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追暮篇(おいぐらしへん)
手紙
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シェリを母に託し、僕たちはそのまま帰宅した。
その帰り道、七海に然り気無く尋ねてみる。
「母に何を言われたの?」
「...シェリを襲った犯人について、人相書きができたって渡してくれたんだ」
「え、そうなの?」
それだけなら、僕がいる場所でも話せたはずだ。
シェリに嫌なことを思い出させてしまうと考えたなら、七海に病室で待っていてもらえばよかったはず...つまり、僕が知らない何かがあるということになる。
それに関して訊いていいのか迷っていると、不満そうに鳴く声が聞こえた。
「...ノワール、もう少しだけ待っててね」
七海が何か言いたげな表情をしているのは分かっていたが、今はノワールの方が先のようだ。
飲まず食わずで待っていたらしい彼は、なんだか元気がない。
「ノワール、お待たせ」
餌と水を置いておくと、勢いよく食事をはじめた。
そんな姿をふたりで微笑ましく見守っていると、いくつものぐしゃぐしゃに丸められた紙が目に入る。
「...もしかして、これが全部書き直した分?」
「うん。意外と書くことがまとまらなくて何回も書き直してみたんだけど...」
「しっくりこなかった?」
「...うん」
吸血欲求を抑えつつ、真っ直ぐ七海を見つめる。
人相書きの確認に、美桜さんに出す手紙の内容...やりたいことが沢山あった。
だが、体は正直に反応してしまう。
「木葉、どうしたの?」
「...ごめん、少しでいいからこうさせて」
危うく首筋に牙をたてそうになったのを、寸でのところで抱きしめるだけに留める。
七海は僕の背中に腕をまわし、そのまま少しだけ力がこもったのを感じた。
「ありがとう。疲れも一気に吹き飛んだよ」
「...本当は噛みたいのを我慢してるんじゃない?」
「今は大丈夫だよ。それより、一緒に手紙を書いてみよう?」
「ありがとう」
ふたりで筆を執り、少しずつ書きはじめる。
こういったものには慣れているのであっという間に書き終わってしまった。
「え、木葉もうできたの?」
「手紙は、相手に気持ちを伝える為のものだと思うんだ。だから、こう書かないととかこの順番じゃ駄目だとか、あんまり考えない方が上手くいくかもしれない。
想いだけは沢山のせる。...僕はいつもそうやって書いてるよ」
「想いを、沢山...」
七海はそう呟いた後、すらすらとペンをはしらせる。
僕よりも話したいことが沢山あるのだから、何度も書き直して内容を考えるのはある種当然の反応だろう。
だからこそ、こめられる想いも相当なものになるはずだ。
「で、できた...!」
「お疲れ様」
ふたりでハイタッチしてノワールにお願いする。
早く届くようにと願いながら、ふたりで夜空に浮かぶ月を見上げた。
その帰り道、七海に然り気無く尋ねてみる。
「母に何を言われたの?」
「...シェリを襲った犯人について、人相書きができたって渡してくれたんだ」
「え、そうなの?」
それだけなら、僕がいる場所でも話せたはずだ。
シェリに嫌なことを思い出させてしまうと考えたなら、七海に病室で待っていてもらえばよかったはず...つまり、僕が知らない何かがあるということになる。
それに関して訊いていいのか迷っていると、不満そうに鳴く声が聞こえた。
「...ノワール、もう少しだけ待っててね」
七海が何か言いたげな表情をしているのは分かっていたが、今はノワールの方が先のようだ。
飲まず食わずで待っていたらしい彼は、なんだか元気がない。
「ノワール、お待たせ」
餌と水を置いておくと、勢いよく食事をはじめた。
そんな姿をふたりで微笑ましく見守っていると、いくつものぐしゃぐしゃに丸められた紙が目に入る。
「...もしかして、これが全部書き直した分?」
「うん。意外と書くことがまとまらなくて何回も書き直してみたんだけど...」
「しっくりこなかった?」
「...うん」
吸血欲求を抑えつつ、真っ直ぐ七海を見つめる。
人相書きの確認に、美桜さんに出す手紙の内容...やりたいことが沢山あった。
だが、体は正直に反応してしまう。
「木葉、どうしたの?」
「...ごめん、少しでいいからこうさせて」
危うく首筋に牙をたてそうになったのを、寸でのところで抱きしめるだけに留める。
七海は僕の背中に腕をまわし、そのまま少しだけ力がこもったのを感じた。
「ありがとう。疲れも一気に吹き飛んだよ」
「...本当は噛みたいのを我慢してるんじゃない?」
「今は大丈夫だよ。それより、一緒に手紙を書いてみよう?」
「ありがとう」
ふたりで筆を執り、少しずつ書きはじめる。
こういったものには慣れているのであっという間に書き終わってしまった。
「え、木葉もうできたの?」
「手紙は、相手に気持ちを伝える為のものだと思うんだ。だから、こう書かないととかこの順番じゃ駄目だとか、あんまり考えない方が上手くいくかもしれない。
想いだけは沢山のせる。...僕はいつもそうやって書いてるよ」
「想いを、沢山...」
七海はそう呟いた後、すらすらとペンをはしらせる。
僕よりも話したいことが沢山あるのだから、何度も書き直して内容を考えるのはある種当然の反応だろう。
だからこそ、こめられる想いも相当なものになるはずだ。
「で、できた...!」
「お疲れ様」
ふたりでハイタッチしてノワールにお願いする。
早く届くようにと願いながら、ふたりで夜空に浮かぶ月を見上げた。
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