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日常篇
3人での時間
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「シェリ、そこはもう少し左に動かした方がいいかもしれない」
「わ、分かった...」
私たちは今ゲームセンターにいる。
きっかけはほんの些細なことで、シェリが入ったことがなかったから。
前を通りすぎようとしたときの彼女の目は好奇心に満ち溢れていて...少しだけ入ってみようという話になったのだ。
「あ、取れた...」
「シェリ、上手だね」
ふわふわの小さなうさぎのぬいぐるみを抱えて、シェリはとても嬉しそうに笑った。
「よかったね、シェリ。ふたりとも、飲み物買ってきたよ」
木葉がなんだか微笑ましそうに見ていて、子どもっぽかったかもしれないと少しだけ恥ずかしくなる。
「七海、これ食べる?」
「飴?」
「うん。最近流行ってるからっておまけでくれたんだ」
「ありがとう。いただきます...すごく甘い」
「そっか、それならよかった」
ふたりで笑いあっていると、少ししたの方から視線を感じる。
今はふたりきりではなかったのだとその瞬間に思い出した。
「あ、え、も、申し訳、ありません...!」
「いいからいいから。シェリは何も悪いことをしてないでしょ?
僕も七海も怒ってる訳じゃないんだよ」
さっきから気になっていたことがある。
少しでも何かあると、シェリはとにかく謝り倒す。
そしてそれを悪くないと伝える木葉は、子どもをあやすような仕草を見せる。
「...ねえ、木葉」
「どうしたの?」
シェリが少し離れた場所に座っている間に、こそっと木葉に訊いてみる。
「あの、どうしてシェリはあんなふうに謝り倒すのかな?何か事情があるなら、後で教えて」
「込み入った話になるけど、後でちゃんと説明する」
「ありがとう」
そのときちらっと視界にうつった木葉の表情は、いつもより寂しげに思えた。
「これ、3人でもできるみたい。やってみようか」
リズムゲームにシューティングゲーム、レーシングゲーム...とにかく色々なゲームで遊んだ。
「あ、そろそろ...行かないと」
「シェリ、また遊ぼうね」
「うん。連絡先、どうぞ」
「ありがとう」
「1人で帰れる?」
「大丈夫、です。楽しかった...ありがとう」
手をふる姿は本当にお人形さんみたいに綺麗で、思わず魅いってしまっていた。
「...今日は昨日より気配が人間に近づいていたような気がしたんだけど、気のせい?」
木葉に訊いてみると、少しだけ驚いた表情をしながら答えてくれた。
「よく分かったね。視える人間にだって見破られることはなかなかないはずなのに...」
気配がぐらぐらしていて、人間に近づいたり遠くなったりしているのはすぐに分かった。
シェリの姿が見えなくなったとき、木葉はぽつりぽつりと話しはじめる。
「シェリは暴力を受けて育ったらしいんだ」
「...だから、片言なの?」
「そうだよ。...このあとの話は夜食を食べながらにしようか。
今夜もきっと星が見えるから、一旦七海の家に寄ってから僕の家へ来て。そこで沢山話をしよう」
その言葉に私はただ頷くことしかできない。
まるでぽっかり穴があいたように月が見えなかった。
「わ、分かった...」
私たちは今ゲームセンターにいる。
きっかけはほんの些細なことで、シェリが入ったことがなかったから。
前を通りすぎようとしたときの彼女の目は好奇心に満ち溢れていて...少しだけ入ってみようという話になったのだ。
「あ、取れた...」
「シェリ、上手だね」
ふわふわの小さなうさぎのぬいぐるみを抱えて、シェリはとても嬉しそうに笑った。
「よかったね、シェリ。ふたりとも、飲み物買ってきたよ」
木葉がなんだか微笑ましそうに見ていて、子どもっぽかったかもしれないと少しだけ恥ずかしくなる。
「七海、これ食べる?」
「飴?」
「うん。最近流行ってるからっておまけでくれたんだ」
「ありがとう。いただきます...すごく甘い」
「そっか、それならよかった」
ふたりで笑いあっていると、少ししたの方から視線を感じる。
今はふたりきりではなかったのだとその瞬間に思い出した。
「あ、え、も、申し訳、ありません...!」
「いいからいいから。シェリは何も悪いことをしてないでしょ?
僕も七海も怒ってる訳じゃないんだよ」
さっきから気になっていたことがある。
少しでも何かあると、シェリはとにかく謝り倒す。
そしてそれを悪くないと伝える木葉は、子どもをあやすような仕草を見せる。
「...ねえ、木葉」
「どうしたの?」
シェリが少し離れた場所に座っている間に、こそっと木葉に訊いてみる。
「あの、どうしてシェリはあんなふうに謝り倒すのかな?何か事情があるなら、後で教えて」
「込み入った話になるけど、後でちゃんと説明する」
「ありがとう」
そのときちらっと視界にうつった木葉の表情は、いつもより寂しげに思えた。
「これ、3人でもできるみたい。やってみようか」
リズムゲームにシューティングゲーム、レーシングゲーム...とにかく色々なゲームで遊んだ。
「あ、そろそろ...行かないと」
「シェリ、また遊ぼうね」
「うん。連絡先、どうぞ」
「ありがとう」
「1人で帰れる?」
「大丈夫、です。楽しかった...ありがとう」
手をふる姿は本当にお人形さんみたいに綺麗で、思わず魅いってしまっていた。
「...今日は昨日より気配が人間に近づいていたような気がしたんだけど、気のせい?」
木葉に訊いてみると、少しだけ驚いた表情をしながら答えてくれた。
「よく分かったね。視える人間にだって見破られることはなかなかないはずなのに...」
気配がぐらぐらしていて、人間に近づいたり遠くなったりしているのはすぐに分かった。
シェリの姿が見えなくなったとき、木葉はぽつりぽつりと話しはじめる。
「シェリは暴力を受けて育ったらしいんだ」
「...だから、片言なの?」
「そうだよ。...このあとの話は夜食を食べながらにしようか。
今夜もきっと星が見えるから、一旦七海の家に寄ってから僕の家へ来て。そこで沢山話をしよう」
その言葉に私はただ頷くことしかできない。
まるでぽっかり穴があいたように月が見えなかった。
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