ハーフ&ハーフ

黒蝶

文字の大きさ
上 下
244 / 258
断暮篇(たちぐらしへん)

消えない不安

しおりを挟む
「帰ったらまずお風呂沸かさないとね」
「それから...その傷、私に手当てあせて」
「それじゃあお願いしようかな」
私だけではなく木葉まで狙ってきたというところは、怖かったの一言に尽きる。
ヴァンパイアとのハーフとはいえ、大量に出血すれば当然命にも関わってくるはずだ。
(やっぱり私は、まだまだ周りが見えていないみたい...)
「七海、こっち来て」
「え?」
はっと気づいたときには、あと1歩で水たまりに突っこんでいく寸前だった。
「ごめんね。ありがとう」
「...今日はいつもよりちょっと贅沢しよう。何か食べたいものはない?」
「最近駅の近くにできた、少しお値段高めの高級食材がふんだんに使われてるお弁当、かな」
「広告を見て僕も気になってたんだ。焼き肉弁当とか海鮮丼とか、種類も色々あるみたいだったよ」
木葉が気を遣ってくれていることはすぐに分かった。
いつもなら大丈夫だからと伝えられるけれど、今日はそう言っても説得力がないだろう。
歩調もあわせてもらって、護ってもらってばかりで...何もかもが申し訳なかった。
「それじゃあいくよ」
「お、お手柔らかに...」
木葉の傷を生理食塩水につける。
だんだん表情が歪んでいくのを見ているだけで、私まで痛むような気がした。
「消毒するね」
「うん...お願いします」
まさかこんなふうに誰かを手当てする日がくるなんて思っていなかった。
いつ役に立つのだろうと思ったこともあったけれど、今この瞬間はちゃんとできるようになっておいてよかったと思う。
「...はい、これで手当て終わり」
「ありがとう。七海は器用だね」
「そんなことないと思うんだけど...」
普段どおり話をしていくけれど、木葉からはいつも以上の優しさを感じている。
「...お風呂、先に入って」
「それじゃあそうさせてもらうね。お弁当屋さんには今から連絡しておくから」
「...うん」
今の私は、ちゃんと笑えていただろうか。
笑顔を向けたつもりだったけれど、全く自信がない。
これからもこんなことが続いていくのだろうか。
周りを巻きこむかもしれないし、もう誰ともいない方がいいのではないか...そんなことを考えてしまうのだ。
(ふたりで頑張ろうって木葉はいつも言ってくれるけど、今回は私ばかりが迷惑をかけてる。
...もっとできることを探さないと)
「またひとりで抱えこもうとしてるでしょ、七海」
「もう出てたんだね」
質問には答えずに、思ったままを口にする。
木葉の表情は哀しみに染まっていて、体が固まってしまいそうになった。
「...不安なのは分かるけど、僕のことを遠ざけようとしないでほしいな」
抱きしめてくれた腕は温かくて泣いてしまいそうになる。
どうして彼の言葉は、いつも私の心を溶かしてくれるのだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

貴妃エレーナ

無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」 後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。 「急に、どうされたのですか?」 「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」 「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」 そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。 どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。 けれど、もう安心してほしい。 私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。 だから… 「陛下…!大変です、内乱が…」 え…? ーーーーーーーーーーーーー ここは、どこ? さっきまで内乱が… 「エレーナ?」 陛下…? でも若いわ。 バッと自分の顔を触る。 するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。 懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!

夜這いを仕掛けてみたら

よしゆき
恋愛
付き合って二年以上経つのにキスしかしてくれない紳士な彼氏に夜這いを仕掛けてみたら物凄く性欲をぶつけられた話。

処理中です...