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第3章『恋愛電話』
第20話
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「これ、後で桜良と食べてくれ」
「有名処のプリン!?先輩、そういうお店でもバイトしてるんですね」
「まあな」
シフト調整がしやすかったことと穂乃がお菓子好きという理由だけで選んだ仕事だったが、店の雰囲気がよくて気に入っている。
「それで、恋愛電話について他に何か分かったか?」
「なんか所有者がいるらしいですね。その人の許可をもらわないといけないとか、報告しないといけないとか…」
「人なのか?」
「さあ?遭遇したって子に話を聞きに行ったんですけど、よく思い出せないらしいです。
恋人ができたから嬉しいけど、告白した場所のことははっきり分からないって言ってました」
流石の行動力だ。
陽向でなければこんなに早く情報を集められなかっただろう。
「電話…」
「先輩?」
私は朝の出来事を思い出す。
黒猫の後をついていった結果辿り着いた場所…もしかすると、あれが恋愛電話だったのかもしれない。
「行き方は分からないけど、恋愛電話の存在は証明できるかもしれない」
「どういうことですか?」
「あの黒猫についていったら、それらしい場所に辿り着いたんだ。糸電話と公衆電話みたいなのがあった」
「すぐ桜良に連絡します!」
陽向が放送室にいるよう話してくれたおかげで、桜良は黒猫と戯れながら待っていた。
「桜良!」
「…どうしていつも騒がしいの?」
「ごめん。その子に用があるんだ」
陽向のことはあんまり得意じゃないのか、黒猫は怖がっているようだった。
或いははきはきした話し方が苦手なのかもしれない。
「陽向、しゃがんで話しかけてみろ。大男に話しかけられたら怖いだろ?」
「それもそうですね。ほら、おいで…」
黒猫は桜良の膝の上で、陽向とゆっくり目を合わせる。
少しだけ慣れてきたのかじっと見つめていた。
「朝はごめん。あの場所が何なのか気になってるんだ。また連れて行ってもらえないかな?綺麗なものはみんなで共有したいんだ」
嫌がられるか言葉が通じてないと思ったが、にゃんとひと鳴きしてとたとた歩きはじめた。
「行こう」
「はい!」
「あの…私はここにいます。何かあったら連絡してください。
恋愛電話が暴走したときのために、原稿を考えておきます」
「ありがとう」
放送室を出て黒猫の後を追うと、やはり朝と同じような現象がおきた。
「これが先輩が見たものですか?」
「ああ。だけど私には触れなかった」
恋人がいる陽向なら触れるかもしれないとも思ったが、告白用なら不可能だ。
「え?俺触れましたよ?」
陽向の手には受話器が握られていて、5円玉を投入口に入れた。
「おい、そんなことして…」
「告白ってことは、愛を囁く相手がいればいいと思うんです。俺には心に決めた相手がいますから」
ダイヤルを回し、かちかちと電話番号が入っていく。
しばらくコールが鳴ったかと思うと、少し不機嫌そうな桜良の声が聞こえた。
『わざわざ電話する必要があったの?』
「あるよ。これが恋愛電話かどうかたしかめないといけないから。
いつも言ってるけど、好きだよ桜良。君のためなら悪人にだってなれる」
『…そのむず痒いことを言うのはやめてっていつも言ってるでしょ』
「そんなこと言って…また照れて、」
『早く帰ってきて』
「はいはーい」
がちゃんと大きな音がしたものの、嫌がっている様子はなかった。
「何も起きませんね」
「それはそうだろ。恋人にもう1回愛を囁いただけなんだから」
「ですかね…」
陽向はてへっと舌を出していたが、何かを思い出したように首を傾げる。
「どうした?」
「もしこれが本当に恋愛電話なら、主がいるはずですよね?
この場所に連れてきてくれたのは黒猫で、ただの猫が主とは考えづらい…」
たしかに現状分かっているのはそれだけだ。
だが、もし前提条件が間違っているとしたらどうだろう。
「…黒猫がただの黒猫じゃないとしたらどうだ?」
「有名処のプリン!?先輩、そういうお店でもバイトしてるんですね」
「まあな」
シフト調整がしやすかったことと穂乃がお菓子好きという理由だけで選んだ仕事だったが、店の雰囲気がよくて気に入っている。
「それで、恋愛電話について他に何か分かったか?」
「なんか所有者がいるらしいですね。その人の許可をもらわないといけないとか、報告しないといけないとか…」
「人なのか?」
「さあ?遭遇したって子に話を聞きに行ったんですけど、よく思い出せないらしいです。
恋人ができたから嬉しいけど、告白した場所のことははっきり分からないって言ってました」
流石の行動力だ。
陽向でなければこんなに早く情報を集められなかっただろう。
「電話…」
「先輩?」
私は朝の出来事を思い出す。
黒猫の後をついていった結果辿り着いた場所…もしかすると、あれが恋愛電話だったのかもしれない。
「行き方は分からないけど、恋愛電話の存在は証明できるかもしれない」
「どういうことですか?」
「あの黒猫についていったら、それらしい場所に辿り着いたんだ。糸電話と公衆電話みたいなのがあった」
「すぐ桜良に連絡します!」
陽向が放送室にいるよう話してくれたおかげで、桜良は黒猫と戯れながら待っていた。
「桜良!」
「…どうしていつも騒がしいの?」
「ごめん。その子に用があるんだ」
陽向のことはあんまり得意じゃないのか、黒猫は怖がっているようだった。
或いははきはきした話し方が苦手なのかもしれない。
「陽向、しゃがんで話しかけてみろ。大男に話しかけられたら怖いだろ?」
「それもそうですね。ほら、おいで…」
黒猫は桜良の膝の上で、陽向とゆっくり目を合わせる。
少しだけ慣れてきたのかじっと見つめていた。
「朝はごめん。あの場所が何なのか気になってるんだ。また連れて行ってもらえないかな?綺麗なものはみんなで共有したいんだ」
嫌がられるか言葉が通じてないと思ったが、にゃんとひと鳴きしてとたとた歩きはじめた。
「行こう」
「はい!」
「あの…私はここにいます。何かあったら連絡してください。
恋愛電話が暴走したときのために、原稿を考えておきます」
「ありがとう」
放送室を出て黒猫の後を追うと、やはり朝と同じような現象がおきた。
「これが先輩が見たものですか?」
「ああ。だけど私には触れなかった」
恋人がいる陽向なら触れるかもしれないとも思ったが、告白用なら不可能だ。
「え?俺触れましたよ?」
陽向の手には受話器が握られていて、5円玉を投入口に入れた。
「おい、そんなことして…」
「告白ってことは、愛を囁く相手がいればいいと思うんです。俺には心に決めた相手がいますから」
ダイヤルを回し、かちかちと電話番号が入っていく。
しばらくコールが鳴ったかと思うと、少し不機嫌そうな桜良の声が聞こえた。
『わざわざ電話する必要があったの?』
「あるよ。これが恋愛電話かどうかたしかめないといけないから。
いつも言ってるけど、好きだよ桜良。君のためなら悪人にだってなれる」
『…そのむず痒いことを言うのはやめてっていつも言ってるでしょ』
「そんなこと言って…また照れて、」
『早く帰ってきて』
「はいはーい」
がちゃんと大きな音がしたものの、嫌がっている様子はなかった。
「何も起きませんね」
「それはそうだろ。恋人にもう1回愛を囁いただけなんだから」
「ですかね…」
陽向はてへっと舌を出していたが、何かを思い出したように首を傾げる。
「どうした?」
「もしこれが本当に恋愛電話なら、主がいるはずですよね?
この場所に連れてきてくれたのは黒猫で、ただの猫が主とは考えづらい…」
たしかに現状分かっているのはそれだけだ。
だが、もし前提条件が間違っているとしたらどうだろう。
「…黒猫がただの黒猫じゃないとしたらどうだ?」
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