ハーフ&ハーフ

黒蝶

文字の大きさ
上 下
122 / 258
追暮篇(おいぐらしへん)

ヴァンパイアの忠告

しおりを挟む
「あ、えっと...こんばんは、ケイトさん」
「こんばんは。ごめんなさいね、私たちの都合に合わせてもらってばかりで...」
「私は皆さんと一緒に過ごせるの、楽しいですから」
心からの言葉を答えると、ケイトさんは少女のようにぱっと明るくなった。
「木葉、このいい子をちょっと借りてもいいかしら?」
「それは僕じゃなくて七海の許可をもらってください」
木葉のため息混じりの声を聞きながら、なんだか微笑ましく感じてしまう。
「シェリのこと、少しお願いね」
「お母さんが来たってことは伝えておくよ。七海、もし何かあったら大声で叫んで僕のことを呼んでね」
「ありがとう」
「...私、そんなに弱くないわよ」
「分かってるけど、お母さんが何を言うのか気になるから...七海を傷つけたら許さないから」
「分かっているわ。...行きましょうか、七海さん」
私はむくれている木葉を少し遠くから見つめて笑いかけてみせるけれど、彼は何故か複雑そうな表情をしていた。
「ごめんなさいね、呼び出したみたいになってしまって...」
「いえ、大丈夫です。私に用事って何でしょうか?」
「...あの子、能力が暴走したり欲求が強くなったりしてないかしら?」
それは、ただ親子愛に満ちている質問だった。
「欲求はそんなに強くなったりしていないと思います。能力は...私、木葉の能力については詳しく知らないんです。
だから、上手く言えないけど...1回だけいつもとは違う雰囲気の木葉を見たことがあります」
「...詳しく聞かせてもらっても大丈夫かしら?」
いつかのファミレスデート、凍てついた空気が流れたのを思い出す。
能力はラッシュさんのものを見たことがあること、けれど木葉は無自覚だったようだということ...。
私がゆっくり話す言葉をケイトさんは真剣に聞いてくれた。
「...というわけなんです。あれが木葉の能力なんですか?」
「片鱗であることは確かね。ただ、あの子が能力を使うと下手をすると死人が出るわ」
「そんなに強いものなんですか...!?」
一緒にいるのにまだまだ知らないことだらけだ。
自分のあまりの非力さに悔しく思っていると、そっと肩に手をおかれる。
「あなたみたいな人があのこの側にいてくれて本当に嬉しいわ。
...木葉は自分の能力に気づいていない可能性が高い。もし何か困ったことがあったらすぐに相談してちょうだい」
「ありがとうございます」
「それから、シェリを襲った犯人が分かったわ。ただ、とても怖い人間のようなの。
...この人間たちに気をつけて」
そう言ってケイトさんが渡してくれたのは、絵画のような人相書きだった。
私が強く頷くのを確認すると、ケイトさんは目を細めて微笑む。
「あなたは眩しい。...これからも木葉と仲良くしてやってね。
それから、シェリともお友だちでいてあげて」
「勿論です」
「そろそろ戻りましょうか。...ありがとう」
一礼してそのままケイトさんの後ろからついていく。
親心を感じながら、真剣な声で告げられた一言がずっと胸に残っている。
(木葉は気づいていないということは、ケイトさんは知っているということ?...もっと踏みこんで訊いてもよかったのかな)
空は真っ暗になっていて、雪がちらちらと降っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛する夫にもう一つの家庭があったことを知ったのは、結婚して10年目のことでした

ましゅぺちーの
恋愛
王国の伯爵令嬢だったエミリアは長年の想い人である公爵令息オリバーと結婚した。 しかし、夫となったオリバーとの仲は冷え切っていた。 オリバーはエミリアを愛していない。 それでもエミリアは一途に夫を想い続けた。 子供も出来ないまま十年の年月が過ぎ、エミリアはオリバーにもう一つの家庭が存在していることを知ってしまう。 それをきっかけとして、エミリアはついにオリバーとの離婚を決意する。 オリバーと離婚したエミリアは第二の人生を歩み始める。 一方、最愛の愛人とその子供を公爵家に迎え入れたオリバーは後悔に苛まれていた……。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

皇帝陛下は身ごもった寵姫を再愛する

真木
恋愛
燐砂宮が雪景色に覆われる頃、佳南は紫貴帝の御子を身ごもった。子の未来に不安を抱く佳南だったが、皇帝の溺愛は日に日に増して……。※「燐砂宮の秘めごと」のエピローグですが、単体でも読めます。

【完結】私より優先している相手が仮病だと、いい加減に気がついたらどうですか?〜病弱を訴えている婚約者の義妹は超が付くほど健康ですよ〜

よどら文鳥
恋愛
 ジュリエル=ディラウは、生まれながらに婚約者が決まっていた。  ハーベスト=ドルチャと正式に結婚する前に、一度彼の実家で同居をすることも決まっている。  同居生活が始まり、最初は順調かとジュリエルは思っていたが、ハーベストの義理の妹、シャロン=ドルチャは病弱だった。  ドルチャ家の人間はシャロンのことを溺愛しているため、折角のデートも病気を理由に断られてしまう。それが例え僅かな微熱でもだ。  あることがキッカケでシャロンの病気は実は仮病だとわかり、ジュリエルは真実を訴えようとする。  だが、シャロンを溺愛しているドルチャ家の人間は聞く耳持たず、更にジュリエルを苦しめるようになってしまった。  ハーベストは、ジュリエルが意図的に苦しめられていることを知らなかった。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】婚約者に忘れられていた私

稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」  「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」  私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。  エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。  ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。  私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。  あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?    まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?  誰?  あれ?  せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?  もうあなたなんてポイよポイッ。  ※ゆる~い設定です。  ※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。  ※視点が一話一話変わる場面もあります。

【完結】お父様。私、悪役令嬢なんですって。何ですかそれって。

紅月
恋愛
小説家になろうで書いていたものを加筆、訂正したリメイク版です。 「何故、私の娘が処刑されなければならないんだ」 最愛の娘が冤罪で処刑された。 時を巻き戻し、復讐を誓う家族。 娘は前と違う人生を歩み、家族は元凶へ復讐の手を伸ばすが、巻き戻す前と違う展開のため様々な事が見えてきた。

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)

処理中です...