ハーフ&ハーフ

黒蝶

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追暮篇(おいぐらしへん)

閑話『真相の話』・弐

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倒れそうになった私の身体を、彼は何も言わずに支えてくれた。
「大丈夫?」
「ええ...」
この関係性を保ったままで入られない...怖がられてしまうのを覚悟でただ事実を告げる。
「私、人間じゃないの」
「...そうか」
「私のこと、怖くないの?」
「なんとなく人間ではないような気はしていたから。寧ろ、正直に話してくれてありがとう」
そのぬくもりに触れていたくて手を伸ばす。
けれどその手は宙に浮かんだだけで、先に伸びてきた蓬の手がとても優しく頬を撫でてくれる。
その感触は、今でも忘れていない。
...それからも私は時々会えるのが楽しみで仕方がなかった。
好きだとか愛してるだとか、今思い返すとそんな恥ずかしいことばかり話していた覚えがある。
「...ケイト、一緒に暮らしてみない?」
「蓬、私は、」
「君が夜しか起きられなくてもいいんだ。ただ側にいてほしい」
そうして、私は蓬との生活を始めた。
ラッシュに酷く心配されたけれど、毎週手紙を送って近況を報告すると約束して人間界での生活を楽しんだ。
「お、おかえ、なさ...ませ」
「シェリ、出迎えありがとう」
夜になると時々屋敷に帰るようにはしていた。
使用人という名目で、人間たちに強いたげられてしまった子どもたちを私の遣い魔として側に置いている。
...そんなことを始めたのはいつからだろうか。
「あ、あの...」
「どうかしたの?」
「その、終わり...した」
「そう。それじゃあ答え合わせをするから持ってきてくれる?」
シェリは小さく頷いて、綺麗に書き終えてあるワークを手渡してくれた。
親から虐げられ、名前さえなかった彼女は今でも時々どこか陰を落としている。
少しでも元気づけられればと外に連れ出そうと試みたものの、結局失敗してしまった。
「言葉も、たくさ...覚え、した」
「あなたは勉強熱心で偉いわね」
1番最近迎え入れたこともあって、教育や話し言葉については授業と称して細かく教えるようにしていた。
ただ、彼女の知的好奇心はすさまじいものだったと記憶している。
「あ...」
「どうかしたの?」
「いえ、その、星が...申し訳、ありません」
「いいのよ。これからは好きなだけ星を見ていいの」
シェリは一礼して、そのまま屋敷に入っていってしまう。
「待たせてしまってごめんなさい」
「いや、構わないよ。僕だってさっき来たばかりだから」
ふたりで話しながら、シェリにはプラネタリウムでも贈ろうかなんて呑気なことを考えていた。
...本当は、そんなことを考えている時間なんて残されていなかったのに。
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