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隠暮篇(かくれぐらしへん)
私の秘密
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「ただいま」
「おかえ...」
そこまでしか言葉を発せなかったのは、木葉が腕に切り傷を負っていたからだ。
「どうしたの、その怪我」
「これはちょっと色々あって...でも、この程度ですんだから大丈夫だよ」
この程度なんて言うけれど、私にはそうは見えない。
「手当てさせて」
「...ごめん。ありがとう」
少し大きめの絆創膏を貼ったけれど、なんだか木葉の様子がおかしい。
(何かあったのかな...)
「どうかしたの?」
「え、あ、ううん。...ごめん、やっぱり訊きたいことがあるんだけど、先に着替えてきていい?
流石にこの土まみれの服でずっと過ごすのはちょっとね」
「分かった、それならここで待ってる」
妙に深刻そうな表情だったのが気になったけれど、その理由はきっとこれから分かることだ。
そう思った私はお気楽に構えていた。
...色々なことを訊かれることになるなんて、このときは想像もしていなかったのだ。
「お待たせ。長くなりそうだから、何か飲み物とお菓子を用意するね」
「ありがとう。紅茶は私が淹れるよ」
そうして即席のお茶会状態ができあがる頃には、おやつ時を少し過ぎていた。
「...それで、私に訊きたいことって何?」
「答えたくなかったらいいんだけど...これ、どうやって作ったの?」
木葉がそう言って私に見せたのは、完全にちぎれてしまったミサンガだった。
「...!」
「実は今日、頭上から鉄骨がふってきたんだ。留め具がたまたま緩んでいたらしいけど、原因は分からないみたい」
「...そうなんだ」
「その真下で子どもたちが遊んでいたから助けたんだけど、本当なら僕はこんな傷ではすまなかったはずなんだ。
でも、ミサンガが光って体が少し宙に浮いて進んで...」
聞き覚えがある。
最近少しずつ思い出してきているけれど欠けたままの記憶と、幼い頃からずっと隠し続けてきた秘密。
(そっか、私は今でも力を持ったまま...)
「過去のことはあんまり聞いてこなかったけど、このことだけはちゃんと説明してほしい。
...お願い、七海」
ここまで切実な思いを無下にできる人なんているのだろうか。
気味悪がられるかもしれないし、嫌われてしまうかもしれない。
もしかしたら、距離を置かれてそのまま交流がなくなることもあり得る。
(怖くない訳じゃない。でも...)
──それでも、ここで話さないときっと後悔する。
「私、昔死にかけたことがあったの。そのときに死神さんが助けてくれたんだけど、よく覚えてなくて...」
「『死神の世界のことは現実に還ると忘れる』」
「え?」
「友だちから聞いたことがあるからそれは知ってる」
「そう、だったんだ。...でもそのとき、私を助けてくれたのはもうひとりいたの。
それが、美桜さん」
「美桜さん?」
ここまで話してしまったのだから、最後まで話しても同じだろう。
「美桜さんは小さな祠に住んでいて...母の家系をずっと見てきたんだって。
母方の女の人たちはみんな視る力があったみたい。そのなかで1番強い力を持った人のことを神子と呼ぶらしいんだけど...私がその神子」
「神子についての知識は疎いけど、代替わりしないってことは...!」
「私はある家の生き残り。余程強い力がないと神子にはなれない。...だから、私が最後の神子なんだよ」
「おかえ...」
そこまでしか言葉を発せなかったのは、木葉が腕に切り傷を負っていたからだ。
「どうしたの、その怪我」
「これはちょっと色々あって...でも、この程度ですんだから大丈夫だよ」
この程度なんて言うけれど、私にはそうは見えない。
「手当てさせて」
「...ごめん。ありがとう」
少し大きめの絆創膏を貼ったけれど、なんだか木葉の様子がおかしい。
(何かあったのかな...)
「どうかしたの?」
「え、あ、ううん。...ごめん、やっぱり訊きたいことがあるんだけど、先に着替えてきていい?
流石にこの土まみれの服でずっと過ごすのはちょっとね」
「分かった、それならここで待ってる」
妙に深刻そうな表情だったのが気になったけれど、その理由はきっとこれから分かることだ。
そう思った私はお気楽に構えていた。
...色々なことを訊かれることになるなんて、このときは想像もしていなかったのだ。
「お待たせ。長くなりそうだから、何か飲み物とお菓子を用意するね」
「ありがとう。紅茶は私が淹れるよ」
そうして即席のお茶会状態ができあがる頃には、おやつ時を少し過ぎていた。
「...それで、私に訊きたいことって何?」
「答えたくなかったらいいんだけど...これ、どうやって作ったの?」
木葉がそう言って私に見せたのは、完全にちぎれてしまったミサンガだった。
「...!」
「実は今日、頭上から鉄骨がふってきたんだ。留め具がたまたま緩んでいたらしいけど、原因は分からないみたい」
「...そうなんだ」
「その真下で子どもたちが遊んでいたから助けたんだけど、本当なら僕はこんな傷ではすまなかったはずなんだ。
でも、ミサンガが光って体が少し宙に浮いて進んで...」
聞き覚えがある。
最近少しずつ思い出してきているけれど欠けたままの記憶と、幼い頃からずっと隠し続けてきた秘密。
(そっか、私は今でも力を持ったまま...)
「過去のことはあんまり聞いてこなかったけど、このことだけはちゃんと説明してほしい。
...お願い、七海」
ここまで切実な思いを無下にできる人なんているのだろうか。
気味悪がられるかもしれないし、嫌われてしまうかもしれない。
もしかしたら、距離を置かれてそのまま交流がなくなることもあり得る。
(怖くない訳じゃない。でも...)
──それでも、ここで話さないときっと後悔する。
「私、昔死にかけたことがあったの。そのときに死神さんが助けてくれたんだけど、よく覚えてなくて...」
「『死神の世界のことは現実に還ると忘れる』」
「え?」
「友だちから聞いたことがあるからそれは知ってる」
「そう、だったんだ。...でもそのとき、私を助けてくれたのはもうひとりいたの。
それが、美桜さん」
「美桜さん?」
ここまで話してしまったのだから、最後まで話しても同じだろう。
「美桜さんは小さな祠に住んでいて...母の家系をずっと見てきたんだって。
母方の女の人たちはみんな視る力があったみたい。そのなかで1番強い力を持った人のことを神子と呼ぶらしいんだけど...私がその神子」
「神子についての知識は疎いけど、代替わりしないってことは...!」
「私はある家の生き残り。余程強い力がないと神子にはなれない。...だから、私が最後の神子なんだよ」
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