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遡暮篇(のぼりぐらしへん)
サプライズ
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「いただきます」
そんな声がして一気に目が覚める。
ふたり分したことに驚いたけど、ごくごく普通のことだった。
よくよく考えれば、シェリはヴァンパイアではないのだからこの時間から起きているのも不思議ではない。
「おはよう...」
重い体を動かしてなんとかリビングに向かうと、そこではふたりが何やら真剣に話しこんでいた。
「それじゃあ、シェリはこげ茶が好きなんだね」
「う、うん。だって、もふもふ、可愛い...から」
「それじゃあこの子を持っててほしいな。最近私が作ったものだから、出来栄えはいまひとつなんだけど...」
「あ、ありがたく、いただきます」
和やかな雰囲気が伝わってきて、内心ほっとする。
後ろから話しかけては驚かれてしまうと、足音をたてながらふたりに近づいた。
「おはよう」
「ごめん、全然気づいてなくて...」
「ふたりとも楽しそうでよかった」
「も、申し訳、ありません...」
「謝らないで。寧ろ七海と仲良く話しているところを見られてよかった」
誰とも話をしない彼女を知っているからこそ、今こうして友人ができている姿を見ていると安心する。
勿論七海にも同じような感情を抱いているのは確かだ。
出てきた料理と一緒に、可愛らしい文字で書かれているメモ用紙をこっそり渡される。
《シェリに気づかれないように作業するのがすごく難しいんだけど、何かいいアイデアない?》
「シェリ、怪我のリハビリをしたい気持ちは分かるけどちょっと休んだ方がいいよ。
...何かあったら呼びに行くから、ちょっとだけ部屋で待っててくれる?」
「わ、分かり、ました」
一礼して部屋に戻っていく姿を見送りながらほっと息を吐く。
「今のうちに作ろうか」
「手伝ってくれるの?」
「勿論だよ。ご飯はもう食べ終わったしね。...ありがとう、今日も美味しかったよ」
それだけ話し、まずはパンケーキを焼いていく。
それから生クリームとフルーツをたっぷり使ってデコレーションしていくのだが、この作業がなかなか上手くいかない。
「できた、けど...」
「大丈夫だと思う。きっと喜んでもらえるよ」
不安そうな七海にそう語りかけ、扉を2回たたく。
「は、はい...」
「シェリ、もしかしたらお腹がすいてないかもしれないけど、よかったら食べてみてくれる?」
「い、いいん、ですか?」
「シェリに食べてほしくてふたりで作ったの。...駄目かな?」
「い、いえ。いた、だきます」
食べている姿は本当に儚く、今にも壊れてしまいそうだった。
一口食べたところで、一筋の涙が零れ出す。
「あ...も、申し訳、」
「謝らなくていいから、ゆっくり食べて。...僕も七海も怒ってないから」
そんな声がして一気に目が覚める。
ふたり分したことに驚いたけど、ごくごく普通のことだった。
よくよく考えれば、シェリはヴァンパイアではないのだからこの時間から起きているのも不思議ではない。
「おはよう...」
重い体を動かしてなんとかリビングに向かうと、そこではふたりが何やら真剣に話しこんでいた。
「それじゃあ、シェリはこげ茶が好きなんだね」
「う、うん。だって、もふもふ、可愛い...から」
「それじゃあこの子を持っててほしいな。最近私が作ったものだから、出来栄えはいまひとつなんだけど...」
「あ、ありがたく、いただきます」
和やかな雰囲気が伝わってきて、内心ほっとする。
後ろから話しかけては驚かれてしまうと、足音をたてながらふたりに近づいた。
「おはよう」
「ごめん、全然気づいてなくて...」
「ふたりとも楽しそうでよかった」
「も、申し訳、ありません...」
「謝らないで。寧ろ七海と仲良く話しているところを見られてよかった」
誰とも話をしない彼女を知っているからこそ、今こうして友人ができている姿を見ていると安心する。
勿論七海にも同じような感情を抱いているのは確かだ。
出てきた料理と一緒に、可愛らしい文字で書かれているメモ用紙をこっそり渡される。
《シェリに気づかれないように作業するのがすごく難しいんだけど、何かいいアイデアない?》
「シェリ、怪我のリハビリをしたい気持ちは分かるけどちょっと休んだ方がいいよ。
...何かあったら呼びに行くから、ちょっとだけ部屋で待っててくれる?」
「わ、分かり、ました」
一礼して部屋に戻っていく姿を見送りながらほっと息を吐く。
「今のうちに作ろうか」
「手伝ってくれるの?」
「勿論だよ。ご飯はもう食べ終わったしね。...ありがとう、今日も美味しかったよ」
それだけ話し、まずはパンケーキを焼いていく。
それから生クリームとフルーツをたっぷり使ってデコレーションしていくのだが、この作業がなかなか上手くいかない。
「できた、けど...」
「大丈夫だと思う。きっと喜んでもらえるよ」
不安そうな七海にそう語りかけ、扉を2回たたく。
「は、はい...」
「シェリ、もしかしたらお腹がすいてないかもしれないけど、よかったら食べてみてくれる?」
「い、いいん、ですか?」
「シェリに食べてほしくてふたりで作ったの。...駄目かな?」
「い、いえ。いた、だきます」
食べている姿は本当に儚く、今にも壊れてしまいそうだった。
一口食べたところで、一筋の涙が零れ出す。
「あ...も、申し訳、」
「謝らなくていいから、ゆっくり食べて。...僕も七海も怒ってないから」
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