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隠暮篇(かくれぐらしへん)
夕食タイム
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買い物を終えた私たちは、ソファーに座ってのんびり過ごしていた。
...はずだ。
「木葉、この体勢は恥ずかしいよ...」
「もう少しだけこうさせて。...駄目?」
木葉の目は潤んでいて、断ることなんてできなかった。
この状況になってどのくらい経っただろう。
「分かった。あの時計で6時丁度になるまでなら」
「ありがとう」
私の膝の上には、木葉の頭がのっている。
足が痺れてきているというのもあるけれど、やっぱり恥ずかしさがこみあげてきてしまう。
はじめは目を合わせて話していたけれど、それだけで頬に熱が集まるのを感じる。
(今日はいつもより甘えられてるような気がするけど...気のせい?)
「もうちょっとくっついてて」
「流石にこれ以上は恥ずかしいからお仕舞い。
...それに、ご飯を作らないと」
「やった、七海が作ったものってどれも美味しいから好き。
でも、ちょっとはお手伝いさせてね。いつもご飯を用意してくれていたのはありがたかったけど、ずっともどかしかったから...」
やっぱり彼は優しさで溢れていて、一言一言が私を包みこんでくれる。
「今日は魚を焼きます」
「僕は何をすればいい?」
「スープを作ってもらいます」
「了解。他は?」
「付け合わせのサラダは私がやるから...オーロラソースを作ってもらおうかな」
「うん!」
私がやるからいいと言おうとしたときの、木葉の悲しそうな表情...。
それを見て、いいなんて言える人がいるのだろうか。
(タルタルソースにしようと思ったけど、家で作る人ってきっと少ないだろうから...)
「先生、できました!どうでしょう?」
「完璧です」
ふたりでこんなふうに話しながら料理をするのも、これから少しずつ日課になっていくのだろう。
独りのときは面倒だからと適当に済ませることもあったけれど、もうそれでは駄目なのだ。
木葉には美味しいものを食べてほしいし、元気でいてほしい。
(もう少しレパートリーを増やすべきなのかも)
「わあ...バターがじゅわってなってて美味しそう!」
「今日は茸が安かったから鮭のホイル焼き。もしかして、普通の焼き魚の方が好みだった?」
「ううん、どっちも好き。いただきます」
「...いただきます」
付け合わせにと作った軽めのサラダに少量のオーロラソースを絡めて、鮭の身も一緒に口にいれてみる。
なんとかバランスが崩れずに仕上がったようだ。
「美味しい!」
「それならよかった」
こんなふうに喜んでもらえる日がくるなんて思ってもいなかった。
だからこそ、目の前の笑顔を大切にしたい。
「七海、シェフになれそうだね」
「プロの人たちはきっともっと上手だよ」
「僕にとっては七海の料理が1番だよ」
「私にとっては木葉が作ってくれたオーロラソースが1番美味しい」
ほんわかとした会話をしながら食べるのは久しぶりのような気がする。
...やっぱり、シェリのことがあったからだろうか。
「七海?」
「なんでもない。おかわりいる?」
平静を装ってそんなことを話すけれど、隠しとおせたかどうかは微妙なところだ。
この些細な幸せが沢山続いてくれればいい。
──そうすればきっと、私はいつまでだって笑っていられるから。
...はずだ。
「木葉、この体勢は恥ずかしいよ...」
「もう少しだけこうさせて。...駄目?」
木葉の目は潤んでいて、断ることなんてできなかった。
この状況になってどのくらい経っただろう。
「分かった。あの時計で6時丁度になるまでなら」
「ありがとう」
私の膝の上には、木葉の頭がのっている。
足が痺れてきているというのもあるけれど、やっぱり恥ずかしさがこみあげてきてしまう。
はじめは目を合わせて話していたけれど、それだけで頬に熱が集まるのを感じる。
(今日はいつもより甘えられてるような気がするけど...気のせい?)
「もうちょっとくっついてて」
「流石にこれ以上は恥ずかしいからお仕舞い。
...それに、ご飯を作らないと」
「やった、七海が作ったものってどれも美味しいから好き。
でも、ちょっとはお手伝いさせてね。いつもご飯を用意してくれていたのはありがたかったけど、ずっともどかしかったから...」
やっぱり彼は優しさで溢れていて、一言一言が私を包みこんでくれる。
「今日は魚を焼きます」
「僕は何をすればいい?」
「スープを作ってもらいます」
「了解。他は?」
「付け合わせのサラダは私がやるから...オーロラソースを作ってもらおうかな」
「うん!」
私がやるからいいと言おうとしたときの、木葉の悲しそうな表情...。
それを見て、いいなんて言える人がいるのだろうか。
(タルタルソースにしようと思ったけど、家で作る人ってきっと少ないだろうから...)
「先生、できました!どうでしょう?」
「完璧です」
ふたりでこんなふうに話しながら料理をするのも、これから少しずつ日課になっていくのだろう。
独りのときは面倒だからと適当に済ませることもあったけれど、もうそれでは駄目なのだ。
木葉には美味しいものを食べてほしいし、元気でいてほしい。
(もう少しレパートリーを増やすべきなのかも)
「わあ...バターがじゅわってなってて美味しそう!」
「今日は茸が安かったから鮭のホイル焼き。もしかして、普通の焼き魚の方が好みだった?」
「ううん、どっちも好き。いただきます」
「...いただきます」
付け合わせにと作った軽めのサラダに少量のオーロラソースを絡めて、鮭の身も一緒に口にいれてみる。
なんとかバランスが崩れずに仕上がったようだ。
「美味しい!」
「それならよかった」
こんなふうに喜んでもらえる日がくるなんて思ってもいなかった。
だからこそ、目の前の笑顔を大切にしたい。
「七海、シェフになれそうだね」
「プロの人たちはきっともっと上手だよ」
「僕にとっては七海の料理が1番だよ」
「私にとっては木葉が作ってくれたオーロラソースが1番美味しい」
ほんわかとした会話をしながら食べるのは久しぶりのような気がする。
...やっぱり、シェリのことがあったからだろうか。
「七海?」
「なんでもない。おかわりいる?」
平静を装ってそんなことを話すけれど、隠しとおせたかどうかは微妙なところだ。
この些細な幸せが沢山続いてくれればいい。
──そうすればきっと、私はいつまでだって笑っていられるから。
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