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断暮篇(たちぐらしへん)
番外篇『重なる舞』
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《お願い、美桜さん》
その一文には、強い意志がこめられている。
そう感じたのはつい最近のことだ。
「あの家の人たちに追いかけられているみたいで...」
そのときから、もしかしたら何か必要になるかもしれないと覚悟はしていた。
神楽も剣舞もなんでもこなせる七海なら、道具さえあればどんな災厄でも祓ってしまえるだろう。
私にできることはかなり限られている。
ただ、何もしないという選択ははじめから存在していない。
一先ず使いたいと手紙に書かれていた道具を用意する。
「...少し重いけど運べそう?」
目の前の烏はひと鳴きして空を見上げている。
早く家に帰さないと、この子とはいえ道に迷ってしまうだろう。
「...もう少しだけ待ってて」
翼に巻かれている包帯をはがしてみると、そこには痛々しい傷がひろがっていた。
怪我をしているのならなおのことそのまま運んでもらうわけにはいかない。
「手当てもするから動かないで」
空を飛びたい理由はなんとなく理解しているつもりだ。
私だって、もし翼があればきっとそうしたい。
短い文章になってしまったものの、なんとか手紙を完成させた。
本当は山からあまり降りない方がいいのは分かっているけれど、どうしても心配なのだ。
「...一緒に行こう。でも、あのふたりには秘密にして」
その烏はとても聞き分けがいい真面目な子だ。
半分ほどの荷物を持ち、そのまま山を降りていく。
真夜中になっても灯りがもれている部屋を気づかれないように覗いてみると、早速私が記した方法で御守りを作っている七海が目にうつった。
「...これでちゃんと護れるかな」
そんな言葉が零れていることにも気づいていない様子で、そのまま神楽の道具を手に取り勢いよく一歩踏み出す。
...その姿には既視感があった。
『あなたは呑みこみが早い。これならすぐ舞えるようになる、と思う』
『美桜さんが言ってくれたら自信がつきます』
照れながらそう話していた友人は...海穂はもういない。
そのことを痛感しながら気配を消してその姿を見守る。
この世のものとは思えない美しさを纏った七海は、近くに木葉がいることにさえ気づいていないようだった。
「朝露の舞...」
神子に匹敵する力があった御子と、その子どもの神子。
違うと分かっていても、どうしても重ねてみてしまう。
「...私にできることを探さないと。そうでしょう、海穂」
山で祈るだけでは何もできないのかもしれない。
他のものだって、ちゃんと機能するかは使ってみるまで分からないものもある。
ただ、私はふたりの味方でいたい。
...懐かしい道具を握りしめながら、朝陽がさしこむ山道をひとりのぼった。
その一文には、強い意志がこめられている。
そう感じたのはつい最近のことだ。
「あの家の人たちに追いかけられているみたいで...」
そのときから、もしかしたら何か必要になるかもしれないと覚悟はしていた。
神楽も剣舞もなんでもこなせる七海なら、道具さえあればどんな災厄でも祓ってしまえるだろう。
私にできることはかなり限られている。
ただ、何もしないという選択ははじめから存在していない。
一先ず使いたいと手紙に書かれていた道具を用意する。
「...少し重いけど運べそう?」
目の前の烏はひと鳴きして空を見上げている。
早く家に帰さないと、この子とはいえ道に迷ってしまうだろう。
「...もう少しだけ待ってて」
翼に巻かれている包帯をはがしてみると、そこには痛々しい傷がひろがっていた。
怪我をしているのならなおのことそのまま運んでもらうわけにはいかない。
「手当てもするから動かないで」
空を飛びたい理由はなんとなく理解しているつもりだ。
私だって、もし翼があればきっとそうしたい。
短い文章になってしまったものの、なんとか手紙を完成させた。
本当は山からあまり降りない方がいいのは分かっているけれど、どうしても心配なのだ。
「...一緒に行こう。でも、あのふたりには秘密にして」
その烏はとても聞き分けがいい真面目な子だ。
半分ほどの荷物を持ち、そのまま山を降りていく。
真夜中になっても灯りがもれている部屋を気づかれないように覗いてみると、早速私が記した方法で御守りを作っている七海が目にうつった。
「...これでちゃんと護れるかな」
そんな言葉が零れていることにも気づいていない様子で、そのまま神楽の道具を手に取り勢いよく一歩踏み出す。
...その姿には既視感があった。
『あなたは呑みこみが早い。これならすぐ舞えるようになる、と思う』
『美桜さんが言ってくれたら自信がつきます』
照れながらそう話していた友人は...海穂はもういない。
そのことを痛感しながら気配を消してその姿を見守る。
この世のものとは思えない美しさを纏った七海は、近くに木葉がいることにさえ気づいていないようだった。
「朝露の舞...」
神子に匹敵する力があった御子と、その子どもの神子。
違うと分かっていても、どうしても重ねてみてしまう。
「...私にできることを探さないと。そうでしょう、海穂」
山で祈るだけでは何もできないのかもしれない。
他のものだって、ちゃんと機能するかは使ってみるまで分からないものもある。
ただ、私はふたりの味方でいたい。
...懐かしい道具を握りしめながら、朝陽がさしこむ山道をひとりのぼった。
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