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断暮篇(たちぐらしへん)
夜明け
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目を開けた瞬間うつったのは、真っ白な天井と腕に繋がれた管...そして、大切な人の姿だった。
「...は」
喉がからからで、声があまり出せない。
それでも私は、視界いっぱいに入った恋人の名前を呼んだ。
「木葉...」
「おはよう...!よかった、ちゃんと起きてくれて...本当に、よかった」
泣いている木葉に手を伸ばそうとしたけれど、上手く動かせずに空を切る。
ぶらぶらと急速落下していく右手をぐっと掴まれた。
「ごめんね。私...」
「あんまり無理しなくていいから、そのまま休んでて。
ここは知り合いの病院だから安心して。今無茶なことをすれば、もっと傷の治りが遅くなるから」
「どのくらい、寝てた?」
「...2日くらい」
まさかそこまで時間が経っているとは思っていなかった私は、強引に体を起こそうとする。
「駄目だよ、まだ休んでないと...」
木葉の体にも包帯が巻かれているのが見えて、ただただ申し訳なさがつのっていく。
(ちゃんと庇いきれていればよかったのに...)
「怪我、大丈夫...?」
「僕のことより自分のことを心配して。君の方が重傷なんだし、傷ついている七海を見ている方が辛い」
結局護りきれず、悲しませてしまった。
本当は涙をぬぐいたいのにまだ腕に力が入りきらず、まるで自分の体ではないような感覚に陥る。
「...ごめんね。あれから、どう、やって、」
「難しい説明は省略するけど、七海が相手の攻撃をくらった後にラッシュさんたちが来てくれたんだ」
木葉の口から語られたものは、想像もしていなかった出来事だった。
木葉の能力の暴走は、あれからなんとか止まったらしい。
その後、ラッシュさんやケイトさんの力を借りて事なきを得たのだとか。
「誓、約書?」
「正確に言えば、『絶対命令効果がある誓約書』ってことになるのかな...。
あのなかで1番偉そうな人にそれを書かせてた。だから、七海が追いかけられることは絶対にないんだよ」
「もう、あの人たち、来ないの...?」
「これからはもう、逃げ隠れするように生活しなくていいんだ」
それは夢のような話で、はじめはなかなか信じることができなかった。
(長いようで短かった悪夢が終わる...?)
怪我はしているものの誰も傷つくことなく、あの人たちからも解放される。
その事実に、私はただ涙を流す。
「もしかしてどこか痛む?すぐにお医者さんを...」
「違うよ。私を、解放、してくれて...ありがとう」
こうして、私たちにとって長かった夜が明ける。
月明かりがこれからを祝福するかのように降り注いでいた。
「...は」
喉がからからで、声があまり出せない。
それでも私は、視界いっぱいに入った恋人の名前を呼んだ。
「木葉...」
「おはよう...!よかった、ちゃんと起きてくれて...本当に、よかった」
泣いている木葉に手を伸ばそうとしたけれど、上手く動かせずに空を切る。
ぶらぶらと急速落下していく右手をぐっと掴まれた。
「ごめんね。私...」
「あんまり無理しなくていいから、そのまま休んでて。
ここは知り合いの病院だから安心して。今無茶なことをすれば、もっと傷の治りが遅くなるから」
「どのくらい、寝てた?」
「...2日くらい」
まさかそこまで時間が経っているとは思っていなかった私は、強引に体を起こそうとする。
「駄目だよ、まだ休んでないと...」
木葉の体にも包帯が巻かれているのが見えて、ただただ申し訳なさがつのっていく。
(ちゃんと庇いきれていればよかったのに...)
「怪我、大丈夫...?」
「僕のことより自分のことを心配して。君の方が重傷なんだし、傷ついている七海を見ている方が辛い」
結局護りきれず、悲しませてしまった。
本当は涙をぬぐいたいのにまだ腕に力が入りきらず、まるで自分の体ではないような感覚に陥る。
「...ごめんね。あれから、どう、やって、」
「難しい説明は省略するけど、七海が相手の攻撃をくらった後にラッシュさんたちが来てくれたんだ」
木葉の口から語られたものは、想像もしていなかった出来事だった。
木葉の能力の暴走は、あれからなんとか止まったらしい。
その後、ラッシュさんやケイトさんの力を借りて事なきを得たのだとか。
「誓、約書?」
「正確に言えば、『絶対命令効果がある誓約書』ってことになるのかな...。
あのなかで1番偉そうな人にそれを書かせてた。だから、七海が追いかけられることは絶対にないんだよ」
「もう、あの人たち、来ないの...?」
「これからはもう、逃げ隠れするように生活しなくていいんだ」
それは夢のような話で、はじめはなかなか信じることができなかった。
(長いようで短かった悪夢が終わる...?)
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その事実に、私はただ涙を流す。
「もしかしてどこか痛む?すぐにお医者さんを...」
「違うよ。私を、解放、してくれて...ありがとう」
こうして、私たちにとって長かった夜が明ける。
月明かりがこれからを祝福するかのように降り注いでいた。
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