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第5章『先生の懺悔と透明人間』
第40話
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「お姉ちゃん!」
「心配かけてごめん。私はもう大丈夫だから、そんな顔をしなくていい」
目が覚めたときには保健室のベッドに寝かせられていて、起きてからすぐ白井先生が車で送ってくれた。
どうやら熱中症ということで処理されたらしい。
保健室まで運んでくれたのは恐らく陽向だが、その姿を確認することはできなかった。
「先生ありがとう」
「折原さん、働きすぎには気をつけてね」
「先生の方こそ過労にならないように気をつけて」
わざわざ生徒を家まで送り届けてくれる先生なんて滅多にいない。
「本当に大丈夫なの?」
「もうすっかり元気だよ」
半分嘘だ。
体力面に少し問題が残っているし、霊力もまだ回復しきっていない。
それでも、穂乃に心配をかけない答えはこれしかなかった。
「それならよかった」
少しの罪悪感を抱えながら家に入ると、そこには豪華な夕飯が用意されていた。
「これ、全部用意してくれたのか?」
「今日は特売だったからいっぱい買えたの!どうかな?」
「ありがとう。すごく助かったよ」
穂乃は嬉しそうに笑ってご飯をよそってくれた。
「お姉ちゃんとのご飯、楽しみにしてたんだから」
「私も楽しみだった」
夕食後、片づけを終えた私はすぐ陽向に連絡した。
『先輩、起きました?』
「迷惑をかけてごめん。あれから大丈夫だったか?」
『ちびは地縛霊になりました。けど、怨念がないから浮遊霊とほぼ変わりません。
ただ、学園の外に出るのがかなり難しいみたいで…先生が近々出られるようにするって言ってました』
「そうか。桜良とおまえはどうなんだ?」
陽向は頭から血を流していたし、桜良は透明人間を呼び出すために力を使ったはずだ。
『桜良は多分明日にはよくなります。俺はあのあと1回死んだので元気です』
「それは元気よくいえることじゃないだろ…」
『すみません』
陽向がてへっと首を傾けたが、今のを桜良が見たらどう思うだろう。
『先輩』
「どうした?」
『寿命を削ったりしてませんよね?』
「たしかにあれは扱いを間違えれば死ぬかもしれないものだ。けど、そう簡単に死ぬようなものじゃない」
『ならいいですけど…気をつけてくださいね。先輩は簡単に死んじゃうんですから』
画面越しに見える陽向は少し疲れているように見える。
それに、死ねない相手のその言葉はとても重い。
「大丈夫だよ。穂乃がいるうちは命を捨てるようなことはしないから」
『回復しきってないなら俺の霊力いります?』
「そういう方法もあるんだろうけど、自然と回復するから大丈夫だよ」
聞いた限りでは先生も大丈夫そうだ。
迷惑をかけたことは謝りたいけど、多分明日会えるはずだからそのときに話を聞いてみよう。
「…ごめん、一旦切る」
外に蔓延るおかしな気配を確認せずにはいられない。
《オマエ、美味イ?》
「…どうだろうな」
もう紅は塗ってきたし、あとは矢で射抜いたら終わりだ。
相手の開いた大きな口に炎の矢を撃つと、苦しげな声をあげて去っていった。
【詩乃、ごめんなさい。あなたに重いものを背負わせるようなことをして…。
だけど、これからもずっとあなたのことが大好きよ。それだけは忘れないでね】
月が見え隠れしている空を見ていると、あの人のことを思い出す。
「私は大丈夫だよ。ちゃんと仲間もできたんだ」
今度余裕ができたら墓参りにでも行こう。
なんとなくあの人と話せる気がするから。
「…で、そうなったのか」
翌朝、早速監査室で出くわした先生の首には流山瞬がしっかり掴まっていた。
「あちこち行かれるよりいい」
「詩乃ちゃん、その…昨日はごめん」
「もう噂に振り回されそうになくてよかった。でも、先生を困らせない程度にな?」
「分かってるよ」
「俺たちはもう行く。今日は職員会だからな」
「いってらっしゃい」
先生は心なしか嬉しそうだ。
本人に言ってもきっと認めないだろうから黙っておくけど、昨日よりずっとすっきりした顔をしている。
「…資料整理、頑張るか」
これからふたりはきっと仲良く暮らしていくだろう。
その事実だけで充分だ。
ポケットでいつもとは違う着信音がしたが、そのまま無視して作業を進めた。
「心配かけてごめん。私はもう大丈夫だから、そんな顔をしなくていい」
目が覚めたときには保健室のベッドに寝かせられていて、起きてからすぐ白井先生が車で送ってくれた。
どうやら熱中症ということで処理されたらしい。
保健室まで運んでくれたのは恐らく陽向だが、その姿を確認することはできなかった。
「先生ありがとう」
「折原さん、働きすぎには気をつけてね」
「先生の方こそ過労にならないように気をつけて」
わざわざ生徒を家まで送り届けてくれる先生なんて滅多にいない。
「本当に大丈夫なの?」
「もうすっかり元気だよ」
半分嘘だ。
体力面に少し問題が残っているし、霊力もまだ回復しきっていない。
それでも、穂乃に心配をかけない答えはこれしかなかった。
「それならよかった」
少しの罪悪感を抱えながら家に入ると、そこには豪華な夕飯が用意されていた。
「これ、全部用意してくれたのか?」
「今日は特売だったからいっぱい買えたの!どうかな?」
「ありがとう。すごく助かったよ」
穂乃は嬉しそうに笑ってご飯をよそってくれた。
「お姉ちゃんとのご飯、楽しみにしてたんだから」
「私も楽しみだった」
夕食後、片づけを終えた私はすぐ陽向に連絡した。
『先輩、起きました?』
「迷惑をかけてごめん。あれから大丈夫だったか?」
『ちびは地縛霊になりました。けど、怨念がないから浮遊霊とほぼ変わりません。
ただ、学園の外に出るのがかなり難しいみたいで…先生が近々出られるようにするって言ってました』
「そうか。桜良とおまえはどうなんだ?」
陽向は頭から血を流していたし、桜良は透明人間を呼び出すために力を使ったはずだ。
『桜良は多分明日にはよくなります。俺はあのあと1回死んだので元気です』
「それは元気よくいえることじゃないだろ…」
『すみません』
陽向がてへっと首を傾けたが、今のを桜良が見たらどう思うだろう。
『先輩』
「どうした?」
『寿命を削ったりしてませんよね?』
「たしかにあれは扱いを間違えれば死ぬかもしれないものだ。けど、そう簡単に死ぬようなものじゃない」
『ならいいですけど…気をつけてくださいね。先輩は簡単に死んじゃうんですから』
画面越しに見える陽向は少し疲れているように見える。
それに、死ねない相手のその言葉はとても重い。
「大丈夫だよ。穂乃がいるうちは命を捨てるようなことはしないから」
『回復しきってないなら俺の霊力いります?』
「そういう方法もあるんだろうけど、自然と回復するから大丈夫だよ」
聞いた限りでは先生も大丈夫そうだ。
迷惑をかけたことは謝りたいけど、多分明日会えるはずだからそのときに話を聞いてみよう。
「…ごめん、一旦切る」
外に蔓延るおかしな気配を確認せずにはいられない。
《オマエ、美味イ?》
「…どうだろうな」
もう紅は塗ってきたし、あとは矢で射抜いたら終わりだ。
相手の開いた大きな口に炎の矢を撃つと、苦しげな声をあげて去っていった。
【詩乃、ごめんなさい。あなたに重いものを背負わせるようなことをして…。
だけど、これからもずっとあなたのことが大好きよ。それだけは忘れないでね】
月が見え隠れしている空を見ていると、あの人のことを思い出す。
「私は大丈夫だよ。ちゃんと仲間もできたんだ」
今度余裕ができたら墓参りにでも行こう。
なんとなくあの人と話せる気がするから。
「…で、そうなったのか」
翌朝、早速監査室で出くわした先生の首には流山瞬がしっかり掴まっていた。
「あちこち行かれるよりいい」
「詩乃ちゃん、その…昨日はごめん」
「もう噂に振り回されそうになくてよかった。でも、先生を困らせない程度にな?」
「分かってるよ」
「俺たちはもう行く。今日は職員会だからな」
「いってらっしゃい」
先生は心なしか嬉しそうだ。
本人に言ってもきっと認めないだろうから黙っておくけど、昨日よりずっとすっきりした顔をしている。
「…資料整理、頑張るか」
これからふたりはきっと仲良く暮らしていくだろう。
その事実だけで充分だ。
ポケットでいつもとは違う着信音がしたが、そのまま無視して作業を進めた。
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