ハーフ&ハーフ

黒蝶

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断暮篇(たちぐらしへん)

閑話『大人のお仕事』

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物騒なことに巻きこまれていると話を聞いてからというもの、時間があれば情報収集をするようになっていた。
「...こっちなら役に立つかしら」
「あの、ケイト、様...そろそろ、お休みに...」
言いづらそうにしながら、シェリは時計を指さして寝るように薦めてくる。
けれど、今は優雅に休んでいるわけにもいかない。
「あなたは休んでいて構わないのよ?私は私がやりたいことをするだけだから」
シェリだってかなり疲れているはずだ。
私がやっているのは親としての務めだけれど、彼女は私を手伝う為に起きてくれている。
「私にも、調査、させてください」
「...ありがとう」
こういうときのシェリは絶対に引き下がらない。
それなら無理に引き留めるより、満足するまで手伝ってもらうことにしよう。
そうして調べているうちに、木葉が七海さんと何をしようとしているのかを知ることになった。
「どうして教えてくれなかったの?」
「悪い、なんとかなると思ったんだが...」
...数日後の満月の夜、崩壊の音が耳に響く。
自らも致命傷に近い怪我を負っているにも関わらず、七海さんは木葉の暴走を必死に止めようとしている。
「...汚れ仕事は大人がやらないといけないわね」
「物騒なことはするなよ」
「大丈夫よ、ただサインしてもらうだけだから」
今持っている1枚の紙は、絶対の契約書と呼ばれているものだ。
ここにサインさえしてもらえれば、相手を一生契約に縛りつけることができる。
ラッシュにふたりのことを頼んでその場に残り、念のためにもう1度説明しておくことにした。
「『手を出した瞬間命を失う』、『もう二度と干渉しない』...それをしっかり守ってもらいます。
もし破ったそのときは、命の保証をしかねます。そこでのびている人たちにも徹底しておくように」
「ふざけるな、化け物...!」
大切なものが何かも分かっていない、機械的にいきなり彼女を狙った輩が発する言葉なんてどうでもよかった。
「私はあのふたりを護ると決めているの。訳も分からず無差別に攻撃するあなたたちと一緒にしないで」
思いきり殺気を放ちながら淡々と告げると、目の前の男は小さく悲鳴をあげて頷く。
その場から15分ほど離れて戻ってきたときには、もう既に跡形もなく消えていた。
「...さて、直しておかないと」
「俺にも手伝わせろ」
「ラッシュ、あなた...」
「向こうにはシェリがいる。心配しなくても大丈夫だよ」
これであのふたりは、私のような思いをしなくてすむだろうか。
そうであってほしいと願って、皹が入ってしまった部分にひたすらコンクリートを塗り固めていく。
「お疲れさん」
「あなたもね」
鈍い光を放つ月の下、作業は明け方近くまで続いた。
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