夜紅の憲兵姫

黒蝶

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第1章『幸福を招くこっくりさんもどき』

第2話

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「女子たちの話によると、何人かが呼び出して願いが叶ったらしいですよ。
恋人ができたり、成績がよくなったり…たしか、なりたい委員会に入れたって子もいたな」
「たまたまにしては随分多いな。それに、ひとつおかしいことがある」
間違いなくおかしい。
その手の噂なら何かしら代償を支払わなければならないはずだ。
にも関わらず、願いを叶えてもらえたと何人もが元気に話している。
「…ごめんな、穂乃」
「先輩?どうしたんですか?」
穂乃に帰りが遅くなると連絡し、返信を待つことなく陽向に真っ直ぐ告げる。
「黙ってみているわけにはいかない。もう少し詳しく調べてみよう」
「ですね!」
私たちはふたりで調べものをしている。
昼間はただの監査部の生徒として、夜は学校に入りこんで大多数に視えない問題を解決する為に。
「でも、どこから調べましょうか…」
「たしかにそうだな。いつもみたいに場所が決まっているならいいんだが、どこでも呼び出せそうなのが厄介だ。
それに、それだけの人間に広まっているとなるともう時間の問題だろうな」
この町では昔から噂が広がりやすい。
怪異にとって噂は命そのものだ。
「授業はどうするんですか?」
「おまえは受けた方がいいだろうな」
「詩乃先輩も受けましょうよ」
「私はいいんだ。息苦しいのは合わないし、こうやって監査部の仕事をしている方が楽しい」
高入のくせに、などと言われるのも腹が立つ。
陽向を早く行くように急かして、私はその場で残っている仕事に目を通した。
【いじめ案件に関して
私見ではあるが、生徒の目がほしい。加害者をどの程度に処すべきなのか、ひとりでは判断しかねる。
よって、生徒会とは異なる権限がある監査部にお願いしたい。被害生徒は──】
「…くだらない」
本当にくだらない。
人を貶めて一体何が楽しいんだ。
「折原」
「ああ、先生か」
「俺でがっかりだったか?」
「いや。逆に他の先生だったらどうしようって思ってた」
室星先生はこの監査部の担当教諭である。
校則は理不尽なもの以外守らせる、双方の話を聞いて判断する、いじめは絶対に許さない…とにかくいい先生だ。
「…さぼりか?」
「分かってて訊いてるだろ」
「行けって言えるような状況じゃないからな。まあ、留年の危機に陥ったらそのときは言うが。
おまえは去年からずっと留年にならないぎりぎりの出席日数で成績をばっちり残してるから文句はない」
他の先生たちなら私に教室へ行くよう言うだろう。
…というか、そっちが大多数が思う正解だ。
だが、私や先生にとってそれは正しくない。
「なんで先生は私や私みたいに教室に行かない生徒に行けって言わないんだ?」
「行けない事情があるって知ってるのに、行けなんて言ったら追い詰めることになる。
だから言わないようにしてるんだよ。…高入のくせに、なんて俺は思わないけどな」
この学園は中高一貫だ。
一応大学部もあるが、それなりに外部生だっているから問題ない。
ただ、高校にあがるのは9割が学園中等部からで2年生からできる特進クラスに入るのもほとんどが中等部あがりになる。
その中に3人しかいない余所者はどうしても入っていけない。
「他のふたりはどうしてる?」
「ひとりは芸術コースだから授業も違うことが多くて話を聞けてない。もうひとりは一般クラスに移動するって話を聞いた」
「そうか」
午後の2時間、そんなふうに先生と話して時間を潰した。
「先生」
「どうした?」
「この件、私が受けてもいいか?」
「ああ、頼む。相手の生徒は相当参ってるから、言葉には配慮してほしい」
「分かった」
「折原になら任せられそうだ」
先生はそれだけ言って監査室を出た。
いじめ案件についても調査しつつ、夜仕事の準備をする必要がある。
「先輩、お待たせしました!」
「全然待ってない。ホームルームは終わったのか?」
「はい。あとは夕方になって人が減るのを待つだけです」
「それまでここの書類を片づけるぞ」
「はい!」
陽向は誰かに連絡しながら書類を次々完成させていく。
備品に関するものや壊れた窓ガラスの請求書、生徒同士のトラブルについて…。
部活に入っていないのは私たちだけなので、特別な召集以外はいつもこんなふうにふたりで作業している。
「そろそろじゃないですか?」
下校時間のチャイムと共に、陽向が元気よく立ちあがる。
生徒たちが帰ってから、私たちのもうひとつの活動がはじまるのだ。
「…さて。私たちの夜仕事をはじめよう」
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