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第3章『恋愛電話』
番外篇『葉桜散る頃』
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俺の名前は岡副陽向。
高等部1年特進クラスのチャラ男だ。
不真面目そうな俺にも大切なものがある。
それは──
「桜良、全部終わった!」
桜良は五月蝿いという顔で俺をじっと見た。
「ごめんごめん。早く伝えたくて、つい」
「【廊下は走らない】」
「反省します、ちょっとだけ」
そうこうしているうちに、詩乃先輩が俺たちのところへやってきた。
「ごめん、遅くなった。ふたりともありがとう。今回もふたりのおかけで解決できた」
「いやいや、俺はただ死んだだけですよ。桜良のおかげです」
死ぬことにはだいぶ慣れてきた。
慣れちゃいけないって先輩には言われたけど、そうでもしないとやっていられないのだ。
「桜良は平気か?疲れてるんじゃないか?」
そう訊かれた桜良は頷くばかりで、先輩は不思議そうにしている。
「…もしかして、声が出ないのか?」
先輩の質問に桜良はゆっくり首を縦にふる。
ローレライのような能力がある俺の恋人には、どうしても反動がきてしまう。
「【大したおもてなしもできなくてごめんなさい】」
「なにも桜良が謝ることじゃない。私の方こそ何も知らなくてごめん」
さらさらとノートに言葉を紡いで話す恋人の姿は、いつ見ても可愛い。
「桜良は噂を変えたり相手の感情に干渉したりできるんですけど、その後反動で声が出なくなっちゃうんです」
「どれくらいの期間なんだ?」
「長くて1週間ってところですかね…。今回は3日くらいはかかるかもしれません」
「【どうしてそんなに詳しいの?】」
桜良は不思議そうに俺を見ながら、ノートの文字を指さした。
「そんなの、ずっと一緒にいるからに決まってるじゃん」
「……」
桜良は一瞬固まっていたけど、だんだん頬が赤くなってきた。
俺の恋人は世界で1番可愛い。
「ふたりは本当に仲がいいんだな」
「でしょう?俺たち世界一なんです」
「そうだな」
先輩はただ優しく微笑んで、桜良に何かを手渡した。
彼女は俺たちをただの人間として扱ってくれる。
桜良はともかく俺は化け物だって言われても仕方ないのに、酷い言葉を浴びせられたことがない。
「【また何かあったときは協力させてください】」
「けど、その度に声が出なくなるのは大変じゃないか?」
桜良は瞬きして、すらすらと何かを書いた。
「【周りの人の役に立ちたいんです。誰かが傷つけられるのを黙ってみているだけなんて、絶対に嫌なんです】」
「そうか。それなら桜良の気持ちを尊重する」
先輩が桜良の友だちになってくれてよかった。
今この瞬間、俺以外の前でも恋人が笑ってるならそれでいい。
「それじゃあ私はもう行くよ。他にやらないといけないこともあるしな」
先輩が帰っていった後、桜良は俺をぎろりとにらんだ。
「先輩に言ったこと、怒ってる?」
今度は首を横にふって、がしがしと音をたてながら言葉を書いて見せてくれる。
「【死んだなんて聞いてない】」
彼女は俺が死ぬといつも怒る。
不死身だって分かっているにも関わらず、だ。
「いやあ、ちょっと攻撃が避けきれなくて…ごめんごめん。今回もばらばらにはならなかったし、大丈夫だよ」
ため息を吐かれてしまうんだろうと思っていると、小さな拳が胸に軽くたたきつけられた。
その表情は歪められて、不安そうに瞳が揺れる。
「桜良?」
「【死なないからといって、心に痛みが蓄積されるわけじゃない】」
俺のことを心配してくれる人がいるってことを忘れるな…先輩に言われたことはあったけど、まだ自覚が足りてなかったみたいだ。
「ごめん。本当に気をつける。けど、まさか桜良がそこまで心配してくれてるとは思わなかったな…」
そう話すと、桜良は恥ずかしそうに目を逸らした。
見ているだけでなんだか微笑ましい。
「桜良」
「…?」
「俺は桜良が心配だよ」
いつか人魚姫のように声を完全に失ってしまうかもしれない…どうしてもそんなことを考えずにはいられないのだ。
まあ、そうなったからといって桜良との関係が変わることなんてないけどね。
「【私は平気。いつものことだから】」
「俺だって桜良に元気でいてほしい。俺たち相思相愛だね」
「……【馬鹿】」
「明日は俺が放送するから、原稿考えよう!放課後の放送、休みたくないんでしょ?」
桜良はゆっくり頷いて、いつもみたいに優しく笑う。
その笑顔は天使そのもので、愛しさを抑えられずに抱きしめた。
「愛してる」
そろそろ梅雨がやってくるだろうが、俺たちの関係は変わらない。
監査部としての仕事や夜仕事をこなしながら、恋人と過ごす時間も大切にする。
そうして、先輩たちや桜良との思い出を増やしていくのだ。
高等部1年特進クラスのチャラ男だ。
不真面目そうな俺にも大切なものがある。
それは──
「桜良、全部終わった!」
桜良は五月蝿いという顔で俺をじっと見た。
「ごめんごめん。早く伝えたくて、つい」
「【廊下は走らない】」
「反省します、ちょっとだけ」
そうこうしているうちに、詩乃先輩が俺たちのところへやってきた。
「ごめん、遅くなった。ふたりともありがとう。今回もふたりのおかけで解決できた」
「いやいや、俺はただ死んだだけですよ。桜良のおかげです」
死ぬことにはだいぶ慣れてきた。
慣れちゃいけないって先輩には言われたけど、そうでもしないとやっていられないのだ。
「桜良は平気か?疲れてるんじゃないか?」
そう訊かれた桜良は頷くばかりで、先輩は不思議そうにしている。
「…もしかして、声が出ないのか?」
先輩の質問に桜良はゆっくり首を縦にふる。
ローレライのような能力がある俺の恋人には、どうしても反動がきてしまう。
「【大したおもてなしもできなくてごめんなさい】」
「なにも桜良が謝ることじゃない。私の方こそ何も知らなくてごめん」
さらさらとノートに言葉を紡いで話す恋人の姿は、いつ見ても可愛い。
「桜良は噂を変えたり相手の感情に干渉したりできるんですけど、その後反動で声が出なくなっちゃうんです」
「どれくらいの期間なんだ?」
「長くて1週間ってところですかね…。今回は3日くらいはかかるかもしれません」
「【どうしてそんなに詳しいの?】」
桜良は不思議そうに俺を見ながら、ノートの文字を指さした。
「そんなの、ずっと一緒にいるからに決まってるじゃん」
「……」
桜良は一瞬固まっていたけど、だんだん頬が赤くなってきた。
俺の恋人は世界で1番可愛い。
「ふたりは本当に仲がいいんだな」
「でしょう?俺たち世界一なんです」
「そうだな」
先輩はただ優しく微笑んで、桜良に何かを手渡した。
彼女は俺たちをただの人間として扱ってくれる。
桜良はともかく俺は化け物だって言われても仕方ないのに、酷い言葉を浴びせられたことがない。
「【また何かあったときは協力させてください】」
「けど、その度に声が出なくなるのは大変じゃないか?」
桜良は瞬きして、すらすらと何かを書いた。
「【周りの人の役に立ちたいんです。誰かが傷つけられるのを黙ってみているだけなんて、絶対に嫌なんです】」
「そうか。それなら桜良の気持ちを尊重する」
先輩が桜良の友だちになってくれてよかった。
今この瞬間、俺以外の前でも恋人が笑ってるならそれでいい。
「それじゃあ私はもう行くよ。他にやらないといけないこともあるしな」
先輩が帰っていった後、桜良は俺をぎろりとにらんだ。
「先輩に言ったこと、怒ってる?」
今度は首を横にふって、がしがしと音をたてながら言葉を書いて見せてくれる。
「【死んだなんて聞いてない】」
彼女は俺が死ぬといつも怒る。
不死身だって分かっているにも関わらず、だ。
「いやあ、ちょっと攻撃が避けきれなくて…ごめんごめん。今回もばらばらにはならなかったし、大丈夫だよ」
ため息を吐かれてしまうんだろうと思っていると、小さな拳が胸に軽くたたきつけられた。
その表情は歪められて、不安そうに瞳が揺れる。
「桜良?」
「【死なないからといって、心に痛みが蓄積されるわけじゃない】」
俺のことを心配してくれる人がいるってことを忘れるな…先輩に言われたことはあったけど、まだ自覚が足りてなかったみたいだ。
「ごめん。本当に気をつける。けど、まさか桜良がそこまで心配してくれてるとは思わなかったな…」
そう話すと、桜良は恥ずかしそうに目を逸らした。
見ているだけでなんだか微笑ましい。
「桜良」
「…?」
「俺は桜良が心配だよ」
いつか人魚姫のように声を完全に失ってしまうかもしれない…どうしてもそんなことを考えずにはいられないのだ。
まあ、そうなったからといって桜良との関係が変わることなんてないけどね。
「【私は平気。いつものことだから】」
「俺だって桜良に元気でいてほしい。俺たち相思相愛だね」
「……【馬鹿】」
「明日は俺が放送するから、原稿考えよう!放課後の放送、休みたくないんでしょ?」
桜良はゆっくり頷いて、いつもみたいに優しく笑う。
その笑顔は天使そのもので、愛しさを抑えられずに抱きしめた。
「愛してる」
そろそろ梅雨がやってくるだろうが、俺たちの関係は変わらない。
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そうして、先輩たちや桜良との思い出を増やしていくのだ。
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