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第3章『恋愛電話』
第19話
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いつもどおり穂乃と過ごした翌日、陽向が落ち着かない様子で監査室で立っていた。
「先輩」
「どうした?」
「昨日の猫がどっかに行っちゃったみたいなんです。さっきまで探してたんですけど、放っておいて大丈夫なのかなって…」
「飼い主のところに帰ったのかもしれないな。そうじゃなくても、もし教師の誰かが見つけたら──」
そこまで話したところでかたんと音がして、その方向から黒猫が元気よく飛び出してきた。
「勝手にいなくなったら心配するだろう?」
「よかった、怪我もなさそうですね。桜良に伝えてきます!」
陽向が走り去った後、黒猫は私のズボンの裾をかじって引っ張ろうとする。
「ついてこいってことか?」
時間はまだあるしいいだろう…そう思い後をついていく。
辿り着いた場所には、糸電話と桃色の公衆電話が置かれていた。
「これ、何に使うんだ?」
黒猫はにゃんと鳴くばかりで、一体どうなっているのかさえ分からない。
糸電話に触ろうとすると指先に電流のようなものがはしった。
「…結界か?」
もしかすると、特定の条件を満たさなければ触れることさえ叶わないのかもしれない。
「…ごめん、また放課後来るよ。帰り道はどっちだ?」
私が無理でも他の誰かなら調べられるかもしれない。
それに、朝のホームルームだけはどうしても遅れるわけにはいかなかった。
黒猫は少し残念そうにしながら少し前を歩きだす。
気づいたときには教室まで辿り着いていた。
「ねえ、最近何か流行ってる噂知らない?」
「そうだな…恋愛電話とか?」
英語の授業中、おしゃべり好きな生徒たちがそんな話をはじめる。
「恋愛電話?何それ、すごく面白そう!」
「恋人に告白する勇気が出ない人の背中を押すための電話なんだって。
告白が成功したら何もおこらないけど、もし失敗したら体中に電話の音が鳴り響いて消されちゃうらしいよ…」
「ええ…怖いね」
告白の成功失敗なんて人それぞれだろう。
だが、私にそれを理解するのは難しそうだ。
今回も夜仕事案件だろうか。
「そこ、授業に集中しなさい」
「ごめんなさい」
早く授業が終わることを願っていると、いつもより遅く感じるタイミングでチャイムが鳴った。
すぐ監査室に向かったものの、まだ陽向はきていない。
しばらくひとりで書類を整理していたが、一向に現れる気配がなかった。
トラブルに巻きこまれているのかもしれない…そう思うとなんだかじっとしていられなくて、陽向のクラスまで見に行ってみることにした。
「へえ、それじゃあ実際恋愛電話に辿り着いたって人もいるんだ…」
「陽向、恋人いたんじゃなかった?」
「いるよ。世界で1番大事にしたい人がね。けど、そういう噂があると気になるんだ。
勉強の神様が微笑んでくれるらしい、とかあったら拝みに行きたくなる」
「陽向君らしいね」
クラスメイトに囲まれているらしいそれは大変微笑ましいもので、邪魔するわけにはいかないとそのまま来た道を戻る。
私が久しく感じたことがないそれはなんだか温かくて、見ているだけでほっこりした。
「すみません、遅くなりました」
「いや、大丈夫だ。また不思議な噂が流行りだしたな」
「そうですね。恋愛電話って何者なんですかね?」
「どんな話を聞いた?」
「恋愛成就の神様がいて恋を応援してくれる。成功したら何もないけど失敗したら体がばらばらに…って話でした」
「私が聞いてきたものとほぼ同じだな。ただ、恋愛成就の神様がいるのは知らなかった」
「実際に叶えてもらった子が何人かいるみたいです」
恋心は時として人を変えるほどの力になるというが、本当にそうなんだろうか。
「先輩?」
「ごめん。私にはその感覚が全く分からない。けど、すごく大事なものなんだよな?」
「俺にとっては大事ですよ。そうだな…先輩でいうなら、穂乃ちゃんや猫に好きって伝えるみたいな感じですかね?」
私には昔から恋愛感情がない。
愛は分かっても恋が分からない私を、大半の人間はおかしいと怯える。
だが、陽向はそう思わないらしい。
「…ありがとう、なんとなく理解できたよ。それが伝えられないのは大変だな」
「でしょう?でやっぱり勇気がいるから頼りたくなるのも分かるし、悪い噂ではなさそうです」
「…少し気になるんだ。今夜調査しようと思う」
バイトに行くため立ちあがると、陽向は両手をふって見送ってくれた。
まさかバイトに行くとは思っていなかったのだろう。
「今日は2件か…」
「先輩」
「どうした?」
「昨日の猫がどっかに行っちゃったみたいなんです。さっきまで探してたんですけど、放っておいて大丈夫なのかなって…」
「飼い主のところに帰ったのかもしれないな。そうじゃなくても、もし教師の誰かが見つけたら──」
そこまで話したところでかたんと音がして、その方向から黒猫が元気よく飛び出してきた。
「勝手にいなくなったら心配するだろう?」
「よかった、怪我もなさそうですね。桜良に伝えてきます!」
陽向が走り去った後、黒猫は私のズボンの裾をかじって引っ張ろうとする。
「ついてこいってことか?」
時間はまだあるしいいだろう…そう思い後をついていく。
辿り着いた場所には、糸電話と桃色の公衆電話が置かれていた。
「これ、何に使うんだ?」
黒猫はにゃんと鳴くばかりで、一体どうなっているのかさえ分からない。
糸電話に触ろうとすると指先に電流のようなものがはしった。
「…結界か?」
もしかすると、特定の条件を満たさなければ触れることさえ叶わないのかもしれない。
「…ごめん、また放課後来るよ。帰り道はどっちだ?」
私が無理でも他の誰かなら調べられるかもしれない。
それに、朝のホームルームだけはどうしても遅れるわけにはいかなかった。
黒猫は少し残念そうにしながら少し前を歩きだす。
気づいたときには教室まで辿り着いていた。
「ねえ、最近何か流行ってる噂知らない?」
「そうだな…恋愛電話とか?」
英語の授業中、おしゃべり好きな生徒たちがそんな話をはじめる。
「恋愛電話?何それ、すごく面白そう!」
「恋人に告白する勇気が出ない人の背中を押すための電話なんだって。
告白が成功したら何もおこらないけど、もし失敗したら体中に電話の音が鳴り響いて消されちゃうらしいよ…」
「ええ…怖いね」
告白の成功失敗なんて人それぞれだろう。
だが、私にそれを理解するのは難しそうだ。
今回も夜仕事案件だろうか。
「そこ、授業に集中しなさい」
「ごめんなさい」
早く授業が終わることを願っていると、いつもより遅く感じるタイミングでチャイムが鳴った。
すぐ監査室に向かったものの、まだ陽向はきていない。
しばらくひとりで書類を整理していたが、一向に現れる気配がなかった。
トラブルに巻きこまれているのかもしれない…そう思うとなんだかじっとしていられなくて、陽向のクラスまで見に行ってみることにした。
「へえ、それじゃあ実際恋愛電話に辿り着いたって人もいるんだ…」
「陽向、恋人いたんじゃなかった?」
「いるよ。世界で1番大事にしたい人がね。けど、そういう噂があると気になるんだ。
勉強の神様が微笑んでくれるらしい、とかあったら拝みに行きたくなる」
「陽向君らしいね」
クラスメイトに囲まれているらしいそれは大変微笑ましいもので、邪魔するわけにはいかないとそのまま来た道を戻る。
私が久しく感じたことがないそれはなんだか温かくて、見ているだけでほっこりした。
「すみません、遅くなりました」
「いや、大丈夫だ。また不思議な噂が流行りだしたな」
「そうですね。恋愛電話って何者なんですかね?」
「どんな話を聞いた?」
「恋愛成就の神様がいて恋を応援してくれる。成功したら何もないけど失敗したら体がばらばらに…って話でした」
「私が聞いてきたものとほぼ同じだな。ただ、恋愛成就の神様がいるのは知らなかった」
「実際に叶えてもらった子が何人かいるみたいです」
恋心は時として人を変えるほどの力になるというが、本当にそうなんだろうか。
「先輩?」
「ごめん。私にはその感覚が全く分からない。けど、すごく大事なものなんだよな?」
「俺にとっては大事ですよ。そうだな…先輩でいうなら、穂乃ちゃんや猫に好きって伝えるみたいな感じですかね?」
私には昔から恋愛感情がない。
愛は分かっても恋が分からない私を、大半の人間はおかしいと怯える。
だが、陽向はそう思わないらしい。
「…ありがとう、なんとなく理解できたよ。それが伝えられないのは大変だな」
「でしょう?でやっぱり勇気がいるから頼りたくなるのも分かるし、悪い噂ではなさそうです」
「…少し気になるんだ。今夜調査しようと思う」
バイトに行くため立ちあがると、陽向は両手をふって見送ってくれた。
まさかバイトに行くとは思っていなかったのだろう。
「今日は2件か…」
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