られたことなんて数えるほどしかない。
「先輩となら嫌じゃないですよ。俺が死んでも引かないじゃないですか」
「今回は死なせない」
中庭あたりで生徒たちが楽しそうに短冊片手にはしゃいでいる。
その時間を護るのが私たち監査部の仕事だ。
「…今回は夜仕事案件になるかもしれないな」
「相手が人間じゃなかったらそうなりますね」
「今度は桜良を傷つけずに終わらせたいな」
「頑張りましょう!」
桜良のことを想うのと同じくらい自分を大切にしてほしい…そう言ったところで伝わらない可能性が高いから黙っておくが、いつかは分かってくれると思いたい。
「一先ず話を聞きに行くか」
「ですね」
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