夜紅の憲兵姫

黒蝶

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第2章『音楽室の亡霊と最後の逢瀬』

第12話

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人間の魂というものは非常に穢を溜めやすいらしい。
もし50日を越えてこちら側に残ってしまった場合、理性が残る確率はほぼゼロだ。
「明日から手を考えましょう。取り敢えず、彩ちゃんが自由に動けるようにしないとどうにもなりません」
「そうだな」
陽向と別れた後家まで直行する。
思っていたとおり、玄関では穂乃が起きて待っていた。
「お姉ちゃん、やっぱりデートしてるんじゃ…」
「してないよ。陽向と少し話をしていただけだ」
「あ、あのね。今度表彰式があるんだ」
「表彰式?なんのだ?」
穂乃は落ち着かないのかそわそわしている。
「あの絵、コンクールで最優秀に選ばれたらしくて…この町では初めてなんだって」
「それはすごいな。必ず見に行くよ」
「え?」
穂乃が言いづらそうにしていたのは、私に迷惑なんじゃかいかと考えていたからだろう。
だが、大切な家族として参加しないという選択肢ははじめから存在しない。
「それとも、見られたくないか?」
「ううん…ううん!」
勢いよく抱きつかれて頭を撫でる。
あの日から私はこの笑顔を護ると決めた。
たとえどれだけ時が過ぎて形が変わろうと、この誓いに背くことはない。
「お便りがきたなら渡してくれ。ちゃんと目を通しておきたいんだ」
「これだよ」
「それから、もう寝た方がいい。最近時間が取れなくてごめん」
「ううん。お姉ちゃんが帰ってきてくれるだけでいいの」
目の前の楽しそうな表情を見て少し安心した。
…翌日、通学路で学校便りに目を通す。
ローカル新聞の記者がくるという知らせもあり、穂乃が緊張してしまわないか今から心配になる。
「詩乃先輩!」
「朝から元気だな」
「いいじゃないですか。…噂の方は俺に任せてもらってもいいですか?」
「急だな」
陽向は少し困っているようにも見えるが、無理をして話しているわけでもなさそうだ。
「噂を変えるなら、そういう系統のものに詳しい人がいるんで大丈夫です!…多分」
「私にできることはあるか?」
「じゃあ、俺の恋人の友だちになってください」
「唐突だな」
陽向に恋人がいるのは知っているが、その友人になってほしいとはどういうことだろう。
「俺の可愛い恋人は、あんまり人と関わろうとしないんです。だけど、俺だけじゃなくて他にも繋がれる相手がいると安心なのかなって…。
いつも協力してもらってるし、できることがこれくらいしか思いつかなかったんです」
「噂を変えてもらっている、ということか?」
「それに近いです。ただ、この前のこっくりさんもどきといい、早く片づいたのは全部彼女のおかげです」
1度も会ったことがない相手といきなり友人というのは厳しい。
陽向みたいにコミュニケーション能力があればよかったのだが、人と話すときに緊張してしまう私では無理だ。
「相手が望んでくれるなら会いたい。陽向との出会いから教えてほしいしな」
「じゃあ、今日の放課後放送室に来てください」
「もしかして放送部なのか?」
「はい。ひとりで守り続けている放送室の主です」
陽向はとても楽しそうに話しているが、その子はとても苦労しているだろう。
「あれだけの機材をひとりで回すのは大変だろうな」
「俺も時々手伝いに行くんですけど、未だにちんぷんかんぷんな機械もあります」
「そういえばそうだったな」
生徒会ほどではないが、生徒のことはある程度把握しているつもりだ。
「それじゃあ放課後、放送室に集まるってことで」
「そうだな」
一先ず書類を片づけようと監査室に向かうと、そこには既に先客がいた。
「おはよう先生」
「おはよう。今日は折原ひとりか」
「陽向に用があったのか?」
「いや、そういうわけじゃない」
「…なあ、近々穂村奏多を呼び出してもいいか?」
「本人に聞いておく」
「ありがとう」
書類片手に教室を出ると、生徒たちが同じ方向を目指している。
何があったのか話を聞く前に、近くを歩いている生徒たちが話しているのが聞こえた。
「ねえ、知ってる?音楽室の亡霊が出たらしいよ」
「なんか楽譜ができあがってたってやつでしょ?怖いよね…」
それは間違いなく森川彩のことだろう。
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