ハーフ&ハーフ

黒蝶

文字の大きさ
上 下
49 / 258
日常篇

閑話『私の世界』(中篇)

しおりを挟む
「...ここ」
何をどう伝えればいいのだろうか。
部屋を突き止めるのに時間はかからなかったけれど、それから先どうすればいいのか分からない。
「...」
迷った末、取り敢えず扉を2回鳴らしてみる。
けれど近づいてくる足音はふたつで、そのうちひとつは感じたことがある気配だった。
偉い人でケイト様に近い...木葉様だ。
『役立たず!』『本当に使えない...』
そう言われるのが怖くて、私は結局逃げ出してしまった。
ちゃんとお礼を伝えたかったのにそれさえできず、きっと怒られてしまうのだろう。
けれど、あの人に傘がちゃん届いたならそれでいい...そう思っていた。
「シェリ」
向こうのことが分かるということは、相手にも伝わっているかもしれないということ。
そんな単純なことが、すっかり頭から抜け落ちていた。
「明日の午後3時、ここの場所にいて」
木葉様は怒らなかった。
1枚の地図を私に渡して、有無を言わさない笑みを浮かべている。
ケイト様からも許可はいただいたし、それは別に構わない。
けれど一体、何をするのだろうか。
考えても仕方ないので、解散になった後すぐに布団に入る。
一抹の不安を抱えながら無理矢理目を閉じた。
早朝、ケイト様に呼び出される。
「シェリ。あなたに渡したいものがあるの」
「私に、ですか...?」
「ええ。ちょうどあなたに贈り物をしたいと思っていたから...気に入ってもらえると嬉しいんだけど」
それは、見たこともないような輝きを放つワンピース。
ケイト様はいつもこうして何人かいる使用人たちに、交代でプレゼントをくださっている。
この前もらった女の子はネックレス、その前の私より年下の子はぬいぐるみ...。
そうして気配りができる方だからこそ、屋敷にいる全員から慕われているのだ。
「着替え、ました。すごく好き、です」
「それならよかったわ。うんうん、とっても可愛いわ。少し心配になるくらい」
「ケイト様...」
周りには、先輩使用人たちがわらわらと集まってくる。
「今日は仕事のことなんて考えなくていいから、ゆっくり楽しんできなさい」
「ありがとう、ございます...。嬉しい、です」
先輩使用人たちもみんな笑顔で見送ってくれる。
「気をつけてね」「どんなことをしたかあとで聞かせてね!」「お仕事は私たちに任せて、ゆっくりしてきてね」
大半が似たような環境にいた元・人間で、何人かは魔族。
けれど、そんなことは私たちには関係ない。
それが1番嬉しいことで、それが私にとって1番この場所にいたい理由だ。
「ありがとう、ございます。...いってきます」
沢山のいってらっしゃいを聞きながら、お屋敷の門を開ける。
みんなに何かお土産を買って帰ろう、そんなことを考えながら目的地を目指す。
──向日葵色のワンピースが風に揺れていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...