夜紅の憲兵姫

黒蝶

文字の大きさ
上 下
47 / 302
第6章『七夕騒動』

第41話

しおりを挟む
「よって、この公式は、」
「先生、そこ間違ってるよ」
「…悪い、間違ってた。ここの式はこっちのを参照して…」
先生の授業を受けているはずなのに、なんだかふたりの先生から習っているように感じる。
「室星先生ってやっぱりかっこいいよね…もっと話したい」
「女子から見てもかっこいいのか。俺も監査部にスカウトされないかな…」
近くの生徒たちがわいわい話す中、私はひとり息を吐いた。
「詩乃ちゃん、なんでため息吐いてたの?」
「別にため息は吐いてないぞ。…ただ、先生の人気と二人三脚の授業を楽しんでいただけだ」
「そっか。楽しかったんだ…」
授業終わり、楽しそうにしているのは瞬の方な気もするが黙って話を聞くことにする。
「流山」
「なに?」
「ここ、間違ってる」
「だってこっちの公式じゃ難しいんだもん」
「たしかに答えは出せるがこっちを使った方がいい。応用問題で躓くぞ」
遠くから見ていると兄弟みたいだ。
ふたりの関係がどうなるのか少し不安だったが、あんなふうに仲良く話せているなら大丈夫だろう。
「僕、今日は帰るね」
「もし退屈ならこの宿題を持っていけ。…終わったらまた採点してやるよ」
「ありがとう」
瞬は心なしか嬉しそうだ。
次の授業に出るつもりになれなくて監査室へ向かおうとすると、前からきらきらオーラを放った人物が近づいてきた。
「やあ、折原さん」
「…生徒会長様がわざわざ私に何の用だ?」
「生徒会からの依頼、受けてくれない?」
「内容による。書類があるなら貰っていくけど」
「これだよ」
この学園では、毎年七夕近くになると用意された笹に生徒たちの願い事が結ばれる。
笹も短冊も生徒会が主体となって用意されるはずだが、何故監査部に話がまわってきたんだろう。
「ちゃんと読んでおく」
ファンたちを連れて遠ざかる背中を見送り、監査室へ入ると陽向が突っ伏していた。
どうやら寝ているらしく、近づいても全く気づかない。
【願いを書いた短冊が切り裂かれる事案について】
【不自然に笹が折れ曲がる等の被害報告が相次ぐ】
穏やかじゃなさそうな話が並べられていて、つい読みふけってしまう。
次に時計を確認したときにはもう4時限目が終わるところだった。
「あれ…詩乃先輩?」
「ごめん、起こしたか?」
「いや、いつの間に寝ちゃってたんですかね…全然覚えがなくて…ふぁ……」
大きく伸びをした陽向はばらばらになった資料に目を向ける。
「警備の依頼ですか?」
「どうやらそうらしい。人間の仕業ならなんとかなりそうだが、どう思う?」
載せられていた写真のものは刃物で切ったにしては綺麗すぎるし細すぎる。
「猫の爪、とか?それならひとり当てはまるのがいますけど…」
「結月は人間嫌いだが、嫌がらせするような奴じゃない。でも、爪っていうのはいい着眼点だと思う。
…人間じゃない何かの仕業なら、目的が何かもはっきりさせておきたいな」
「ですね。警護するなら他のメンバーも呼びますか?」
「いや。まずはふたりでやってみよう」
他のメンバーは部活の夏季大会や家庭の事情がある。
それを無視して朝や放課後の時間を縛るわけにはいかない。
「先輩、優しい…」
「優しいのは陽向だろう?ふたりでって言っても嫌がらずに引き受けてくれるんだから」
嫌なことは断っていいと何度も言っているのに、断られたことなんて数えるほどしかない。
「先輩となら嫌じゃないですよ。俺が死んでも引かないじゃないですか」
「今回は死なせない」
中庭あたりで生徒たちが楽しそうに短冊片手にはしゃいでいる。
その時間を護るのが私たち監査部の仕事だ。
「…今回は夜仕事案件になるかもしれないな」
「相手が人間じゃなかったらそうなりますね」
「今度は桜良を傷つけずに終わらせたいな」
「頑張りましょう!」
桜良のことを想うのと同じくらい自分を大切にしてほしい…そう言ったところで伝わらない可能性が高いから黙っておくが、いつかは分かってくれると思いたい。
「一先ず話を聞きに行くか」
「ですね」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

処理中です...