ハーフ&ハーフ

黒蝶

文字の大きさ
上 下
200 / 258
遡暮篇(のぼりぐらしへん)

小さな疑問

しおりを挟む
「ごめん!本当にごめん...!」
翌日、私は謝り倒されることになった。
寝起きの木葉は記憶が曖昧そうだったけれど、どうやらばっちり思い出したらしい。
「そんなに謝らなくても、嫌だった訳じゃないから大丈夫だよ。
...確かに吃驚はしたし、恥ずかしかったけど」
「ごめん...」
木葉に俯いてほしくなくて、できるだけ視線をあわせるようにして言葉を紡ぐ。
「こんなに思われているんだって思うと、その...寧ろ嬉しかった」
「え?」
恥ずかしさのあまり、だんだん声が小さくなってしまう。
どんな反応がかえってくるのか内心怖いと思っていたけれど、木葉の表情は明るいものだった。
「七海のことは大好きだけど、あんなふうにじゃなくてもっと紳士らしくしたかった」
「木葉はいつも紳士だよ」
ぽつりぽつりと言葉を交わしながら、いつもどおりの昼過ぎがやってくる。
(こうやって一緒にいられるのは嬉しいな)
「ご飯食べられそう?」
「うん。今はもう元気だから、ありがたくいただきます。
そういえば僕ってお酒に酔いやすいんだね。...全然気づいてなかった」
「え、そうなの?」
一瞬だけ間が開いて、木葉は苦笑いしながら話した。
「七海としか呑んだことがなかったからかな?他の人とだと比較対象にならないし...」
ヴァンパイアは基本的にみんな強いから、そう告げた彼の瞳には翳りが落ちていた。
もしかすると、聞かれたくないことだったのかもしれない。
友だちを作らないようにしていたことは知っているけれど、その理由はきっと『他のみんなとは違うから』だけではないのだろう。
(どうしよう。踏みこんで訊いてみるべきなのかな...)
ぼんやりしていると、不思議そうな表情で覗きこまれていた。
「大丈夫?もしかして疲れてるんじゃ...」
「そんなことはないから気にしないで。夕飯は何にしようか考えてただけだから」
木葉は訝しげな表情を浮かべていたけれど、やがてそっかと言って笑った。
せめてご飯の間は楽しく過ごしたい。
けれど、どんな重いものを背負っているのかだけはちゃんと訊こうと決めていた。
「ごちそうさまでした」
食器を洗おうとすると、そのまま座っているように言われてしまう。
それが優しさからのことだと分かってはいるけれど、何もできないのはもどかしい。
「ねえ、木葉。もしよかったらおやつ食べない?」
「何か作るの?」
「というより、もう作っておいたんだ」
冷蔵庫から取り出したチョコレート菓子を、宝石でも見るかのように目をきらきらさせながら見つめている。
木葉のそういう一面を見ると微笑ましく感じてしまうのは、言うまでもない。
(切り出すなら今しかない)
「...木葉が言いたくなかったら言わなくていいんだけど、どうして人と関わらないようにしてたの?
人間にはなれないから、だけじゃないような気がする」
彼は食器を洗っていた手を止めて、私に視線を向ける。
押し黙っていると、彼の口からふっと息が漏れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

【完結】離縁ですか…では、私が出掛けている間に出ていって下さいね♪

山葵
恋愛
突然、カイルから離縁して欲しいと言われ、戸惑いながらも理由を聞いた。 「俺は真実の愛に目覚めたのだ。マリアこそ俺の運命の相手!」 そうですか…。 私は離婚届にサインをする。 私は、直ぐに役所に届ける様に使用人に渡した。 使用人が出掛けるのを確認してから 「私とアスベスが旅行に行っている間に荷物を纏めて出ていって下さいね♪」

【1/23取り下げ予定】あなたたちに捨てられた私はようやく幸せになれそうです

gacchi
恋愛
伯爵家の長女として生まれたアリアンヌは妹マーガレットが生まれたことで育児放棄され、伯父の公爵家の屋敷で暮らしていた。一緒に育った公爵令息リオネルと婚約の約束をしたが、父親にむりやり伯爵家に連れて帰られてしまう。しかも第二王子との婚約が決まったという。貴族令嬢として政略結婚を受け入れようと覚悟を決めるが、伯爵家にはアリアンヌの居場所はなく、婚約者の第二王子にもなぜか嫌われている。学園の二年目、婚約者や妹に虐げられながらも耐えていたが、ある日呼び出されて婚約破棄と伯爵家の籍から外されたことが告げられる。修道院に向かう前にリオ兄様にお別れするために公爵家を訪ねると…… 書籍化のため1/23に取り下げ予定です。

奪われたものは、もう返さなくていいです

gacchi
恋愛
幼い頃、母親が公爵の後妻となったことで公爵令嬢となったクラリス。正式な養女とはいえ、先妻の娘である義姉のジュディットとは立場が違うことは理解していた。そのため、言われるがままにジュディットのわがままを叶えていたが、学園に入学するようになって本当にこれが正しいのか悩み始めていた。そして、その頃、双子である第一王子アレクシスと第二王子ラファエルの妃選びが始まる。どちらが王太子になるかは、その妃次第と言われていたが……

塩対応の公子様と二度と会わないつもりでした

奏多
恋愛
子爵令嬢リシーラは、チェンジリングに遭ったせいで、両親から嫌われていた。 そのため、隣国の侵略があった時に置き去りにされたのだが、妖精の友人達のおかげで生き延びることができた。 その時、一人の騎士を助けたリシーラ。 妖精界へ行くつもりで求婚に曖昧な返事をしていた後、名前を教えずに別れたのだが、後日開催されたアルシオン公爵子息の婚約者選びのお茶会で再会してしまう。 問題の公子がその騎士だったのだ。

人生負け組のスローライフ

雪那 由多
青春
バアちゃんが体調を悪くした! 俺は長男だからバアちゃんの面倒みなくては!! ある日オヤジの叫びと共に突如引越しが決まって隣の家まで車で十分以上、ライフラインはあれどメインは湧水、ぼっとん便所に鍵のない家。 じゃあバアちゃんを頼むなと言って一人単身赴任で東京に帰るオヤジと新しいパート見つけたから実家から通うけど高校受験をすててまで来た俺に高校生なら一人でも大丈夫よね?と言って育児拒否をするオフクロ。  ほぼ病院生活となったバアちゃんが他界してから築百年以上の古民家で一人引きこもる俺の日常。 ―――――――――――――――――――――― 第12回ドリーム小説大賞 読者賞を頂きました! 皆様の応援ありがとうございます! ――――――――――――――――――――――

【完結】どうかその想いが実りますように

おもち。
恋愛
婚約者が私ではない別の女性を愛しているのは知っている。お互い恋愛感情はないけど信頼関係は築けていると思っていたのは私の独りよがりだったみたい。 学園では『愛し合う恋人の仲を引き裂くお飾りの婚約者』と陰で言われているのは分かってる。 いつまでも貴方を私に縛り付けていては可哀想だわ、だから私から貴方を解放します。 貴方のその想いが実りますように…… もう私には願う事しかできないから。 ※ざまぁは薄味となっております。(当社比)もしかしたらざまぁですらないかもしれません。汗 お読みいただく際ご注意くださいませ。 ※完結保証。全10話+番外編1話です。 ※番外編2話追加しました。 ※こちらの作品は「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています。

【完結】婚約者に忘れられていた私

稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」  「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」  私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。  エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。  ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。  私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。  あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?    まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?  誰?  あれ?  せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?  もうあなたなんてポイよポイッ。  ※ゆる~い設定です。  ※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。  ※視点が一話一話変わる場面もあります。

処理中です...