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第5章『先生の懺悔と透明人間』
第31話
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「何も出てきませんでしたね…」
「そうだな」
私たちはあの槍について早速調査をはじめたが、何の手がかりも掴めずにいた。
人為的なものならまた狙われる可能性があるが、校内だけで使われるものなら寧ろここを出た方がいいということになる。
「できれば今日中に見つけたかったんですけど、そう簡単にはいかないですね」
「もう少し探して何も見つからなかったら、今日は解散しよう」
「了解です!」
槍のことを考えてはみたものの、絶対にこれだという確証が持てない。
「先輩?何かありました?」
「ああ…ごめん、なんでもない」
「それにしても、最近変なことが増えましたね。前からなかったわけじゃなかったけど、また死んだのかって桜良に心配かけちゃいました」
いくら死なないからといって心が擦り減らないわけじゃない。
陽向が否定しても、私はそのことを忘れないようにしておこう。
ポケットから携帯のバイブ音がして確認する。
そこには、二度と見たくない名前が表示されていた。
…そうか、あの槍は神宮寺義仁の──
「先輩!」
前から勢いよく飛んできた黒い塊を寸でのところでかわし、そのまま札をかざす。
「──爆ぜろ」
爆音が鳴り響く中、陽向と一緒にひたすら走る。
「どこまで距離を離しますか?」
「できるだけ遠くへ逃げよう」
廊下の突き当たりを曲がって階段を駆け下りると、どうやったのか先回りされていた。
この槍が複数あるはずがない。
「……先輩は放送室まで逃げてもらえますか?」
「陽向、おまえは、」
「いいんです。俺は肉の壁になるくらいしかできないので」
後輩の笑顔が少し引きつっているのを見逃さなかった私は、走り去ると見せかけて弓を取り出した。
「先輩!?」
「狙いは私だろうからおまえが逃げろ。…ここを通してほしいなら私を倒してみせろ!」
槍使いが見えない以上、槍そのものをどうにかするしかない。
なんとか避け続けていたが、後ろから誰かが歩いてきた。
「折原、どうし、」
「今だけ何も訊かずに一緒に来てくれ、先生」
何も知らない人を巻きこむわけにはいかない。
ましてや視えているかどうかさえ分からないのに、いきなり攻撃されているから走れと伝える勇気はなかった。
「監査室で手伝ってほしいことがあるんだ」
「それは構わないが、いつもこんな時間まで残っているのか?」
「裏口の開け方だって分かるし、ここでやりたいことがあるんだ」
階段を駆け上がり、監査室まであと少しというところで前から物凄い勢いで何かが飛んでくる。
今度は避けきれそうにない…目を閉じると、無数の糸が現れた。
「なんでまた助けてくれたんだ?…ごめん先生、先に行ってくれ」
その場に崩れ落ちた糸を手に持って振り返ると、先生の姿がいつもと違った。
眼鏡をかけていて、手には茶色の革製と思われる手袋がはめられている。
更に驚きなのが、その手袋から無数の糸が飛び出していることだ。
「やっぱり先生の仕業だったのか」
「このまま明かさずにいたかったが、そういうわけにはいかなかったらしいな。あの槍が何物か知ってるか?」
「なんとなくは分かるけど、術者の顔が見えないから断定できない」
「傷つけるという明確な目的があって動いていると思うか?」
「少なくても私はそう感じてる。陽向が1度やられたんだ」
「分かった」
先生はそう答えて、糸を出している左手を槍の方に向ける。
無数の糸は一瞬で槍を地面に叩きつけた。
縛りつけられたままだった槍は姿を消し、その場には糸だけが残る。
「怪我はないか?」
「ああ、うん。ありがとう。先生は強いんだな」
「強いのは折原たちだろ」
「なあ、なんで教えてくれなかったんだ?」
「知る必要がないと思っていたからだ」
先生は白衣の中から本を取り出すと、中身を読んで安堵した様子を見せる。
「先生?」
「知られたからにはちゃんと話す。今日はもう遅いから帰った方がいい。心配しなくてもあの槍は襲ってこない」
「明日の夕方、話を聞かせてほしい。陽向にも話していいか?」
「岡副なら問題ない」
「分かった。それじゃあ先生、また明日」
先生が何者なのかを知れば、少しは先生が考えていることが分かるようになるだろうか。
室星先生という人についてちゃんと知りたい。
監査室でよく分からない本に手を当てている先生と別れて、急ぎ足で放送室へ向かった。
「そうだな」
私たちはあの槍について早速調査をはじめたが、何の手がかりも掴めずにいた。
人為的なものならまた狙われる可能性があるが、校内だけで使われるものなら寧ろここを出た方がいいということになる。
「できれば今日中に見つけたかったんですけど、そう簡単にはいかないですね」
「もう少し探して何も見つからなかったら、今日は解散しよう」
「了解です!」
槍のことを考えてはみたものの、絶対にこれだという確証が持てない。
「先輩?何かありました?」
「ああ…ごめん、なんでもない」
「それにしても、最近変なことが増えましたね。前からなかったわけじゃなかったけど、また死んだのかって桜良に心配かけちゃいました」
いくら死なないからといって心が擦り減らないわけじゃない。
陽向が否定しても、私はそのことを忘れないようにしておこう。
ポケットから携帯のバイブ音がして確認する。
そこには、二度と見たくない名前が表示されていた。
…そうか、あの槍は神宮寺義仁の──
「先輩!」
前から勢いよく飛んできた黒い塊を寸でのところでかわし、そのまま札をかざす。
「──爆ぜろ」
爆音が鳴り響く中、陽向と一緒にひたすら走る。
「どこまで距離を離しますか?」
「できるだけ遠くへ逃げよう」
廊下の突き当たりを曲がって階段を駆け下りると、どうやったのか先回りされていた。
この槍が複数あるはずがない。
「……先輩は放送室まで逃げてもらえますか?」
「陽向、おまえは、」
「いいんです。俺は肉の壁になるくらいしかできないので」
後輩の笑顔が少し引きつっているのを見逃さなかった私は、走り去ると見せかけて弓を取り出した。
「先輩!?」
「狙いは私だろうからおまえが逃げろ。…ここを通してほしいなら私を倒してみせろ!」
槍使いが見えない以上、槍そのものをどうにかするしかない。
なんとか避け続けていたが、後ろから誰かが歩いてきた。
「折原、どうし、」
「今だけ何も訊かずに一緒に来てくれ、先生」
何も知らない人を巻きこむわけにはいかない。
ましてや視えているかどうかさえ分からないのに、いきなり攻撃されているから走れと伝える勇気はなかった。
「監査室で手伝ってほしいことがあるんだ」
「それは構わないが、いつもこんな時間まで残っているのか?」
「裏口の開け方だって分かるし、ここでやりたいことがあるんだ」
階段を駆け上がり、監査室まであと少しというところで前から物凄い勢いで何かが飛んでくる。
今度は避けきれそうにない…目を閉じると、無数の糸が現れた。
「なんでまた助けてくれたんだ?…ごめん先生、先に行ってくれ」
その場に崩れ落ちた糸を手に持って振り返ると、先生の姿がいつもと違った。
眼鏡をかけていて、手には茶色の革製と思われる手袋がはめられている。
更に驚きなのが、その手袋から無数の糸が飛び出していることだ。
「やっぱり先生の仕業だったのか」
「このまま明かさずにいたかったが、そういうわけにはいかなかったらしいな。あの槍が何物か知ってるか?」
「なんとなくは分かるけど、術者の顔が見えないから断定できない」
「傷つけるという明確な目的があって動いていると思うか?」
「少なくても私はそう感じてる。陽向が1度やられたんだ」
「分かった」
先生はそう答えて、糸を出している左手を槍の方に向ける。
無数の糸は一瞬で槍を地面に叩きつけた。
縛りつけられたままだった槍は姿を消し、その場には糸だけが残る。
「怪我はないか?」
「ああ、うん。ありがとう。先生は強いんだな」
「強いのは折原たちだろ」
「なあ、なんで教えてくれなかったんだ?」
「知る必要がないと思っていたからだ」
先生は白衣の中から本を取り出すと、中身を読んで安堵した様子を見せる。
「先生?」
「知られたからにはちゃんと話す。今日はもう遅いから帰った方がいい。心配しなくてもあの槍は襲ってこない」
「明日の夕方、話を聞かせてほしい。陽向にも話していいか?」
「岡副なら問題ない」
「分かった。それじゃあ先生、また明日」
先生が何者なのかを知れば、少しは先生が考えていることが分かるようになるだろうか。
室星先生という人についてちゃんと知りたい。
監査室でよく分からない本に手を当てている先生と別れて、急ぎ足で放送室へ向かった。
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