夜紅の憲兵姫

黒蝶

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第5章『先生の懺悔と透明人間』

第38話

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「おい、今の割れ方なんだ!?」
「ビーカーが次々に粉々に…」
「ロッカーの扉にへこみができてる…なんなのこれ!」
実験で爆発したにしては随分壮絶な現場だっだ。
「落ち着いて一旦教室に戻って」
授業を受けていた生徒たちは逃げ出し、その場には沈黙が残る。
「何があったんだ?」
「俺にもさっぱり分からない。何かがおきたのは間違いないが、詳しいことは何も…」
「…流山瞬が突然姿を消したんだ。関係あると思うか?」
「流山が?」
「もしかすると、私たちが知らないところで噂が広がっているのかもしれない」
ふたりで話をしていると、陽向がものすごい勢いで駆けこんだ。
「遅かったか…」
「どうした?」
「桜良がラジオ越しに教室の音を拾ってたんですけど、透明人間の噂が広がっているみたいだったんです。
凶暴化した透明人間は人間たちを襲い、最後は自我を失うらしい…みたいな」
たまたま融合しただけなのに、もしおかしく広がった噂の影響を受けているとしたら一大事だ。
「とにかく探そう」
「でも、流石に授業が終わらないなか探すのは厳しいです」
「このまま放っておくわけにもいかないだろ」
そんな話をしていると、校内放送が流れ出す。
「『生徒の皆さんにお知らせします。本日は午後からの授業が全面中止になります。
帰りのホームルームが終わり次第、速やかに下校してください』」
「俺の彼女、思いきり良すぎでしょ」
陽向も知らなかったようだが、教師たちがどたばたと教室に向かうところを見ていると成功したらしい。
「前から思っていたが、木嶋には放送器具に干渉する力でもあるのか?」
「まあ、説明すると長くなるんですけど…って、先生にも効かないんですか!?」
「俺はこうしてないとまずいだろうな」
先生は眼鏡をかけたまま苦笑している。
「話には聞いてましたけど、眼鏡かけてもイケメンですね」
「そんなことはないと思うが…一先ず俺たちもホームルームに行くか」
「そうだな」
先生は陽向のクラス担任だ。
流石に担任教諭がいないのは困る。
私も帰りのホームルームだけ出席して、それからすぐ昼食を摂ることにした。
「あれって透明人間の仕業じゃない?」
「なんか最近流行ってるやつ?襲われたらどうしよう」
「…ごちそうさまでした」
噂というものにわくわくするのは分かる。
ただし、それが面白半分に広まっていくのは問題だ。
「桜良、平気か?」
「あの程度なら大丈夫です」
放送室に立ち寄ると、陽向と仲睦まじく戯れているところだったらしい。
「邪魔したな」
「いえ。私たちもご飯を食べ終わったところなので…。あの、いなくなってしまった子を呼び出しましょうか?」
「できるのか?」
「何かしらの機材がないと難しいので、音楽室が体育館ならなんとか」
「なら体育館に呼び出してほしい。1時間後なら誰もいなくなってるだろうし…どうにかしてみせる」
桜良はゆっくり頷くと、無造作に置かれていた放送器具の準備をはじめた。
「陽向は桜良の手伝いをしててくれ。私は先生に伝えてくる」
「分かりました!」
足早に監査室へ向かったが、先生の姿はない。
職員室にはあまりいない先生が監査室以外で行きそうな場所を、私は3つしか知らなかった。
「…先生、ちょっといいか?」
「どうした?」
「流山瞬を体育館に呼び出そうと思う。もしよかったら先生にも来てほしい」
「…俺にそんな資格はない」
流山瞬がいた教室で、先生は何かを探しているようだった。
その手を止めてそう話す姿はなんだか苦しそうだ。
「流山瞬は先生のことが大好きなんだ。どんな結果になるとしても、1番話したい相手は私じゃない。
先生が苦しいのは分かる。けど、もう1度向き合えるかもしれないんだ。それを資格がないとか言って棒にふる必要はないんじゃないか?」
どんなに苦い想い出だったとしても、話ができるチャンスを捨ててしまうのはもったいない。
「…少し考えさせてくれ」
「あと40分で呼び出せるはずだから、答えが決まったら体育館に来てほしい。待ってるから」
先生は俯くばかりで私の言葉が伝わったかどうか分からない。
それでも今は来てくれると信じて準備をすすめるしかないのだ。
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