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第3章『恋愛電話』
第21話
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これは馬鹿げた仮説だ。
それでも、見当違いなことを言っている気もしない。
「黒猫が黒猫じゃないってことですか?」
「死霊じゃないけど普通の猫とは気配が違う。妖の類なんじゃないか?」
黒猫の方を見ると、ふっと息を吐いて一瞬で形を変えた。
「あなたたち、ただの人間じゃなかったの」
もふもふしているであろう猫耳に黒い髪、黒いメイド服のようなワンピース…そして、くねくね動いている尻尾。
「猫が喋って変身してる!」
「五月蝿いとつまみだすわよ人間」
「あんたがこの恋愛電話の持ち主か?」
「そうよ。私が大事にしている電話を人間が無理矢理使おうとするから困っていたの」
嘘を吐いている様子はないし、それならここに辿り着くことにも納得する。
「名前を教えてくれないか?」
「人間に名乗る名などないわ」
「なんでそんなに人間が嫌いなんだよ…」
陽向が拗ねたように呟くと、猫又は怒りを抑えるようにしながら低い声で言った。
「人間はすぐ裏切るし、他人を利用しても平気だからよ。騙された方が悪いなんて言い出すやつがいたり、気に入らないからって相手を絶望のどん底に堕としたり…。
そんな思いをさせられたら、誰だって積極的に関わりたいとは思わないでしょ?」
何故そこまで怒っているのか分からないが、まるで誰かが経験してきたのを見たように話す猫又に違和感を覚える。
「誰かが騙されて絶望のどん底に堕とされたのか?」
「なんでそんなことを訊くの?」
「経験がないとさっきみたいに怒れない」
「あなたたちには関係ない。電話を調べたいなら好きにすればいいわ。
でも、もしここにあるものを傷つけたら許さない」
「分かった。ありがとう」
大量の人間がこの場所を探す…そんな事態になっているのは、人間嫌いの猫又からすると迷惑だろう。
早く原因を取り除けば今より人間を見なくてすむ。
「ねえ、この糸電話も同じような効果なの?」
「それは私の個人的な趣味よ。それにしても、よくそれのことを知っていたわね」
「最近ここに来た奴等は知らなかったのか?」
「ええ。綺麗な紙コップに糸が繋がってるとか言っていたわ」
人と話すのは嫌いじゃないのか、黒猫として接したことに対して何か感じているのか…いずれにせよ、訊いたことには答えてくれた。
桃色の電話は丁寧に手入れされていて、どれだけ大事に思っているのか理解する。
「ごめんな。何があったか知らないけど、人間がおまえを傷つけて…」
「俺たちは君を傷つけるつもりはないんだ。ただ、どうして噂がこんなに広まったのかを知りたい」
「……知らない男」
しばらく黙っていた猫又はそう呟いた。
「そっか、また知らない男か…」
「チャラ男、何か知っているの?」
「俺の認識どうなってるの?…まあいいや。多分知ってるよ。こっくりさんもどきを広めた奴。
顔は見たことないけど存在は確認してる。…ですよね、先輩?」
「ああ、そんなところだ。何かされたのか?」
「横切った瞬間、許さないとか見つけたとか、よく分からないことを言っていたの。
こっちの姿は視えない人間の方が多いけど、猫の姿はただの人間にも見えるから…私に言っているわけじゃないと思っていたわ」
「けど、それから噂が広がりはじめた…」
またあの男なのかと思うとうんざりするが、ますます早く解決しないといけないことを理解した。
猫又が暴走させられてしまっては、きっと今以上に人間が消える。
関係ないと思うのも当然だ。…私だって、あんなことができる人間はひとりしか知らないから。
「先輩?」
「ああ、ごめん。…なあ、消えた人たちはどこに行ったんだ?」
「分からないわ。巻きこまれていい迷惑よ」
「そうか。また明日来る。…早朝になるかもしれないけどな」
ふたりで来た道を戻りながら考える。
猫又は人間と関わることを嫌っているが、だからこそ積極的に人間を消しにかかっているとは思えない。
「これからもう少し見回りしますか?」
「そうだな。けど、桜良をひとりにするわけにはいかないだろう?」
「駄目ですよ、ひとりで行っちゃ」
「私も一旦帰ることにするよ。穂乃を待たせたら悪いから」
まだ考えなければならないことは山積みだが、少しずつ出口が見えてきたような気がする。
厄介なことにならないことを祈りながら帰路についた。
それでも、見当違いなことを言っている気もしない。
「黒猫が黒猫じゃないってことですか?」
「死霊じゃないけど普通の猫とは気配が違う。妖の類なんじゃないか?」
黒猫の方を見ると、ふっと息を吐いて一瞬で形を変えた。
「あなたたち、ただの人間じゃなかったの」
もふもふしているであろう猫耳に黒い髪、黒いメイド服のようなワンピース…そして、くねくね動いている尻尾。
「猫が喋って変身してる!」
「五月蝿いとつまみだすわよ人間」
「あんたがこの恋愛電話の持ち主か?」
「そうよ。私が大事にしている電話を人間が無理矢理使おうとするから困っていたの」
嘘を吐いている様子はないし、それならここに辿り着くことにも納得する。
「名前を教えてくれないか?」
「人間に名乗る名などないわ」
「なんでそんなに人間が嫌いなんだよ…」
陽向が拗ねたように呟くと、猫又は怒りを抑えるようにしながら低い声で言った。
「人間はすぐ裏切るし、他人を利用しても平気だからよ。騙された方が悪いなんて言い出すやつがいたり、気に入らないからって相手を絶望のどん底に堕としたり…。
そんな思いをさせられたら、誰だって積極的に関わりたいとは思わないでしょ?」
何故そこまで怒っているのか分からないが、まるで誰かが経験してきたのを見たように話す猫又に違和感を覚える。
「誰かが騙されて絶望のどん底に堕とされたのか?」
「なんでそんなことを訊くの?」
「経験がないとさっきみたいに怒れない」
「あなたたちには関係ない。電話を調べたいなら好きにすればいいわ。
でも、もしここにあるものを傷つけたら許さない」
「分かった。ありがとう」
大量の人間がこの場所を探す…そんな事態になっているのは、人間嫌いの猫又からすると迷惑だろう。
早く原因を取り除けば今より人間を見なくてすむ。
「ねえ、この糸電話も同じような効果なの?」
「それは私の個人的な趣味よ。それにしても、よくそれのことを知っていたわね」
「最近ここに来た奴等は知らなかったのか?」
「ええ。綺麗な紙コップに糸が繋がってるとか言っていたわ」
人と話すのは嫌いじゃないのか、黒猫として接したことに対して何か感じているのか…いずれにせよ、訊いたことには答えてくれた。
桃色の電話は丁寧に手入れされていて、どれだけ大事に思っているのか理解する。
「ごめんな。何があったか知らないけど、人間がおまえを傷つけて…」
「俺たちは君を傷つけるつもりはないんだ。ただ、どうして噂がこんなに広まったのかを知りたい」
「……知らない男」
しばらく黙っていた猫又はそう呟いた。
「そっか、また知らない男か…」
「チャラ男、何か知っているの?」
「俺の認識どうなってるの?…まあいいや。多分知ってるよ。こっくりさんもどきを広めた奴。
顔は見たことないけど存在は確認してる。…ですよね、先輩?」
「ああ、そんなところだ。何かされたのか?」
「横切った瞬間、許さないとか見つけたとか、よく分からないことを言っていたの。
こっちの姿は視えない人間の方が多いけど、猫の姿はただの人間にも見えるから…私に言っているわけじゃないと思っていたわ」
「けど、それから噂が広がりはじめた…」
またあの男なのかと思うとうんざりするが、ますます早く解決しないといけないことを理解した。
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関係ないと思うのも当然だ。…私だって、あんなことができる人間はひとりしか知らないから。
「先輩?」
「ああ、ごめん。…なあ、消えた人たちはどこに行ったんだ?」
「分からないわ。巻きこまれていい迷惑よ」
「そうか。また明日来る。…早朝になるかもしれないけどな」
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「そうだな。けど、桜良をひとりにするわけにはいかないだろう?」
「駄目ですよ、ひとりで行っちゃ」
「私も一旦帰ることにするよ。穂乃を待たせたら悪いから」
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厄介なことにならないことを祈りながら帰路についた。
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