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遡暮篇(のぼりぐらしへん)
小さな疑問
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「ごめん!本当にごめん...!」
翌日、私は謝り倒されることになった。
寝起きの木葉は記憶が曖昧そうだったけれど、どうやらばっちり思い出したらしい。
「そんなに謝らなくても、嫌だった訳じゃないから大丈夫だよ。
...確かに吃驚はしたし、恥ずかしかったけど」
「ごめん...」
木葉に俯いてほしくなくて、できるだけ視線をあわせるようにして言葉を紡ぐ。
「こんなに思われているんだって思うと、その...寧ろ嬉しかった」
「え?」
恥ずかしさのあまり、だんだん声が小さくなってしまう。
どんな反応がかえってくるのか内心怖いと思っていたけれど、木葉の表情は明るいものだった。
「七海のことは大好きだけど、あんなふうにじゃなくてもっと紳士らしくしたかった」
「木葉はいつも紳士だよ」
ぽつりぽつりと言葉を交わしながら、いつもどおりの昼過ぎがやってくる。
(こうやって一緒にいられるのは嬉しいな)
「ご飯食べられそう?」
「うん。今はもう元気だから、ありがたくいただきます。
そういえば僕ってお酒に酔いやすいんだね。...全然気づいてなかった」
「え、そうなの?」
一瞬だけ間が開いて、木葉は苦笑いしながら話した。
「七海としか呑んだことがなかったからかな?他の人とだと比較対象にならないし...」
ヴァンパイアは基本的にみんな強いから、そう告げた彼の瞳には翳りが落ちていた。
もしかすると、聞かれたくないことだったのかもしれない。
友だちを作らないようにしていたことは知っているけれど、その理由はきっと『他のみんなとは違うから』だけではないのだろう。
(どうしよう。踏みこんで訊いてみるべきなのかな...)
ぼんやりしていると、不思議そうな表情で覗きこまれていた。
「大丈夫?もしかして疲れてるんじゃ...」
「そんなことはないから気にしないで。夕飯は何にしようか考えてただけだから」
木葉は訝しげな表情を浮かべていたけれど、やがてそっかと言って笑った。
せめてご飯の間は楽しく過ごしたい。
けれど、どんな重いものを背負っているのかだけはちゃんと訊こうと決めていた。
「ごちそうさまでした」
食器を洗おうとすると、そのまま座っているように言われてしまう。
それが優しさからのことだと分かってはいるけれど、何もできないのはもどかしい。
「ねえ、木葉。もしよかったらおやつ食べない?」
「何か作るの?」
「というより、もう作っておいたんだ」
冷蔵庫から取り出したチョコレート菓子を、宝石でも見るかのように目をきらきらさせながら見つめている。
木葉のそういう一面を見ると微笑ましく感じてしまうのは、言うまでもない。
(切り出すなら今しかない)
「...木葉が言いたくなかったら言わなくていいんだけど、どうして人と関わらないようにしてたの?
人間にはなれないから、だけじゃないような気がする」
彼は食器を洗っていた手を止めて、私に視線を向ける。
押し黙っていると、彼の口からふっと息が漏れた。
翌日、私は謝り倒されることになった。
寝起きの木葉は記憶が曖昧そうだったけれど、どうやらばっちり思い出したらしい。
「そんなに謝らなくても、嫌だった訳じゃないから大丈夫だよ。
...確かに吃驚はしたし、恥ずかしかったけど」
「ごめん...」
木葉に俯いてほしくなくて、できるだけ視線をあわせるようにして言葉を紡ぐ。
「こんなに思われているんだって思うと、その...寧ろ嬉しかった」
「え?」
恥ずかしさのあまり、だんだん声が小さくなってしまう。
どんな反応がかえってくるのか内心怖いと思っていたけれど、木葉の表情は明るいものだった。
「七海のことは大好きだけど、あんなふうにじゃなくてもっと紳士らしくしたかった」
「木葉はいつも紳士だよ」
ぽつりぽつりと言葉を交わしながら、いつもどおりの昼過ぎがやってくる。
(こうやって一緒にいられるのは嬉しいな)
「ご飯食べられそう?」
「うん。今はもう元気だから、ありがたくいただきます。
そういえば僕ってお酒に酔いやすいんだね。...全然気づいてなかった」
「え、そうなの?」
一瞬だけ間が開いて、木葉は苦笑いしながら話した。
「七海としか呑んだことがなかったからかな?他の人とだと比較対象にならないし...」
ヴァンパイアは基本的にみんな強いから、そう告げた彼の瞳には翳りが落ちていた。
もしかすると、聞かれたくないことだったのかもしれない。
友だちを作らないようにしていたことは知っているけれど、その理由はきっと『他のみんなとは違うから』だけではないのだろう。
(どうしよう。踏みこんで訊いてみるべきなのかな...)
ぼんやりしていると、不思議そうな表情で覗きこまれていた。
「大丈夫?もしかして疲れてるんじゃ...」
「そんなことはないから気にしないで。夕飯は何にしようか考えてただけだから」
木葉は訝しげな表情を浮かべていたけれど、やがてそっかと言って笑った。
せめてご飯の間は楽しく過ごしたい。
けれど、どんな重いものを背負っているのかだけはちゃんと訊こうと決めていた。
「ごちそうさまでした」
食器を洗おうとすると、そのまま座っているように言われてしまう。
それが優しさからのことだと分かってはいるけれど、何もできないのはもどかしい。
「ねえ、木葉。もしよかったらおやつ食べない?」
「何か作るの?」
「というより、もう作っておいたんだ」
冷蔵庫から取り出したチョコレート菓子を、宝石でも見るかのように目をきらきらさせながら見つめている。
木葉のそういう一面を見ると微笑ましく感じてしまうのは、言うまでもない。
(切り出すなら今しかない)
「...木葉が言いたくなかったら言わなくていいんだけど、どうして人と関わらないようにしてたの?
人間にはなれないから、だけじゃないような気がする」
彼は食器を洗っていた手を止めて、私に視線を向ける。
押し黙っていると、彼の口からふっと息が漏れた。
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