211 / 258
断暮篇(たちぐらしへん)
生活変化
しおりを挟む
「おはよう...」
「おはよう。今日はなんだか眠そうだね」
「昨日バイトの後輩がこられなくなっちゃって、その分意気ごみすぎたのかもしれない...」
「木葉らしいね」
向かい合わせに座って両手をあわせる。
朝陽が綺麗だったとか、自分がやっていた仕事はどうだったとか、そんな他愛のない会話をした。
「今日は食材を買いに行きたくて...」
「そんなに遠慮しなくていいよ。一緒に行こう」
七海を追うものがいるらしいと知ってから数日。
あれから彼女にはひとりで外出しないように言ってある。
...とはいえ、そろそろリハビリがてら近くを散歩する程度の外出は必要だ。
ただ、ご飯の買い物には必ずついていくことにした。
「今日は何を作ろうかな...」
「トマトが安いみたい。ソースを作ってパスタにするのはどうかな?」
「今日はもう炊飯器で予約してきちゃったから、あっちの白身魚にかけて食べよう」
「それじゃあ僕はソースを作るよ。フライパン、結構重いから」
ふたり揃って主婦のような会話をしながら、ただ町を歩く。
それだけで今は充分だ。
あれから姿を見せていないあの人たちは、まだ追ってくるつもりだろうか。
「...ノワール」
かあ、とひと鳴きして低空飛行をやめるのは、少し飛べるようになった1羽の烏だ。
「駄目だよ、ちゃんと僕の肩に乗ってないと...」
気分転換は必要だからと思い、建物に入るときだけは人様に迷惑をかけない範囲で飛ぶ練習をするようにと言い聞かせてはいる。
...残念なことにあまり響いていないようだが。
「ノワール、どうしてそんなに濡れてるの?」
「どうしてだろう...。帰ったらまずは体を拭かないと」
元気よく鳴く声を聞きながら、七海の手は絶対に離さずにもう一方の手で荷物を持つ。
相変わらず朝は苦手で起きられないが、それでも一緒にいられる時間があるのは嬉しい。
「ここに置いておくから、先に魚を焼いててもらってもいい?」
「うん。任せて」
家の中で使う為の杖に持ちかえた七海は、魚を前にどうしようかと悩んでいる。
そんな様子を見届け、ノワールにだけ聞こえるように話しかけた。
「...怪しい人影は?」
首を横にふる姿を見ると、はりつめていたものが一気に切れるような感触がした。
「ありがとう」
ついでに七海の杖の手入れをしてからすぐに彼女の元へ向かう。
「結局オリーブオイルを使って焼くことにした」
「調理法で悩んでたの?」
「うん。どうすれば1番美味しいかなって...」
その一言さえ微笑ましいと感じてしまうのは、おかしいことだろうか。
「おはよう。今日はなんだか眠そうだね」
「昨日バイトの後輩がこられなくなっちゃって、その分意気ごみすぎたのかもしれない...」
「木葉らしいね」
向かい合わせに座って両手をあわせる。
朝陽が綺麗だったとか、自分がやっていた仕事はどうだったとか、そんな他愛のない会話をした。
「今日は食材を買いに行きたくて...」
「そんなに遠慮しなくていいよ。一緒に行こう」
七海を追うものがいるらしいと知ってから数日。
あれから彼女にはひとりで外出しないように言ってある。
...とはいえ、そろそろリハビリがてら近くを散歩する程度の外出は必要だ。
ただ、ご飯の買い物には必ずついていくことにした。
「今日は何を作ろうかな...」
「トマトが安いみたい。ソースを作ってパスタにするのはどうかな?」
「今日はもう炊飯器で予約してきちゃったから、あっちの白身魚にかけて食べよう」
「それじゃあ僕はソースを作るよ。フライパン、結構重いから」
ふたり揃って主婦のような会話をしながら、ただ町を歩く。
それだけで今は充分だ。
あれから姿を見せていないあの人たちは、まだ追ってくるつもりだろうか。
「...ノワール」
かあ、とひと鳴きして低空飛行をやめるのは、少し飛べるようになった1羽の烏だ。
「駄目だよ、ちゃんと僕の肩に乗ってないと...」
気分転換は必要だからと思い、建物に入るときだけは人様に迷惑をかけない範囲で飛ぶ練習をするようにと言い聞かせてはいる。
...残念なことにあまり響いていないようだが。
「ノワール、どうしてそんなに濡れてるの?」
「どうしてだろう...。帰ったらまずは体を拭かないと」
元気よく鳴く声を聞きながら、七海の手は絶対に離さずにもう一方の手で荷物を持つ。
相変わらず朝は苦手で起きられないが、それでも一緒にいられる時間があるのは嬉しい。
「ここに置いておくから、先に魚を焼いててもらってもいい?」
「うん。任せて」
家の中で使う為の杖に持ちかえた七海は、魚を前にどうしようかと悩んでいる。
そんな様子を見届け、ノワールにだけ聞こえるように話しかけた。
「...怪しい人影は?」
首を横にふる姿を見ると、はりつめていたものが一気に切れるような感触がした。
「ありがとう」
ついでに七海の杖の手入れをしてからすぐに彼女の元へ向かう。
「結局オリーブオイルを使って焼くことにした」
「調理法で悩んでたの?」
「うん。どうすれば1番美味しいかなって...」
その一言さえ微笑ましいと感じてしまうのは、おかしいことだろうか。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

片想いの相手と二人、深夜、狭い部屋。何も起きないはずはなく
おりの まるる
恋愛
ユディットは片想いしている室長が、再婚すると言う噂を聞いて、情緒不安定な日々を過ごしていた。
そんなある日、怖い噂話が尽きない古い教会を改装して使っている書庫で、仕事を終えるとすっかり夜になっていた。
夕方からの大雨で研究棟へ帰れなくなり、途方に暮れていた。
そんな彼女を室長が迎えに来てくれたのだが、トラブルに見舞われ、二人っきりで夜を過ごすことになる。
全4話です。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる