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断暮篇(たちぐらしへん)
朝露の舞
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なんだか七海の様子がおかしい。
1度眠ってしまうときっと朝起きることができないからと、この日は徹夜することにした。
「...何を隠しているんだろうね」
ノワールの包帯を換えつつ、考えていることが口から零れてしまうのを止められない。
「何か知らない?」
どんな言葉をかけても、ノワールからの反応はない。
一瞬かなり具合が悪くなっているんじゃないかと思ったが、寝息を聞いてほっとした。
ただ疲れているのだろう...そう思い、読みかけだった本に集中する。
瞼が重くなってきて、時計に目をやると早朝4時を指していた。
本来ならこれ以上は起きられずに寝てしまうのだが、今日はそういうわけにはいかない。
なんとかマグカップを掴むと、すぐ近くで大きく踏みこむ音がした。
気になって覗いてみると、そこでは巫女装束に身を包んだ恋人がふっと息を漏らし何かを舞っている。
「綺麗...」
七海の邪魔にならないように気配を消す。
本当はなんとか力になりたかったが、僕は神楽や剣舞といった神に捧げるものに詳しくない。
ぼんやりと見つめていると、足元に気をつけていることに気づく。
あの怪我で足が痛まないはずがない。
止めるべきか...そう思った瞬間、七海の体はその場に崩れ落ちた。
「大丈夫?」
「こ、木葉、どうして...」
息を切らしながら話をする七海を抱きかかえ、そのままソファーまで運ぶ。
「ごめんね。見ちゃ駄目なのかもしれないって思ってたけど、様子がおかしいのが気になったから...どうしても心配だったんだ」
急いで救急箱を開けると、七海は仕方ないというようにゆっくり話してくれた。
「怪我をする可能性もあったけど、それよりも災厄を祓いたくて...心配、かけたくなかったから」
七海の笑顔はとても苦しそうで、見ているこっちまで胸が締めつけられる。
「心配したりされたりって、そんなに悪いことなのかな?」
「木葉...?」
「僕は、ちゃんと教えてほしかった。何もできなかったけど、それでも側にいることはできたはずだから」
「...朝露の舞は、早朝やらないと効果がないから、起こさないようにしたかったんだ」
彼女はきっと、僕に見られない時間帯にできるものを選んだのだろう。
ただ、疲労の色が見えはじめている相手を質問攻めにするのは気が引ける。
「手当てはこれで終わったけど、もう安静にしててね。それから...」
「それから?」
...もう少しだけ持たせたかったが、残念なことにそれは叶わないらしい。
「後で、ちゃんと...」
上手く言葉にできないまま、意識が闇へと堕ちていく。
最後に目にうつったのは、不安げに揺れる瞳だった。
1度眠ってしまうときっと朝起きることができないからと、この日は徹夜することにした。
「...何を隠しているんだろうね」
ノワールの包帯を換えつつ、考えていることが口から零れてしまうのを止められない。
「何か知らない?」
どんな言葉をかけても、ノワールからの反応はない。
一瞬かなり具合が悪くなっているんじゃないかと思ったが、寝息を聞いてほっとした。
ただ疲れているのだろう...そう思い、読みかけだった本に集中する。
瞼が重くなってきて、時計に目をやると早朝4時を指していた。
本来ならこれ以上は起きられずに寝てしまうのだが、今日はそういうわけにはいかない。
なんとかマグカップを掴むと、すぐ近くで大きく踏みこむ音がした。
気になって覗いてみると、そこでは巫女装束に身を包んだ恋人がふっと息を漏らし何かを舞っている。
「綺麗...」
七海の邪魔にならないように気配を消す。
本当はなんとか力になりたかったが、僕は神楽や剣舞といった神に捧げるものに詳しくない。
ぼんやりと見つめていると、足元に気をつけていることに気づく。
あの怪我で足が痛まないはずがない。
止めるべきか...そう思った瞬間、七海の体はその場に崩れ落ちた。
「大丈夫?」
「こ、木葉、どうして...」
息を切らしながら話をする七海を抱きかかえ、そのままソファーまで運ぶ。
「ごめんね。見ちゃ駄目なのかもしれないって思ってたけど、様子がおかしいのが気になったから...どうしても心配だったんだ」
急いで救急箱を開けると、七海は仕方ないというようにゆっくり話してくれた。
「怪我をする可能性もあったけど、それよりも災厄を祓いたくて...心配、かけたくなかったから」
七海の笑顔はとても苦しそうで、見ているこっちまで胸が締めつけられる。
「心配したりされたりって、そんなに悪いことなのかな?」
「木葉...?」
「僕は、ちゃんと教えてほしかった。何もできなかったけど、それでも側にいることはできたはずだから」
「...朝露の舞は、早朝やらないと効果がないから、起こさないようにしたかったんだ」
彼女はきっと、僕に見られない時間帯にできるものを選んだのだろう。
ただ、疲労の色が見えはじめている相手を質問攻めにするのは気が引ける。
「手当てはこれで終わったけど、もう安静にしててね。それから...」
「それから?」
...もう少しだけ持たせたかったが、残念なことにそれは叶わないらしい。
「後で、ちゃんと...」
上手く言葉にできないまま、意識が闇へと堕ちていく。
最後に目にうつったのは、不安げに揺れる瞳だった。
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