夜紅の憲兵姫

黒蝶

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第1章『幸福を招くこっくりさんもどき』

第5話

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「折原、岡副。ちょっといいか?」
監査室を片づけた直後、室星先生に呼び止められる。
「先生?どうしたんだよ突然」
「おまえら、昨日の夜校舎にいなかったか?」
「何の話ですか?夜なら家で通話してましたけど、学校にはいませんよ」
「そうか。悪い、見間違いだったみたいだ。最近疲れてるからか…」
「先生、少しは休んだ方がいいんじゃないか?」
「そうかもしれないな」
やっぱり昨日懐中電灯を持ってうろついていたのは室星先生だったんだ。
お互い嘘を吐いているので何とも言えないが、先生の事情も知りたくなった。
「呼び止めて悪かった。もう行っていい…というか行かないとホームルームに間に合わないだろ」
「先生、本当に休んでくださいね」
「ホームルームだけは出ないと駄目か…」
面倒だが仕方ない。
先生は少し気まずそうにしながら私たちとは逆方向に歩いていった。
「…嘘だろ」
教室に足を踏み入れた途端そんな言葉が漏れ出す。
室内にいる生徒の半分以上の背中から真っ黒な何かが視えたからだ。
「折原、どうした?」
「…なんでもありません」
このままここにいたら気が狂いそうだ。
今日は真面目に授業を受けようと思っていたが、小走りで監査室へ向かった。
「わあ!?」
「なんだ、陽向もいたのか」
「もしかして先輩もだったんですか?」
何の話、なんて訊かなくても分かる。
首を縦にふると、陽向は大きなため息を吐いた。
「あれってやばいですよね!?あのままだと出くわした人全員死にますよね!?」
「参ったな…まさか1日であんなに広がるとは」
陽向の反応を見ていれば分かる。
きっと彼の教室も同じような状態だったのだろう。
「今日授業を受けるのは絶対無理です」
「私もそう思う」
これだけ早く広がったことと先生が昨夜校内を巡回していたことは関係しているのだろうか。
一瞬そんな馬鹿なことを考えてしまうほど、私の頭は混乱している。
「…なんだ、今日はふたりでさぼるのか?」
「先生こそさぼりか?今日は1限目から授業が詰まってたと思ったんだけど」
「時間割が変更になったんだよ。空いた時間で書類整理を済ませようと思ったんだが…ふたりとも顔が青いな。保健室に連絡した方がいいか?」
生徒のことを本気で心配する先生を一瞬でも疑った自分を恥じた。
「休めれば問題ないから大丈夫だ。ありがとう先生」
「あんまり無理するなよ」
「先生、1つ訊いてもいいですか?」
「どうした?」
陽向は、たとえば…と切り出した。
「校内にやばい噂が早く広がるときって、どんなことが原因だと思いますか?」
「なんで俺に訊く?そういうのは他の先生の方が知ってるんじゃないのか」
「たとえばとかもしもの話をちゃんと聞いてくれるの、室星先生しかいないからです」
陽向の真っ直ぐな眼差しに逃げられないと悟ったか、先生は真剣に考えてくれた。
「もし俺が噂を流すなら、学校中の廊下を渡り歩く」
「どうしてですか?」
「人がいる時間帯に誰も話していない廊下なんて見たことがあるか?…多分授業中を除いてはないだろう。
それだけ絶え間なく誰かが話しているんだから、わざと聞こえるような声で言ったら相手も聞き耳をたてているはずだ」
先生が言うことは理にかなっている。
ただ、それは人間相手だった場合だ。
誰にでも視えているわけじゃない怪異にそんなことができるのだろうか。
「成程!ということは、あの3人組が見た男がわざと話してた可能性があるってことですね」
「何の話だ?」
「こっちの話だから気にしないでくれ。ありがとう先生。抱えていた問題が解決しそうだよ」
先生はそうかと一言呟いて部屋を出た。
陽向の目がきらきら輝いていて嫌な予感がする。
「今日の夜、廊下で待ち伏せちゃいましょう!多分どこかしらには噂を流した疑いがあるものが現れるはずですから」
「簡単に言ってくれるな、本当に…。まあ、このまま放っておくわけにもいかないからな」
地獄のスケジュールをこなす覚悟を決め、穂乃に連絡をいれる。
今日も帰れなくて寂しい思いをさせると思うと申し訳なかった。
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