夜紅の憲兵姫

黒蝶

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第4章『小雨の拾い物』

第27話

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「折原」
放課後、先生に呼び止められる。
「もしかして、急ぎの仕事か?」
「そうじゃない。困ってたから呼びに来た」
生徒会室の前に人だかりができていて、その中心にいる人物に目がいった。
「こ、こんにちは…」
「可愛い!誰探してるの?」
「先生の家族とか?」
「生徒の妹って可能性もあるだろ?」
姉バカだと思われてしまうだろうが、穂乃は誰が見ても可愛い。
ランドセルを背負ったままわてわてしている周りには、生徒会のメンバーがほぼ勢揃いしていた。
「ちょっと通してください」
「え、憲兵姫!?」
はじめは監査部と対立しがちだった生徒会とも、今となっては協力関係にある。
「詩乃ちゃんの妹か」
いちいちきらきらしている男に私は淡々と告げる。
「馴れ馴れしく呼ばないでほしいんだが…まあいい。妹は返してもらうよ、生徒会長」
「お姉ちゃん…!」
「行こう。ここはあと10秒で戦場になる」
「戦場?」
できるだけ距離を取ると、すぐ後ろに人だかりができた。
「成宮会長、今日も素敵です!」
「ああ…ありがとう」
「ずるい、私だって会長とお話したいのに!」
穂乃が少し不安そうにしているのを感じて、先生と一緒に監査室の近くまで行くことにした。
「ありがとう先生。教えてくれて助かったよ」
「俺はただおまえに声をかけただけだ」
「あの…お姉ちゃん、さっきの人って、」
「成宮稜。生徒会長なんだけど、さっき見たとおり人気者だ」
あの男の周りには人だかりができやすいし、クラスが違うから会議のとき以外はできるだけ距離を取ってる。
「えっと…ありがとうございました」
「俺はただ教師として仕事をしただけだ」
そう言った室星先生の瞳が少し寂しげに揺れた気がしたが、細かいことは訊けずに終わった。
「失礼します」
「こんにちは…」
すぐに放送室へ向かうと、桜良が丁寧に出迎えてくれた。
「陽向は来ていないのか?」
桜良はゆっくり首を縦にふり、穂乃に手を差し出した。
「仲良くしてほしいって言ってる。握手して挨拶」
「あ、うん!折原穂乃です。お姉ちゃんがいつもお世話になっています。あの、お姉さんは声が出ないの?」
穂乃なりにタイミングを見計らっていたようだが、桜良は少し困ったような顔をした。
「簡単に説明すると、桜良は今頑張って声を出しすぎた影響で話せないんだ。
けど、ノートがあれば会話はできる」
「そうだったんだ…。お姉さんの名前、教えてください」
思ったより早くふたりが打ち解けているようでなによりだ。
陽向は放送室にいるとばかり思っていたが、問題が発生したのだろうか。
「お待たせ…って、先輩もう来てたんですか?」
「早く穂乃を連れてきたかったからな。問題でもあったのか?」
「いえ、何もありません」
ふたりが楽しそうに話す姿を少し離れた場所から見守る。
「穂乃ちゃんから話を聞いてもいいですか?」
「勿論だ。私ももっと詳しく知りたい」
陽向と穂乃は元々仲がいいので大丈夫だろう。
「穂乃ちゃん、早速で悪いんだけど教えてほしいことがあるんだ」
「あのハンカチのこと?」
「うん。持ち主について覚えていることを教えてほしい」
穂乃は一瞬戸惑っているように見えたが、紅茶を飲みながらゆっくり話してくれた。
「体調が悪そうな人がいたから声をかけたの。お手伝いできることはありませんかって…。
それで、家の近くまで一緒に来てほしいって言われて行ったんだ。杖をついていたし、荷物が重そうだったから」
聞いている噂とずれがあるものの、手助けした穂乃に危害を加えるつもりは最初からなかったように感じる。
「それで、その人が落としていったの?」
「うん。荷物がいっぱいだったから、落としたことに気づいてないんじゃないかなって思ったんだ。
すぐに探したけど見つからなくて、だけどどうしても返したかったの」
「そっか。穂乃ちゃんは優しいね」
陽向と穂乃は楽しそうに話を続けた。
持ち主が怪異である可能性を話すべきか迷っている。
「【視えるなら、知りたいって思うんじゃないでしょうか?】」
「そうだな。ありがとう桜良」
大きく息を吸い、意を決して穂乃に声をかけた。
「穂乃、実はそのハンカチは怪異が持ち主である可能性が高いんだ。一時期流行ってた、ハッピーキャンディを配ってるおじいさんのものかもしれない。
もしそうだとしたら、穂乃は、」
「やだ」
私が何を言うつもりだったかなんてお見通しだったらしい。
「私も一緒に探す。困っているならちゃんと返したいもん」
「そうか」
1度こうすると決めたときの穂乃は折れない。
「じゃあ、俺たちも探しますね」
「ありがとう。できる範囲で頼む」
こうして、私たちはハッピーキャンディの噂を追うことになった。
形はどうであれ、穂乃と一緒にいられる時間が増えるのは嬉しい。
「できるだけ早く見つけよう」
「うん!」
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