163 / 258
追暮篇(おいぐらしへん)
ただ助けになりたくて
しおりを挟む
「...痛む?」
「少しだけ」
夜、一部の怪我の包帯を少しずつ換えていく。
元々、僕のせいで負わせてしまった傷だ。
どんなに小さなことでもいいから力になりたかった。
「終わったよ」
「ありがとう。木葉は本当に手当てが上手だね」
七海は沢山ありがとうをくれるようになった。
ずっと申し訳なさそうにしていたのが嘘みたいに、ありがとうの花束をくれる。
「お礼を言うのは僕の方だよ」
「え?」
「今日だけで沢山ありがとうって言ってくれてありがとう。すごく元気をもらったよ」
「私は、当たり前のことを言っただけだから...」
他に何ができるだろう、そんなことを考えながら救急箱を片づける。
そうこうしているうちに、七海は疲れていたのか眠ってしまっていた。
...僕は早く起きることはできない。
だが、この方法ならどうだろう。
もしかすると、彼女の負担を少しは減らせるかもしれない。
「...よし」
七海を布団に寝かせ、いつもより広く感じるキッチンでひたすら具材を切り刻む。
独りだった頃はこんなふうに感じたことさえなかったのに、諸事情あってはじまったこの生活が今はこんなにも愛しい。
自分の中でどんどん大きくなっていくのを感じつつ、ただひたすらに汁物を作る。
他にも卵焼きや焼き魚、きんぴらごぼう...素朴ではあるが、なんとか完成させた。
《もしよかったら温めて食べてください。他に困ったことがあったら遠慮せずに起こしてね》
ひとくちメモにそんな言葉を残して、クレールを一気に煽る。
本当は若干渇きが酷くなってきているが、今の状況でそんなことを話せるはずがない。
いっそ寝てしまおうとそっと目を閉じる。
七海の様子は気になるものの、見に行って起こしてしまっては意味がない。
空に浮かぶ星を満喫しながら、いつの間にか眠りに落ちていた。
...翌日、まだ重い体を起こす。
本当はもう少し寝ていたかったが、それではきっと彼女はなんでも自分だけでやろうとしてしまうだろう。
「おはよう...」
キッチンに向かうと、丁度七海が食べているところだった。
彼女は僕をじっと見つめた後、ぽつりと呟く。
「...もしかしてなくても、夜作っておいてくれたんだね」
「ごめん。本当はできたてのものを食べてほしいって思ったんだけど...もしかして不味かった?」
「ううん。すごく美味しい。すごく助かったよ。...本当にありがとう」
その表情は僕が1番見たかった笑顔で、とにかくほっとした。
少しずつでいい、こうやってできることをして穏やかな時間を取り戻していこう。
そんなことを内心考えながら、いつもの席に座る。
「それじゃあ、僕も食べようかな」
「ふたりで食べるときっと美味しいよ」
その日のご飯はたしかにいつもより美味しいような気がして、とても穏やかな気持ちで過ごせた。
「少しだけ」
夜、一部の怪我の包帯を少しずつ換えていく。
元々、僕のせいで負わせてしまった傷だ。
どんなに小さなことでもいいから力になりたかった。
「終わったよ」
「ありがとう。木葉は本当に手当てが上手だね」
七海は沢山ありがとうをくれるようになった。
ずっと申し訳なさそうにしていたのが嘘みたいに、ありがとうの花束をくれる。
「お礼を言うのは僕の方だよ」
「え?」
「今日だけで沢山ありがとうって言ってくれてありがとう。すごく元気をもらったよ」
「私は、当たり前のことを言っただけだから...」
他に何ができるだろう、そんなことを考えながら救急箱を片づける。
そうこうしているうちに、七海は疲れていたのか眠ってしまっていた。
...僕は早く起きることはできない。
だが、この方法ならどうだろう。
もしかすると、彼女の負担を少しは減らせるかもしれない。
「...よし」
七海を布団に寝かせ、いつもより広く感じるキッチンでひたすら具材を切り刻む。
独りだった頃はこんなふうに感じたことさえなかったのに、諸事情あってはじまったこの生活が今はこんなにも愛しい。
自分の中でどんどん大きくなっていくのを感じつつ、ただひたすらに汁物を作る。
他にも卵焼きや焼き魚、きんぴらごぼう...素朴ではあるが、なんとか完成させた。
《もしよかったら温めて食べてください。他に困ったことがあったら遠慮せずに起こしてね》
ひとくちメモにそんな言葉を残して、クレールを一気に煽る。
本当は若干渇きが酷くなってきているが、今の状況でそんなことを話せるはずがない。
いっそ寝てしまおうとそっと目を閉じる。
七海の様子は気になるものの、見に行って起こしてしまっては意味がない。
空に浮かぶ星を満喫しながら、いつの間にか眠りに落ちていた。
...翌日、まだ重い体を起こす。
本当はもう少し寝ていたかったが、それではきっと彼女はなんでも自分だけでやろうとしてしまうだろう。
「おはよう...」
キッチンに向かうと、丁度七海が食べているところだった。
彼女は僕をじっと見つめた後、ぽつりと呟く。
「...もしかしてなくても、夜作っておいてくれたんだね」
「ごめん。本当はできたてのものを食べてほしいって思ったんだけど...もしかして不味かった?」
「ううん。すごく美味しい。すごく助かったよ。...本当にありがとう」
その表情は僕が1番見たかった笑顔で、とにかくほっとした。
少しずつでいい、こうやってできることをして穏やかな時間を取り戻していこう。
そんなことを内心考えながら、いつもの席に座る。
「それじゃあ、僕も食べようかな」
「ふたりで食べるときっと美味しいよ」
その日のご飯はたしかにいつもより美味しいような気がして、とても穏やかな気持ちで過ごせた。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
はっきり言ってカケラも興味はございません
みおな
恋愛
私の婚約者様は、王女殿下の騎士をしている。
病弱でお美しい王女殿下に常に付き従い、婚約者としての交流も、マトモにしたことがない。
まぁ、好きになさればよろしいわ。
私には関係ないことですから。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
【1/23取り下げ予定】あなたたちに捨てられた私はようやく幸せになれそうです
gacchi
恋愛
伯爵家の長女として生まれたアリアンヌは妹マーガレットが生まれたことで育児放棄され、伯父の公爵家の屋敷で暮らしていた。一緒に育った公爵令息リオネルと婚約の約束をしたが、父親にむりやり伯爵家に連れて帰られてしまう。しかも第二王子との婚約が決まったという。貴族令嬢として政略結婚を受け入れようと覚悟を決めるが、伯爵家にはアリアンヌの居場所はなく、婚約者の第二王子にもなぜか嫌われている。学園の二年目、婚約者や妹に虐げられながらも耐えていたが、ある日呼び出されて婚約破棄と伯爵家の籍から外されたことが告げられる。修道院に向かう前にリオ兄様にお別れするために公爵家を訪ねると…… 書籍化のため1/23に取り下げ予定です。
初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。
豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」
「はあ?」
初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた?
脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ?
なろう様でも公開中です。
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。
【完結】お父様。私、悪役令嬢なんですって。何ですかそれって。
紅月
恋愛
小説家になろうで書いていたものを加筆、訂正したリメイク版です。
「何故、私の娘が処刑されなければならないんだ」
最愛の娘が冤罪で処刑された。
時を巻き戻し、復讐を誓う家族。
娘は前と違う人生を歩み、家族は元凶へ復讐の手を伸ばすが、巻き戻す前と違う展開のため様々な事が見えてきた。
【完結】婚約者に忘れられていた私
稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」
「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」
私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。
エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。
ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。
私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。
あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?
まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?
誰?
あれ?
せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?
もうあなたなんてポイよポイッ。
※ゆる~い設定です。
※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。
※視点が一話一話変わる場面もあります。
皇帝陛下は身ごもった寵姫を再愛する
真木
恋愛
燐砂宮が雪景色に覆われる頃、佳南は紫貴帝の御子を身ごもった。子の未来に不安を抱く佳南だったが、皇帝の溺愛は日に日に増して……。※「燐砂宮の秘めごと」のエピローグですが、単体でも読めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる