ハーフ&ハーフ

黒蝶

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断暮篇(たちぐらしへん)

準備万端

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「木葉は、優しすぎるよ...」
涙が止まらない。
私の心は、言葉にできないほどの感謝と愛しさで溢れている。
「僕はただ、七海からもらった優しさを返してるだけだよ」
「私は当たり前のことをしただけで...」
「僕にとって、あんなふうに優しくしてもらえるのは当たり前のことじゃなかった」
初めて会ったあの日、私は応募した作品がまた銀賞だったことにずっと哀しみを抱いていた。
何者にもなれないままなのではないかと不安に思っているなかで、座りこんでいる木葉を見つけたのだ。
「あのときの笑顔に私は救われた。
こんな私にもできることはあるんだって、そう思えたから。だから...」
ぼやける視界のなか、目の前の体を抱きしめなおしてただ想いを告げる。
「ありがとう。今の私がいるのは、頑張ろうって思えるのは木葉がいてくれるおかげだよ」
「七海はやっぱり優しいね」
この日はふたりで寄り添うようにしてベッドに潜った。
独りではできなかったことも、ふたりでならなんとかなるだろうか。
先が見えないことも多いけれど頑張っていこう...心からそう思った。
──あれから数日、どこへ行くにも道順を考える日々が続いている。
下手に新しい道を選ぶのは危険だけれど、普段使っている場所を知られるのも厄介だ。
「あの人たちにとって、七海の存在がすごく重要なのは分かった。...残念ながら離してあげないけどね」
「木葉...」
「そういえば、あの舞ってどういう効果があるものなの?」
そういえば、朝露の舞についてきちんと説明したことがなかった。
少し考えた後、簡潔に伝えてみる。
「簡単に言うと、この場所を色々な術から隠す為のものだよ」
「隠す?」
「私が味方だと思っている人たちは別だけど、誰が出したのか分からない術を全部弾く仕組みになってる。
...バリアみたいな感じって言えば分かりやすい?」
「つまり、相手が美桜さんなら届くけど、全然知らない人のものは攻撃とみなされてここまで届かないってこと?」
「そういうこと」
「とんでもないものなんだね...」
木葉は納得したように頷く。
(相手に分かるように説明するのって結構難しいな...)
「もう無理はしないでね?」
「それは木葉もだよ」
ふたりで笑いあいながら、今日は何をしようかと話をする。
独りで何とかしようと考えていた私に、木葉は巻きこんでほしいと話してくれた。
それなら、巻きこんでしまう代わりにちゃんと全部護りきってみせよう。
...私にできることは全てやって、木葉たちに災厄が降りかからないようにしてみせる。
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