ハーフ&ハーフ

黒蝶

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遡暮篇(のぼりぐらしへん)

昔話

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事情を聞いた僕は、ただ息を吐いた。
威圧したつもりはなかったものの、シェリの生い立ちから想像するべきだったと猛省する。
「ごめん。別に怒ってる訳じゃなくてほっとしたんだ」
「ほっと...?」
頷いてみせると、不思議そうな表情で尋ねてきた。
「ど、して、怒ら、ないん...ですか?」
「わざとじゃないんだし、昔からノワールには無茶をする癖があるんだ」
「昔から?」
これには七海も興味津々のようだ。
本当は話すつもりはなかったのだが、少しでもシェリの心が晴れればいいと話してみることにした。
「小さい頃、実家の近くで遊んでいたら木から落ちて怪我しそうになったことがあったんだ。
...もう駄目だと思っていたのに、下敷きになってたのはノワールだった」
僕はいつだってノワールに助けられている。
彼にはそんなつもりはないのかもしれないが、僕にとっては心の支えだった。
他の誰とも同じになれないことが苦痛で仕方なかったとき、いつも側にいてくれた大切な友人だ。
「そのときもノワールは怪我をしたの?」
「打ち所が悪かったら死んでたかもしれないっていうのは後で聞いた。
だから、僕を助けないでってお願いしたんだけど...」
言葉を濁すと、七海ははっとした様子で申し訳なさそうに俯いてしまった。
どうしようかと考えていると、シェリが口を開く。
「優しい、ですね。ノワール、さんに...伝わった、と思い、ます」
「何が?」
「...木葉様の、優しさ、です」
「僕の、優しさ...」
シェリが微笑みかけてくれて、そっと頭を撫でる。
七海も顔をあげ、僕の方を真っ直ぐ見つめていた。
「ありがとう。そう言ってもらえるとすごく嬉しいな」
「事実、ですから」
「シェリも木葉も仲良しさんだね」
3人で笑いあっていると連絡が入る。
ディスプレイに表示された番号には覚えがあった。
「...どうしたの、ラッシュさん」
『そっちにシェリはいるか?』
「うん、いるけど...」
真っ青な顔をしている人を...ましてやこんな真夜中に少女をひとりで帰すわけにはいかない。
数秒の沈黙の後、思いきって口を開いた。
「今夜はシェリをうちに泊めるから」
「...!」
『あいつには俺から話しておく。それから、クレールが近いうちに手に入りそうだから知らせておく』
「分かった。ありがとう」
通話を終えると、ぽかんとした表情のまま立ち尽くしているシェリに声をかけた。
「というわけで、こっちの奥の部屋ならちゃんと片づいてるから好きに使って」
「あ、ありがと、ございます...」
何度も頭を下げる様子を見ながら、七海とふたりみつめあう。
...どうやら考えていることは同じのようだ。
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