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第4章『小雨の拾い物』
第26話
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翌朝、私は放送室にいた。
「おはようございます」
「おはよう」
桜良は一礼して本を読みはじめた。
「すみません。まだ本調子じゃないみたいで…」
「別に謝る必要はない。ちゃんと挨拶してくれたし、それで充分だ」
私たちだけに視えているものなのか知りたかったので、穂乃から預かったハンカチをふたりにも見てほしかった。
「なあ、ふたりとも。これが何に見える?」
「え?普通に綺麗なハンカチですけど…どこかで買ったんですか?」
「……!」
桜良は何故か驚いたようにこちらに駆け寄ってくる。
「どうした?何かおかしなところでもあったか?」
「【ハッピーキャンディの噂って知っていますか?】」
「どんな話なのか聞いたことはある程度だ」
困っているおじいさんを助けたら、お礼にど飴がもらえる。
それを誰にも見られないように食べれば幸福が訪れ、大勢の前で食べれば逆に不幸が…という内容だ。
「まさか、その飴玉じいさんの持ち主なのか?」
「飴玉じいさんって…」
「この地域で模倣した不審者が出たことがあるんだ」
困っているふりをして小さい子どもたちを騙し、何人もの子どもたちが被害に遭った。
物を取られた子もいれば誘拐された子もいる。
何か言いたいことがあったらしく、桜良がスケッチブックを見せてくれた。
「【そのおじいさんが持っているものかもしれません】」
「それなら余計にまずいな。早く返さないと困っているかもしれない」
常に持ち物ひとつとっても気をつけているはずだ。
当然落とし主が誰であれ困っている可能性が高いが、怪異だった場合はその比ではない。
「そのハンカチ、どうしたんですか?」
「穂乃が蹲ってる人に声をかけたらしい。しばらくその人を介抱して足元を見たら落ちてたって言っていた。
あの子は交番に届けようとしたけど、ただの人間にはこれが視えないだろうからな」
「【ミノさん?】」
「穂乃っていうのはこう書くんだ。私のたったひとりの家族だよ。
妹は小学生だから、ひとりで持ち主を探すのも大変だろうなって…」
「だから先輩が探そうと思ったんですね」
「ああ。今日は学校が終わったら監査室に来ることになってる」
「本当に仲いいですよね」
「普通だと思うけど…まあ、仲が悪いわけじゃない」
本当は私が小学校へ行くつもりだったのだが、かっこよくて目立つから駄目だと、絶対に自分が学園に行くと釘を刺されてしまった。
そんなふうに言われたら嫌だとは言えないじゃないか。
「【お菓子を焼いておきます。美味しい紅茶も用意しておきますね】」
「ここに連れてきていいのか?」
「【監査室は人が多いでしょう?いきなり沢山の学生に囲まれたら戸惑うんじゃないかと思うんです】」
「成程、だから放送部の関係者以外が出入りしないここにってことか。
そういうことならありがたくお邪魔させてもらうよ」
桜良は楽しそうに笑っていて、陽向はどこからか料理道具一式を用意していた。
「ここには本当になんでもあるんだな」
「怒らないんですか?」
「放送器具を壊すどころか修理してもらっているわけだし、私に文句を言う資格はない。
ただ、一般的な放送室より部屋数が多くて色々持ち込めそうだと思っただけだ」
料理するスペースに綺麗に磨かれているカトラリーやティーセット、ふかふかそうなベッド…食材さえあればここで暮らしていけそうだ。
「放課後妹を連れてくる。人見知りだけど悪い子じゃない」
「【お待ちしています】」
「穂乃ちゃんに会うの、久しぶりだな…」
ふたりが親切にしてくれてとても助かっている。
今度何かお礼しようと思いつつ、放送室を後にした。
「おはよう」
「おはよう先生」
「折原、」
「職員会の資料ならもうすぐ仕上がる。あと、落書き事件に関しては該当生徒3人から話を聞く予定で…」
穂乃が来るまでにまだまだやることがありそうだ。
「おはようございます」
「おはよう」
桜良は一礼して本を読みはじめた。
「すみません。まだ本調子じゃないみたいで…」
「別に謝る必要はない。ちゃんと挨拶してくれたし、それで充分だ」
私たちだけに視えているものなのか知りたかったので、穂乃から預かったハンカチをふたりにも見てほしかった。
「なあ、ふたりとも。これが何に見える?」
「え?普通に綺麗なハンカチですけど…どこかで買ったんですか?」
「……!」
桜良は何故か驚いたようにこちらに駆け寄ってくる。
「どうした?何かおかしなところでもあったか?」
「【ハッピーキャンディの噂って知っていますか?】」
「どんな話なのか聞いたことはある程度だ」
困っているおじいさんを助けたら、お礼にど飴がもらえる。
それを誰にも見られないように食べれば幸福が訪れ、大勢の前で食べれば逆に不幸が…という内容だ。
「まさか、その飴玉じいさんの持ち主なのか?」
「飴玉じいさんって…」
「この地域で模倣した不審者が出たことがあるんだ」
困っているふりをして小さい子どもたちを騙し、何人もの子どもたちが被害に遭った。
物を取られた子もいれば誘拐された子もいる。
何か言いたいことがあったらしく、桜良がスケッチブックを見せてくれた。
「【そのおじいさんが持っているものかもしれません】」
「それなら余計にまずいな。早く返さないと困っているかもしれない」
常に持ち物ひとつとっても気をつけているはずだ。
当然落とし主が誰であれ困っている可能性が高いが、怪異だった場合はその比ではない。
「そのハンカチ、どうしたんですか?」
「穂乃が蹲ってる人に声をかけたらしい。しばらくその人を介抱して足元を見たら落ちてたって言っていた。
あの子は交番に届けようとしたけど、ただの人間にはこれが視えないだろうからな」
「【ミノさん?】」
「穂乃っていうのはこう書くんだ。私のたったひとりの家族だよ。
妹は小学生だから、ひとりで持ち主を探すのも大変だろうなって…」
「だから先輩が探そうと思ったんですね」
「ああ。今日は学校が終わったら監査室に来ることになってる」
「本当に仲いいですよね」
「普通だと思うけど…まあ、仲が悪いわけじゃない」
本当は私が小学校へ行くつもりだったのだが、かっこよくて目立つから駄目だと、絶対に自分が学園に行くと釘を刺されてしまった。
そんなふうに言われたら嫌だとは言えないじゃないか。
「【お菓子を焼いておきます。美味しい紅茶も用意しておきますね】」
「ここに連れてきていいのか?」
「【監査室は人が多いでしょう?いきなり沢山の学生に囲まれたら戸惑うんじゃないかと思うんです】」
「成程、だから放送部の関係者以外が出入りしないここにってことか。
そういうことならありがたくお邪魔させてもらうよ」
桜良は楽しそうに笑っていて、陽向はどこからか料理道具一式を用意していた。
「ここには本当になんでもあるんだな」
「怒らないんですか?」
「放送器具を壊すどころか修理してもらっているわけだし、私に文句を言う資格はない。
ただ、一般的な放送室より部屋数が多くて色々持ち込めそうだと思っただけだ」
料理するスペースに綺麗に磨かれているカトラリーやティーセット、ふかふかそうなベッド…食材さえあればここで暮らしていけそうだ。
「放課後妹を連れてくる。人見知りだけど悪い子じゃない」
「【お待ちしています】」
「穂乃ちゃんに会うの、久しぶりだな…」
ふたりが親切にしてくれてとても助かっている。
今度何かお礼しようと思いつつ、放送室を後にした。
「おはよう」
「おはよう先生」
「折原、」
「職員会の資料ならもうすぐ仕上がる。あと、落書き事件に関しては該当生徒3人から話を聞く予定で…」
穂乃が来るまでにまだまだやることがありそうだ。
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