ハーフ&ハーフ

黒蝶

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断暮篇(たちぐらしへん)

彼の裏側

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まだ寝惚け半分の状態ながら、ラッシュさんについての事実を述べる。
「情、報屋...?」
七海は混乱したような反応を見せる。
その反応も無理はない。
普段は洋服及び雑貨屋を営む店長で、あの優しげな見た目からもそうは見えないだろう。
『お嬢さん、今木葉の声がしたような気がするんだが...』
「...スピーカーにして。全部ちゃんと話すから」
七海は頷き、そのままスマートフォンをテーブルに置く。
「どうして依頼についてしっかりばらしちゃったの?」
『お嬢さんは証拠を掴んでいるんだから、話しても問題ないと判断したんだ』
「証拠...」
「ごめんなさい。勝手に読んじゃったんだ」
そのメモ用紙は見覚えがあるものばかりで、自らがおかした失態を察知した。
「そっか...それなら仕方ない」
『なんだ、俺のことは黙っててくれてたのか』
「ラッシュさん、そういうの知られるの嫌だって言ってたから...。
でも、最初から話せばよかったかな」
内心苦笑しつつ、からかい口調で彼の反応を見てみる。
『まったく、口達者なのはケイト似だな』
「そう?僕よりすごい気もするけど...」
「どうして教えてくれなかったの?」
七海から静かな悲しみを感じ、そっと手を握りながら説明することにする。
「ラッシュさんは結構有名な情報屋なんだ。..夜に来るお客さんが多いから、お昼はただの店長さんだけどね」
「いつから知ってたの?」
「だいぶ前から。...でも、七海の家について調べるのがこんなに早いとは思ってなかった」
『おまえが情報屋としての俺に頼みこんでくるのは珍しかったからな。それに、切羽詰まった状態なんだろ?』
「この前の人たちを巻く為に、ちょっとでいいから協力してほしいってお願いしたんだ」
彼女はただ呆然としている。
いつもなら多少は表情が変わるはずなのに、こんな状況は珍しい。
『黙っていて悪かったな、お嬢さん』
「いえ。でも、まだ頭が追いついていないので少しだけ待ってもらえませんか?」
『それもそうだろう。...すまない、そろそろ開店準備をしないといけないからまた連絡する』
ラッシュさんはそれだけ告げ、通話が終わる。
どこまで話したのか、どんな内容だったのかを知らなければ、七海にどんな説明をすればいいのか分からない。
「...お互い隠すのはなしで、話をしよう」
「分かった。私もちゃんと話す。でも、もう少しだけラッシュさんについて教えてほしい」
「僕が知っているのは、誰も死なせたくなくて始めたってことと...ものすごく優秀だってことだけなんだ。あんまり説明できなくてごめん」
「ううん、それで充分だよ。ありがとう」
ここまで知られてしまっては仕方がない。
本当は秘密にしておきたかったが、これから彼女に打ち明けてしまおう。

──犯人の本拠地についても。
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