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断暮篇(たちぐらしへん)
木葉の耐久事情
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あれからまだ何事もなく過ごせているけれど、不安にならない訳じゃない。
「大丈夫?何かあった?」
「ううん、なんでもない。材料も揃ったし、一緒に作ろうか」
なんだか木葉の様子がおかしい。
不安を持っているというよりは、何かを心に秘めているような...少し遠ざかってしまうような気がする。
それが嫌で、けれど言葉にするのは難しくてただ手を伸ばす。
「七海?」
「ごめん。急にこんなことを感じるのはおかしいかもしれないけど、なんだか木葉が遠くに行ってしまいそうな気がして...」
木葉から滲み出る寂しさのようなものを感じて、なんだか怖くなってきてしまう。
震えそうになるのを抑えながら真っ直ぐ見つめると、木葉はただ笑っていた。
「どこにも行かないよ。...七海の側にいるって、もう決めてるから」
おかしいと思われても仕方ないのに、木葉は真面目に言葉を受け取ってくれる。
その心の広さに感謝しながら、夕飯の支度を少しずつ終わらせていく。
まだ戸惑うこともあるけれど、腕を動かしていれば少しは考えずにいられるような気がした。
──木葉の異変に気づいたのはお風呂あがりだ。
「木葉、お風呂...」
そこまでで言葉を失った。
彼の腕に巻かれていた真っ白な包帯...それが何を意味しているのかくらいは想像できる。
「ごめん、すぐ入るね」
「...うん」
私を噛まないようにする為に、また自分を傷つけている。
最近全然噛みたそうにしていなかったのは、てっきりクレールが届いたからだと思っていた。
(もしかして、ずっとひとりで苦しいのを我慢している?)
「七海、今日もアイスを買いに行こう」
「そうだね」
混乱する頭を抱えたまま、木葉の隣を歩く。
コンビニまでの道がやけに近く感じた。
「...木葉」
「どうしたの?」
「何か隠してない?」
木葉の瞳が一瞬揺れたけれど、いつものように振る舞っている。
「何も隠し事なんてしてないよ」
「それじゃあ、腕の包帯は?」
「これは、その...」
「最近長袖しか着てなかったのも、それを隠すため?」
今思えば、最近彼はいつもパーカーを羽織ったまま過ごしていた。
どれだけ暑くても袖を捲らない。
けれど、今なら分かる。
...捲らなかったんじゃなくて、心配をかけまいと捲らないようにしていたのだと。
「教えて木葉。...私だって木葉に側にいてほしい」
「七海...」
訊いていいのかなんて考える余裕もなかった。
私が知らないことを教えてほしい。
縋るように腕を掴んで見つめていると、ふっと息がもれる気配がした。
「やっぱり隠しきれなかったか...」
「それじゃあやっぱり、」
「...できるだけ咬まずにすむようにしたかったんだ。毎回七海のことを傷つけたくないから」
「大丈夫?何かあった?」
「ううん、なんでもない。材料も揃ったし、一緒に作ろうか」
なんだか木葉の様子がおかしい。
不安を持っているというよりは、何かを心に秘めているような...少し遠ざかってしまうような気がする。
それが嫌で、けれど言葉にするのは難しくてただ手を伸ばす。
「七海?」
「ごめん。急にこんなことを感じるのはおかしいかもしれないけど、なんだか木葉が遠くに行ってしまいそうな気がして...」
木葉から滲み出る寂しさのようなものを感じて、なんだか怖くなってきてしまう。
震えそうになるのを抑えながら真っ直ぐ見つめると、木葉はただ笑っていた。
「どこにも行かないよ。...七海の側にいるって、もう決めてるから」
おかしいと思われても仕方ないのに、木葉は真面目に言葉を受け取ってくれる。
その心の広さに感謝しながら、夕飯の支度を少しずつ終わらせていく。
まだ戸惑うこともあるけれど、腕を動かしていれば少しは考えずにいられるような気がした。
──木葉の異変に気づいたのはお風呂あがりだ。
「木葉、お風呂...」
そこまでで言葉を失った。
彼の腕に巻かれていた真っ白な包帯...それが何を意味しているのかくらいは想像できる。
「ごめん、すぐ入るね」
「...うん」
私を噛まないようにする為に、また自分を傷つけている。
最近全然噛みたそうにしていなかったのは、てっきりクレールが届いたからだと思っていた。
(もしかして、ずっとひとりで苦しいのを我慢している?)
「七海、今日もアイスを買いに行こう」
「そうだね」
混乱する頭を抱えたまま、木葉の隣を歩く。
コンビニまでの道がやけに近く感じた。
「...木葉」
「どうしたの?」
「何か隠してない?」
木葉の瞳が一瞬揺れたけれど、いつものように振る舞っている。
「何も隠し事なんてしてないよ」
「それじゃあ、腕の包帯は?」
「これは、その...」
「最近長袖しか着てなかったのも、それを隠すため?」
今思えば、最近彼はいつもパーカーを羽織ったまま過ごしていた。
どれだけ暑くても袖を捲らない。
けれど、今なら分かる。
...捲らなかったんじゃなくて、心配をかけまいと捲らないようにしていたのだと。
「教えて木葉。...私だって木葉に側にいてほしい」
「七海...」
訊いていいのかなんて考える余裕もなかった。
私が知らないことを教えてほしい。
縋るように腕を掴んで見つめていると、ふっと息がもれる気配がした。
「やっぱり隠しきれなかったか...」
「それじゃあやっぱり、」
「...できるだけ咬まずにすむようにしたかったんだ。毎回七海のことを傷つけたくないから」
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