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第1章『幸福を招くこっくりさんもどき』
番外篇『監査部のお仕事』
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「それじゃあ、監査部月例会議をはじめます」
あれから数日が過ぎ、学園内は一応平穏を取り戻しつつある。
何故噂がぱったり流れなくなったかよく分かっていないが、取り敢えず今は会議に集中することにしよう。
「風紀委員から相談がきています。見た目が怖そうで注意できない3年生がいるって…。
この前は窓ガラスが割られたらしいのですが、現場で言い争う姿を数人が目撃しています」
「そうか。言い争っていた相手はどんな人なんだ?」
「報告によると、周囲からモテ…尊敬されている生徒のようです」
今モテているって言いかけなかったか?
いくつか他の案件にも目を通して、今回の会議は終わりになった。
「折原」
「分かってるよ、先生。さっきの話を調べないとな」
監査部は少数精鋭を目指しているらしく、万年人手不足だ。
中等部1年は入学したてでまだスカウトできないのは分かるが、何故高等部3年がいないのか疑問に思っている。
「室星先生」
「どうした?」
「先生はどうして──」
質問をぶつけようとした途端、どこかからもめている声が聞こえた。
「ごめん、また後にする」
その場所へ向かうと、今にも殴りあいそうなふたりを陽向が必死に止めていた。
「やっぱりおまえがやったんだろ!俺のせいにするな!」
「知らないって言ってるだろ?いきなり殴るなんて横暴だ」
「ふたりとも、一旦落ち着いてください…!」
どうやら先程報告にあったふたりらしい。
殴られた方に味方をする声が広がり、殴ったであろう人物は唇を噛んだ。
「すみません、監査部です。話を聞きたいのでふたりとも来てください」
「俺はこいつと話をつけたいだけで、」
「その一件についても教えてほしいんです」
陽向に目で合図して、モテモテらしい先輩の引き止めをお願いした。
私と一緒に来た先輩は、校則違反だらけの見た目に反して強気の態度に出たりしない。
「話を聞かせてください。先輩があの先輩のことを殴ったのは事実ですか?」
「ああ」
「理由を訊いてもいいですか?」
「…むかついたから」
「どんな行動にむかついたんですか?」
「…あいつ、俺の幼馴染を騙したんだ。君だけが本命だとか言って近づいて、ゲームで告白して…あいつは学校に来られなくなった」
そこまで話したところで、先輩ははっとしたように言葉を投げた。
「真面目な監査部が俺みたいな見た目のやつの話を信じるわけないのに、ガラにもなく話しちまった。
反省文でも何でもやってやる。ただし、俺はあいつを許さない」
「たしかに殴ったのは悪いことです。だから反省文1枚以上の提出をお願いします。…でも、事情は理解しました」
「そりゃどうも」
こいつに何かできるはずがないという顔で見られる。
周りを信用できない何かがあったんだろう。
その場にあった電話で内線をかける。
「陽向、その余罪が大量にありそうな男をこっちの部屋に連れてきてくれ」
『了解です』
呆然としている目の前の先輩に私はただ声をかけた。
「先輩が何もできないと悔しい思いをした分、私がきっちりあいつを裁きます」
その直後、扉が開かれた。
「もう俺帰っていいですよね?」
「私たちは不登校になった生徒について調査する権限がある。
よって、スマートフォンの中身を確認させていただきます」
「いきなり何を言い出すんだ!俺は被害者なのに、」
「被害者かどうかを決めるのは私たち監査部の仕事だ。
何もないならスマートフォンくらい出せるだろう?」
モテ先輩が苛つきながら出したものの中身は、とんでもなくどす黒かった。
「先輩、これって事案ですよね」
「そうだな。早く先生に知らせないと…」
その瞬間、モテ先輩がこちらに向かって走り出す。
手に握られていたカッターナイフはちきちきと音が鳴っている。
「何してるんだ!」
先輩はそれが私に刺さる前に止めてくれた。
「一体何をしているんだ」
室星先生はこちらに近づいてきたかと思うと、カッターを取り上げ片手で粉々にした。
「…山田は帰っていい。おまえは生徒指導室に来なさい」
先生は腕をがっつり握ったまま生徒を連れて行ってしまった。
カッターを止めてくれた山田先輩は、私を見てほっとしている。
「ありがとうございました」
「…ちゃんと話したのに、教師も誰も俺の話を信じてくれなかったんだ。
でも、おまえらは真剣に言葉を聞いてくれた。それだけで俺は救われたよ」
「私たちにできるのは学園の困りごとを解決することですから。相手の話を聞かないと解決できないことって沢山あります。
…山田先輩は幼馴染を護りたかった。護りたい相手を傷つけられる気持ちは私も分かる」
山田先輩の背中を見送った直後、陽向がこちらを向いて目をきらきらさせた。
「先輩、大活躍じゃないですか。流石すぎて見惚れました」
「そうか。まあ、私だけじゃどうしようもなかったけどな。先生、戻ってくるかな?」
「多分来ると思います。説明責任が…とか言いそうじゃないですか?」
「たしかに」
その場に散らかっていたものを片づけていて気づく。
「おまえはまず傷の手当てをした方がいい」
「そういえばちょっと刃先があたったんでした」
右腕を掠めたらしく、見ているだけで痛々しい。
「ちょっとそのまま止まってろ。…できた」
「ありがとうございます。先輩、相変わらず上手いんですね」
「昔から人の手当てはしていたから慣れてるだけだ。…報告書、書かないとな」
山田先輩からの反省文を待ちながら、加害生徒の処遇についても話し合いになるだろう。
生徒または教職員の心に寄り添う為にある、生徒主体の自治組織のようなもの…それが烏合学園監査部だ。
久しぶりに監査部としての仕事ができて安心した。
これからも困っている人の力になれるように、日々精進していこう。
あれから数日が過ぎ、学園内は一応平穏を取り戻しつつある。
何故噂がぱったり流れなくなったかよく分かっていないが、取り敢えず今は会議に集中することにしよう。
「風紀委員から相談がきています。見た目が怖そうで注意できない3年生がいるって…。
この前は窓ガラスが割られたらしいのですが、現場で言い争う姿を数人が目撃しています」
「そうか。言い争っていた相手はどんな人なんだ?」
「報告によると、周囲からモテ…尊敬されている生徒のようです」
今モテているって言いかけなかったか?
いくつか他の案件にも目を通して、今回の会議は終わりになった。
「折原」
「分かってるよ、先生。さっきの話を調べないとな」
監査部は少数精鋭を目指しているらしく、万年人手不足だ。
中等部1年は入学したてでまだスカウトできないのは分かるが、何故高等部3年がいないのか疑問に思っている。
「室星先生」
「どうした?」
「先生はどうして──」
質問をぶつけようとした途端、どこかからもめている声が聞こえた。
「ごめん、また後にする」
その場所へ向かうと、今にも殴りあいそうなふたりを陽向が必死に止めていた。
「やっぱりおまえがやったんだろ!俺のせいにするな!」
「知らないって言ってるだろ?いきなり殴るなんて横暴だ」
「ふたりとも、一旦落ち着いてください…!」
どうやら先程報告にあったふたりらしい。
殴られた方に味方をする声が広がり、殴ったであろう人物は唇を噛んだ。
「すみません、監査部です。話を聞きたいのでふたりとも来てください」
「俺はこいつと話をつけたいだけで、」
「その一件についても教えてほしいんです」
陽向に目で合図して、モテモテらしい先輩の引き止めをお願いした。
私と一緒に来た先輩は、校則違反だらけの見た目に反して強気の態度に出たりしない。
「話を聞かせてください。先輩があの先輩のことを殴ったのは事実ですか?」
「ああ」
「理由を訊いてもいいですか?」
「…むかついたから」
「どんな行動にむかついたんですか?」
「…あいつ、俺の幼馴染を騙したんだ。君だけが本命だとか言って近づいて、ゲームで告白して…あいつは学校に来られなくなった」
そこまで話したところで、先輩ははっとしたように言葉を投げた。
「真面目な監査部が俺みたいな見た目のやつの話を信じるわけないのに、ガラにもなく話しちまった。
反省文でも何でもやってやる。ただし、俺はあいつを許さない」
「たしかに殴ったのは悪いことです。だから反省文1枚以上の提出をお願いします。…でも、事情は理解しました」
「そりゃどうも」
こいつに何かできるはずがないという顔で見られる。
周りを信用できない何かがあったんだろう。
その場にあった電話で内線をかける。
「陽向、その余罪が大量にありそうな男をこっちの部屋に連れてきてくれ」
『了解です』
呆然としている目の前の先輩に私はただ声をかけた。
「先輩が何もできないと悔しい思いをした分、私がきっちりあいつを裁きます」
その直後、扉が開かれた。
「もう俺帰っていいですよね?」
「私たちは不登校になった生徒について調査する権限がある。
よって、スマートフォンの中身を確認させていただきます」
「いきなり何を言い出すんだ!俺は被害者なのに、」
「被害者かどうかを決めるのは私たち監査部の仕事だ。
何もないならスマートフォンくらい出せるだろう?」
モテ先輩が苛つきながら出したものの中身は、とんでもなくどす黒かった。
「先輩、これって事案ですよね」
「そうだな。早く先生に知らせないと…」
その瞬間、モテ先輩がこちらに向かって走り出す。
手に握られていたカッターナイフはちきちきと音が鳴っている。
「何してるんだ!」
先輩はそれが私に刺さる前に止めてくれた。
「一体何をしているんだ」
室星先生はこちらに近づいてきたかと思うと、カッターを取り上げ片手で粉々にした。
「…山田は帰っていい。おまえは生徒指導室に来なさい」
先生は腕をがっつり握ったまま生徒を連れて行ってしまった。
カッターを止めてくれた山田先輩は、私を見てほっとしている。
「ありがとうございました」
「…ちゃんと話したのに、教師も誰も俺の話を信じてくれなかったんだ。
でも、おまえらは真剣に言葉を聞いてくれた。それだけで俺は救われたよ」
「私たちにできるのは学園の困りごとを解決することですから。相手の話を聞かないと解決できないことって沢山あります。
…山田先輩は幼馴染を護りたかった。護りたい相手を傷つけられる気持ちは私も分かる」
山田先輩の背中を見送った直後、陽向がこちらを向いて目をきらきらさせた。
「先輩、大活躍じゃないですか。流石すぎて見惚れました」
「そうか。まあ、私だけじゃどうしようもなかったけどな。先生、戻ってくるかな?」
「多分来ると思います。説明責任が…とか言いそうじゃないですか?」
「たしかに」
その場に散らかっていたものを片づけていて気づく。
「おまえはまず傷の手当てをした方がいい」
「そういえばちょっと刃先があたったんでした」
右腕を掠めたらしく、見ているだけで痛々しい。
「ちょっとそのまま止まってろ。…できた」
「ありがとうございます。先輩、相変わらず上手いんですね」
「昔から人の手当てはしていたから慣れてるだけだ。…報告書、書かないとな」
山田先輩からの反省文を待ちながら、加害生徒の処遇についても話し合いになるだろう。
生徒または教職員の心に寄り添う為にある、生徒主体の自治組織のようなもの…それが烏合学園監査部だ。
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