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追暮篇(おいぐらしへん)
添い寝
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「...よし、それじゃあ塗っていくね」
「い、痛っ...」
神様が作った薬は結構滲みるのか、七海は目を潤ませて僕をじっと見つめる。
罪悪感を覚えつつ、慎重に薬を塗っていく。
美桜さんは薬の塗る量から注意事項まで全て手書きの説明書を作ってくれていた。
初めての薬を使うのだから説明がほしいとは思っていたけれど、あまりの丁寧さに驚いたのは間違いない。
「よし、できたよ」
「あ、ありがとう...これ、新しい薬?」
「美桜さんが七海の傷が早く治るようにって送ってくれたんだ」
「そうなんだ...」
七海の視線の先には、見たことがない扇と小刀が飾られていた。
「え、銃刀法違反...」
「一応許可証みたいなものがついていたから大丈夫みたい。名義も私だったんだ」
七海が幼い頃から色々なものを備えなければならないほど、彼女の母親と美桜さんは警戒して暮らさなければならなかったのだろうか。
そう思うとなんだか切なくなってきて、目の前の自分より小さな体を抱きしめた。
「...木葉、私は大丈夫だから」
「こんなことしかできなくてごめん。ものすごく歯痒いよ...」
「私にとっては、それだけなんてことはないんだよ。抱きしめてもらえると、すごく安心する」
これほどの殺し文句があってもいいのだろうか。
七海が顔を上げ目が合った瞬間、自然と唇が重なる。
こんなふうに口づけるのは何度目だろう。
今はただ、このぬくもりを大切にしたい...その為にもう少し強くなろうと決めた。
「もう遅いし、寝ないと朝起きられないかもしれないね」
「あ、あの...」
「どうかしたの?」
「今夜は一緒に寝てもいい?」
最近よく悪夢を視るのだと話していたのを思い出し、ふたつ返事でいいよと返す。
もっと一緒に話したい...そんな思いもありふたりで同じ部屋に向かう。
「この部屋が1番落ち着くかな?」
「うん。星が綺麗に見えるから...」
そこは、いつもの天窓の部屋。
ただふたりでいるだけなのに、ものすごく緊張してしまう。
何から話そうか、どんな言葉を伝えようか...そう考えると高鳴る鼓動が止まらない。
「こういうの、なんだか久しぶりだからどきどきする」
「僕も同じこと考えてた。意外と何を話したらいいのかとか悩んじゃうね」
ふたりで顔を見あわせ微笑みあう。
仕事でどんなことがあったか、七海がどんなことをして過ごしたのか...何の他愛もない会話を続ける。
この時間が何よりも楽しいと思っているのは、きっと僕だけではない。
しばらく話していると、七海が小さく欠伸をするのが目に入る。
「寝ちゃっても大丈夫だよ」
「ごめんね。...おやすみ」
「うん。おやすみ」
喉の渇きを感じながら、僕はしばらく星空を眺める。
──七海に隠し事をしたまま。
「い、痛っ...」
神様が作った薬は結構滲みるのか、七海は目を潤ませて僕をじっと見つめる。
罪悪感を覚えつつ、慎重に薬を塗っていく。
美桜さんは薬の塗る量から注意事項まで全て手書きの説明書を作ってくれていた。
初めての薬を使うのだから説明がほしいとは思っていたけれど、あまりの丁寧さに驚いたのは間違いない。
「よし、できたよ」
「あ、ありがとう...これ、新しい薬?」
「美桜さんが七海の傷が早く治るようにって送ってくれたんだ」
「そうなんだ...」
七海の視線の先には、見たことがない扇と小刀が飾られていた。
「え、銃刀法違反...」
「一応許可証みたいなものがついていたから大丈夫みたい。名義も私だったんだ」
七海が幼い頃から色々なものを備えなければならないほど、彼女の母親と美桜さんは警戒して暮らさなければならなかったのだろうか。
そう思うとなんだか切なくなってきて、目の前の自分より小さな体を抱きしめた。
「...木葉、私は大丈夫だから」
「こんなことしかできなくてごめん。ものすごく歯痒いよ...」
「私にとっては、それだけなんてことはないんだよ。抱きしめてもらえると、すごく安心する」
これほどの殺し文句があってもいいのだろうか。
七海が顔を上げ目が合った瞬間、自然と唇が重なる。
こんなふうに口づけるのは何度目だろう。
今はただ、このぬくもりを大切にしたい...その為にもう少し強くなろうと決めた。
「もう遅いし、寝ないと朝起きられないかもしれないね」
「あ、あの...」
「どうかしたの?」
「今夜は一緒に寝てもいい?」
最近よく悪夢を視るのだと話していたのを思い出し、ふたつ返事でいいよと返す。
もっと一緒に話したい...そんな思いもありふたりで同じ部屋に向かう。
「この部屋が1番落ち着くかな?」
「うん。星が綺麗に見えるから...」
そこは、いつもの天窓の部屋。
ただふたりでいるだけなのに、ものすごく緊張してしまう。
何から話そうか、どんな言葉を伝えようか...そう考えると高鳴る鼓動が止まらない。
「こういうの、なんだか久しぶりだからどきどきする」
「僕も同じこと考えてた。意外と何を話したらいいのかとか悩んじゃうね」
ふたりで顔を見あわせ微笑みあう。
仕事でどんなことがあったか、七海がどんなことをして過ごしたのか...何の他愛もない会話を続ける。
この時間が何よりも楽しいと思っているのは、きっと僕だけではない。
しばらく話していると、七海が小さく欠伸をするのが目に入る。
「寝ちゃっても大丈夫だよ」
「ごめんね。...おやすみ」
「うん。おやすみ」
喉の渇きを感じながら、僕はしばらく星空を眺める。
──七海に隠し事をしたまま。
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