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第3章『恋愛電話』
第22話
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朝支度をしていると、穂乃が少し不安そうな顔で声をかけてきた。
「お姉ちゃん、今日友だちを連れてきてもいい?」
「ああ、いいよ。ただ、今日は学校に行くからちゃんともてなせないんだ。
小学校はお昼までで終わるんだったな…。お昼ご飯はお友だちの分も用意しておいた方がいいか?」
「お姉ちゃんが迷惑じゃなければ、お願い」
穂乃のお願いには弱い。
それに、数人分増えるくらいなら問題ないだろう。
「分かった。簡単なものしかないけど用意しておく」
「ありがとう!」
元気よく家を出た穂乃の背中を見届け、ある程度資料を片づけてからすぐ監査室へ向かう。
人間が消える謎を追わなければならないが、もうひとつ疑問がある。
「そっか…。じゃあ、その子を止められなかったことを後悔してるんだね」
「私が嫌われることを恐れなければ、ちゃんと引き止めればって…」
扉を開けると陽向と向かい合って話す女子生徒がいた。
「入室中の札、かけ忘れてるぞ」
「すみません先輩」
「け、憲兵姫…!?」
「ごめん。私が聞かない方がいいなら出ていくけど、よかったら聞かせてほしい」
「分かりました」
その生徒は涙を堪えながら話してくれた。
「私のクラスの子が、遊び半分で告白するって言ってたんです。止めようとはしたけど、怖くて…あんまり強く言えませんでした。
それからその子が行方不明になってるんです。事件に巻きこまれたりしてないか心配で…」
「話してくれてありがとう」
誰かに話すという行為には相当の勇気がいる。
辛い、苦しい…そういった思いが伴う場合は特にそうだろう。
「私たちの方でも探してみるよ。警察には話したのか?」
「いいえ。家の人たちとも連絡が取れなくて、警察に行った方がいいのか迷っているんです」
「そうか。そのあたりも私たちでなんとかしよう」
「ありがとうございます!」
女子生徒の表情は少し明るくなり、そのまま帰っていった。
行方不明になった生徒は所謂不良少女で、家に帰ることの方が少ないらしい。
「家に帰りたくない理由があるんですかね?」
「それも考えられるな。大々的に報じられないのは、そういう方向で調べているからか家族が事を大きくしたくないと考えている可能性がある」
それだけ帰ってこないと流石に心配になりそうなものだが、そんないい親ばかりじゃないことは身を以て知っている。
「これって、やっぱり恋愛電話が関係してると思いますか?」
「悪戯半分でかけた可能性はあるな。好きな相手がいるからといって、必ずしもその相手にかけたとは言えない」
私のように恋愛感情がない場合は別だろうが、それが誰かしらに向けられる場合は悪戯で別の番号にかけることもできるだろう。
「要調査案件だな。夕方以降で間に合えばいいが…」
「それまでに消えた生徒が出たら終わりですよね?というか、消えた生徒の行方を知るのって難しくないですか?」
「問題はそこだ」
電話の持ち主である猫又が知らないことを私たちが知るのはほぼ不可能といっていい。
「急激に噂が流行りだしたことも関係しているのかもしれない」
「…桜良に頼みます」
「でも、」
「仕方ないです。本当は俺がどうにかできればよかったんですけど、このままだと神隠しみたいになります」
桜良を危険な目に遭わせたくない…大切な相手を想う気持ちは痛いほど分かる。
だが、それしか手がないのも事実だ。
「分かった。申し訳ないが今回も頼らせてもらおう。けど、ひとつ覚えておけ。
俺がじゃない、私たちがどうにかしないといけなかったんだ。…なんでもひとりで抱えようとするな」
「先輩…俺、やっぱり一生ついていきます!」
「長い付き合いになりそうで嬉しいよ」
ずっと張り詰めていた空気が少し緩んで、なんとなくほっとした。
「あ…」
「どうした?」
「桜良から連絡です。原稿ができたから読んでほしいって…どうします?」
「私も一緒に行っていいならお邪魔させてもらおうかな」
「是非って書いてあります」
「そうか」
恋心がなくても、ふたりの時間を邪魔してはいけないことくらいは分かる。
放送室へ移動すると、そこでは眠そうにしている桜良が待っていた。
「わざわざ来てもらってすみません。一応できたので読んでほしいです」
「分かった。見させてもらう」
「お姉ちゃん、今日友だちを連れてきてもいい?」
「ああ、いいよ。ただ、今日は学校に行くからちゃんともてなせないんだ。
小学校はお昼までで終わるんだったな…。お昼ご飯はお友だちの分も用意しておいた方がいいか?」
「お姉ちゃんが迷惑じゃなければ、お願い」
穂乃のお願いには弱い。
それに、数人分増えるくらいなら問題ないだろう。
「分かった。簡単なものしかないけど用意しておく」
「ありがとう!」
元気よく家を出た穂乃の背中を見届け、ある程度資料を片づけてからすぐ監査室へ向かう。
人間が消える謎を追わなければならないが、もうひとつ疑問がある。
「そっか…。じゃあ、その子を止められなかったことを後悔してるんだね」
「私が嫌われることを恐れなければ、ちゃんと引き止めればって…」
扉を開けると陽向と向かい合って話す女子生徒がいた。
「入室中の札、かけ忘れてるぞ」
「すみません先輩」
「け、憲兵姫…!?」
「ごめん。私が聞かない方がいいなら出ていくけど、よかったら聞かせてほしい」
「分かりました」
その生徒は涙を堪えながら話してくれた。
「私のクラスの子が、遊び半分で告白するって言ってたんです。止めようとはしたけど、怖くて…あんまり強く言えませんでした。
それからその子が行方不明になってるんです。事件に巻きこまれたりしてないか心配で…」
「話してくれてありがとう」
誰かに話すという行為には相当の勇気がいる。
辛い、苦しい…そういった思いが伴う場合は特にそうだろう。
「私たちの方でも探してみるよ。警察には話したのか?」
「いいえ。家の人たちとも連絡が取れなくて、警察に行った方がいいのか迷っているんです」
「そうか。そのあたりも私たちでなんとかしよう」
「ありがとうございます!」
女子生徒の表情は少し明るくなり、そのまま帰っていった。
行方不明になった生徒は所謂不良少女で、家に帰ることの方が少ないらしい。
「家に帰りたくない理由があるんですかね?」
「それも考えられるな。大々的に報じられないのは、そういう方向で調べているからか家族が事を大きくしたくないと考えている可能性がある」
それだけ帰ってこないと流石に心配になりそうなものだが、そんないい親ばかりじゃないことは身を以て知っている。
「これって、やっぱり恋愛電話が関係してると思いますか?」
「悪戯半分でかけた可能性はあるな。好きな相手がいるからといって、必ずしもその相手にかけたとは言えない」
私のように恋愛感情がない場合は別だろうが、それが誰かしらに向けられる場合は悪戯で別の番号にかけることもできるだろう。
「要調査案件だな。夕方以降で間に合えばいいが…」
「それまでに消えた生徒が出たら終わりですよね?というか、消えた生徒の行方を知るのって難しくないですか?」
「問題はそこだ」
電話の持ち主である猫又が知らないことを私たちが知るのはほぼ不可能といっていい。
「急激に噂が流行りだしたことも関係しているのかもしれない」
「…桜良に頼みます」
「でも、」
「仕方ないです。本当は俺がどうにかできればよかったんですけど、このままだと神隠しみたいになります」
桜良を危険な目に遭わせたくない…大切な相手を想う気持ちは痛いほど分かる。
だが、それしか手がないのも事実だ。
「分かった。申し訳ないが今回も頼らせてもらおう。けど、ひとつ覚えておけ。
俺がじゃない、私たちがどうにかしないといけなかったんだ。…なんでもひとりで抱えようとするな」
「先輩…俺、やっぱり一生ついていきます!」
「長い付き合いになりそうで嬉しいよ」
ずっと張り詰めていた空気が少し緩んで、なんとなくほっとした。
「あ…」
「どうした?」
「桜良から連絡です。原稿ができたから読んでほしいって…どうします?」
「私も一緒に行っていいならお邪魔させてもらおうかな」
「是非って書いてあります」
「そうか」
恋心がなくても、ふたりの時間を邪魔してはいけないことくらいは分かる。
放送室へ移動すると、そこでは眠そうにしている桜良が待っていた。
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「分かった。見させてもらう」
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