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断暮篇(たちぐらしへん)
小回り道
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監視するつもりはないが、あまり七海から離れるのは不安だ。
「...ノワール」
初めてカフェを見たときから、なんとなく既視感はあった。
もしかしたら、昔来たことがあったかもしれないと...。
どうやらその勘は間違っていなかったようだ。
「...懐かしいね」
肩に乗せたままのノワールに話しかけながら、細道を少しずつ前に進んでいく。
──それはまだ、僕にヴァンパイアの血が流れているとばれてしまったばかりの頃。
『...明日から学校どうしようかな』
本当は大学からの推薦の話がきていた。
まだ2年生なので考えさせてくださいとは話しておいたものの、受けなくて本当によかったと思っている。
翌日は結局学校へ行ったものの、すれ違っただけで悲鳴をあげられてしまう始末だった。
「...辞めちゃおうかな」
そこで僕は、働きながらでも通える学校を探すことにした。
そのとき人の目を避けて通るのに丁度よかったのが偶然見つけたこの道だ。
この先には、今でも仕事先としてお世話になっている小さな書店がある。
『あの、僕...4月から1年通信制高校に通うつもりなんです。それでも雇ってもらえますか?』
店主はただ笑って、自分がこられそうな時間帯に体験においでと言ってくれた。
元々通っていた学校は夜間で、高卒認定も受けながら3年で卒業できるようにはしていたのだ。
朝起きられないから、通信制に通いきれる自信もあまりない。
それでも頑張れたのは、この小道があったからだ。
『...ごめんノワール、ちょっと疲れちゃった』
雨の日もその狭い道に座りこんで、死ぬ気で参考書に目を通したこともある。
『こんにちは』
『お疲れ。...中津君、もしよかったら高校を卒業したら正社員としてやってみないかい?』
『いいんですか?』
そんな思い出がつまった道がまだ残っているとは思わなかった。
近くには大福が美味しいお店があって、いつも買っていたのを思い出す。
「...あった」
あんなおしゃれなカフェは見たことがなかったから分からなかったものの、やはりここには僕の色を失っていた世界の全てが存在していた。
久しぶりに大福が食べたくなって暖簾をくぐる。
「いらっしゃいませ...あら?もしかして、ずっと通ってくださってた学生さん?」
「こんにちは。お久しぶりです。今はもう学生じゃないんですけど、この近くの本屋で働いています」
「そうなの...。それじゃあ、弥生ちゃんと同い年くらいなのね」
「弥生ちゃん?」
「毎日のように通ってくれてた、すごくいい子でね...今はうちの従業員なの」
「そうなんですね。あ、大福ふたつください」
同時期に卒業した生徒に同じ名前の子がいたような気がしたが、気のせいだろうか。
この日は確認せず、大福をもってまたきますとだけ伝えた。
...七海と一緒に食べられるのが楽しみだ。
「...ノワール」
初めてカフェを見たときから、なんとなく既視感はあった。
もしかしたら、昔来たことがあったかもしれないと...。
どうやらその勘は間違っていなかったようだ。
「...懐かしいね」
肩に乗せたままのノワールに話しかけながら、細道を少しずつ前に進んでいく。
──それはまだ、僕にヴァンパイアの血が流れているとばれてしまったばかりの頃。
『...明日から学校どうしようかな』
本当は大学からの推薦の話がきていた。
まだ2年生なので考えさせてくださいとは話しておいたものの、受けなくて本当によかったと思っている。
翌日は結局学校へ行ったものの、すれ違っただけで悲鳴をあげられてしまう始末だった。
「...辞めちゃおうかな」
そこで僕は、働きながらでも通える学校を探すことにした。
そのとき人の目を避けて通るのに丁度よかったのが偶然見つけたこの道だ。
この先には、今でも仕事先としてお世話になっている小さな書店がある。
『あの、僕...4月から1年通信制高校に通うつもりなんです。それでも雇ってもらえますか?』
店主はただ笑って、自分がこられそうな時間帯に体験においでと言ってくれた。
元々通っていた学校は夜間で、高卒認定も受けながら3年で卒業できるようにはしていたのだ。
朝起きられないから、通信制に通いきれる自信もあまりない。
それでも頑張れたのは、この小道があったからだ。
『...ごめんノワール、ちょっと疲れちゃった』
雨の日もその狭い道に座りこんで、死ぬ気で参考書に目を通したこともある。
『こんにちは』
『お疲れ。...中津君、もしよかったら高校を卒業したら正社員としてやってみないかい?』
『いいんですか?』
そんな思い出がつまった道がまだ残っているとは思わなかった。
近くには大福が美味しいお店があって、いつも買っていたのを思い出す。
「...あった」
あんなおしゃれなカフェは見たことがなかったから分からなかったものの、やはりここには僕の色を失っていた世界の全てが存在していた。
久しぶりに大福が食べたくなって暖簾をくぐる。
「いらっしゃいませ...あら?もしかして、ずっと通ってくださってた学生さん?」
「こんにちは。お久しぶりです。今はもう学生じゃないんですけど、この近くの本屋で働いています」
「そうなの...。それじゃあ、弥生ちゃんと同い年くらいなのね」
「弥生ちゃん?」
「毎日のように通ってくれてた、すごくいい子でね...今はうちの従業員なの」
「そうなんですね。あ、大福ふたつください」
同時期に卒業した生徒に同じ名前の子がいたような気がしたが、気のせいだろうか。
この日は確認せず、大福をもってまたきますとだけ伝えた。
...七海と一緒に食べられるのが楽しみだ。
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