ハーフ&ハーフ

黒蝶

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追暮篇(おいぐらしへん)

閑話『独りだった神様の話』・陸

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──時が流れるのは、遅くなったり早くなったりする。
勿論、そんな気がするだけなのだろうけれど。
彼女の子ども...七海は私を探しにきてくれた。
ずっと寂しかったものが、それだけですっと消えていく。
ただ、恋人に怪我をさせてしまった。
「ごめんなさい」
「もうそんなに謝らないで」
木葉が人間ではないことは分かっていた。
七海を騙しているのだと思っていたけれど、ふたりとも本当に愛しあっていて一緒にいるのだとすぐに理解する。
「あなたはどういうものなの?」
私を人柱でできた神様だと見抜いたその人は、ただ少しだけ寂しそうに笑った。
「僕は純粋な人間じゃない。でも、純粋なヴァンパイアでもない」
「ばん...?」
「あ、えっと、吸血鬼って言えば分かりやすい?」
...吸血鬼。本でなら見たことがある。
生き血を糧にしている生き物で、日を嫌い月を好む。
木葉が起きていられる理由に納得した。
私がいたのはかなり山奥で、七海は疲れきっていたのに彼からは微塵も感じられない。
それは、体が夜によく動く人だから...単純に考えれば分かるはずなのに、どうして気づかなかったのだろう。
「僕はただ、彼女が心配なんだ。...僕自身がハーフだから」
彼には、人を騙しているような面はない。
...本当に七海が大切で、心配しているだけだ。
「あの子の力は強い。確かに伝承にそんなことをかかれていたような気がする。
でも、木葉が心配しているようなことにはならない」
「本当に...本当に七海が無理をして倒れたり、最悪死んでしまうようなことはないの...?」
不安そうな表情で何度も訊いてくるものだから、正直に話してしまった。
「それはない。でも、いつかあなたと同じような感覚に陥る日がくるかもしれない。
もしそうなったら、七海のことを隣で支えてほしい」
「美桜さん...」
私は独りだった。
人柱として犠牲になって、そうして神様になって...初めてできた友だちも力の強さに悩んでいたことを知っている。
だからこそ、七海だけは護ろうと決めていた。
私のような思いも、彼女のような苦労もさせたくない。
「...もっと七海のことを教えてくれる?」
「勿論。だけど...その前に、ちょっと、飲み物、を、」
苦しげな表情を見せる木葉を相手に、私はどうすればいいのか分からなかった。
焦っていると、彼は小瓶のようなものをポケットから取り出して中身を一気に流しこんだ。
「何を、」
「僕、これでできるだけ吸血欲求を抑えているんだ。...七海にも最近話したばかりだよ」
「...そう」
「僕は七海を傷つけない。絶対に護るって誓うよ。それから...」
木葉は私に笑いかけてくれた。
「美桜さん、もしよかったら引っ越してみない?すぐには無理だけど、七海のすぐ近くにいられるようにお社を移してもらうことができると思う。
僕の知り合いに、物を作るのが得意な人がいるんだ」
彼は冗談で言っている訳じゃない。
...七海といい木葉といい、人に優しくされなれていない私にとっては驚きの連続だ。
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