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日常篇
本日の予定
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遣い魔は基本的に食事を必要としない。
ただ、慣れておいた方がいいというのも事実だ。
「ここのパンケーキ、可愛くて美味しいんだよね」
「た、食べづら、そうです...」
「ひとまず入ってみよう、ふたりとも」
本当は僕が七海と手を繋ぎたい。
だが、そうなるとシェリがはぐれてしまう可能性が高い...そう思い、彼女を挟んで歩くことにしたのだ。
「私、こういうところ、初めてです...。人がいっぱい、酔っちゃい、そうです」
「私も人が沢山いる場所が苦手。向こうの奥の席に行こう」
シェリは早くも七海にべったりだ。
隣の席に座り、何か話そうと必死になっているのを感じる。
それが微笑ましいと思いつつ少し複雑に思うのは、大人気ないだろうか。
「えっと、申し訳、ありませ...」
「どうして謝るの?別に怒ってないよ?ふたりとも仲がいいから、微笑ましいなって思ってみてただけだよ」
...すっかり忘れていた。
シェリは暴力をふるわれながら育った過去があり、言葉があまり出てこないのはそのときのことがあるからだと母から聞いたことがある。
なんとか安心させたくて、できるだけ柔らかい口調で笑顔を浮かべ、じっと目を見つめながら答えた。
「シェリちゃんは、」
「...シェリ、でいい、です」
「シェリはどんなものが好き?」
「ふわふわの、手触りのが...」
なんだか会話も可愛らしくて、見ているだけで幸せな気分になれる。
「パンケーキきたよ」
「やっぱり可愛い...。食べちゃうのがもったいないくらい」
「...いただきます」
手掴みしようとするシェリの手を片手でまとめる。
七海は少し驚いていたが、楽しそうに笑ってすっとフォークとナイフを差し出した。
「これで切って食べるんだよ。ここをこうして...はい」
「申し訳、ありませ...」
「そんなに落ちこまなくても大丈夫。誰にだって知らないことは沢山あるから。
それから、敬語は無理矢理使わなくてもいいんだよ」
「でも...」
シェリはちらっと僕の方に目をやり、どうすればいいのか分からないという反応をする。
友人ができたことがない彼女にとって、七海の言葉は戸惑うものなのだろう。
「友人とはそういうものだと僕は思うよ。君が嫌ならそのままでもいいと思うけど...距離を感じるんだ」
「分かった、です。...私は、仲良く、なりたい。七海様とも、お友だちに」
「様なんてつけないで。七海でいいから。よろしくね、シェリ」
「うん、よろしく」
不器用にフォークやナイフを使うシェリを支える七海が愛しくて、どんどん好きと一緒に欲求が高まってしまう。
「木葉、苺食べないの?」
「食べるよ、最後に残しておいたんだ」
「吃驚した。...何があったのかなって思った。あんなに果物が好きなのに、どうして食べないんだろうって」
「今日は最後まで残しておきたい気分だっただけだよ」
そうこうしているうちに、空はあっという間に茜色に染まる。
本当ならシェリに帰るよう伝えた方がいいのだろうが、無理に引き離すのはなんだか気が引けた。
「ねえ、ふたりとも。もう少し遊んでいこうか」
「いいん、ですか?」
「僕は構わないよ。七海は?」
「折角だし、どこかへ行くのもいいかもしれない」
「それじゃあ、決まり!」
シェリが少し先を歩き出したとき、七海にだけ聞こえるようにそっと耳打ちした。
「シェリが帰ったら、ふたりきりで過ごそうね」
七海は顔を赤らめながら小さく頷く。
今すぐ口づけてしまいたい...そう思うほどに彼女は美しかった。
ただ、慣れておいた方がいいというのも事実だ。
「ここのパンケーキ、可愛くて美味しいんだよね」
「た、食べづら、そうです...」
「ひとまず入ってみよう、ふたりとも」
本当は僕が七海と手を繋ぎたい。
だが、そうなるとシェリがはぐれてしまう可能性が高い...そう思い、彼女を挟んで歩くことにしたのだ。
「私、こういうところ、初めてです...。人がいっぱい、酔っちゃい、そうです」
「私も人が沢山いる場所が苦手。向こうの奥の席に行こう」
シェリは早くも七海にべったりだ。
隣の席に座り、何か話そうと必死になっているのを感じる。
それが微笑ましいと思いつつ少し複雑に思うのは、大人気ないだろうか。
「えっと、申し訳、ありませ...」
「どうして謝るの?別に怒ってないよ?ふたりとも仲がいいから、微笑ましいなって思ってみてただけだよ」
...すっかり忘れていた。
シェリは暴力をふるわれながら育った過去があり、言葉があまり出てこないのはそのときのことがあるからだと母から聞いたことがある。
なんとか安心させたくて、できるだけ柔らかい口調で笑顔を浮かべ、じっと目を見つめながら答えた。
「シェリちゃんは、」
「...シェリ、でいい、です」
「シェリはどんなものが好き?」
「ふわふわの、手触りのが...」
なんだか会話も可愛らしくて、見ているだけで幸せな気分になれる。
「パンケーキきたよ」
「やっぱり可愛い...。食べちゃうのがもったいないくらい」
「...いただきます」
手掴みしようとするシェリの手を片手でまとめる。
七海は少し驚いていたが、楽しそうに笑ってすっとフォークとナイフを差し出した。
「これで切って食べるんだよ。ここをこうして...はい」
「申し訳、ありませ...」
「そんなに落ちこまなくても大丈夫。誰にだって知らないことは沢山あるから。
それから、敬語は無理矢理使わなくてもいいんだよ」
「でも...」
シェリはちらっと僕の方に目をやり、どうすればいいのか分からないという反応をする。
友人ができたことがない彼女にとって、七海の言葉は戸惑うものなのだろう。
「友人とはそういうものだと僕は思うよ。君が嫌ならそのままでもいいと思うけど...距離を感じるんだ」
「分かった、です。...私は、仲良く、なりたい。七海様とも、お友だちに」
「様なんてつけないで。七海でいいから。よろしくね、シェリ」
「うん、よろしく」
不器用にフォークやナイフを使うシェリを支える七海が愛しくて、どんどん好きと一緒に欲求が高まってしまう。
「木葉、苺食べないの?」
「食べるよ、最後に残しておいたんだ」
「吃驚した。...何があったのかなって思った。あんなに果物が好きなのに、どうして食べないんだろうって」
「今日は最後まで残しておきたい気分だっただけだよ」
そうこうしているうちに、空はあっという間に茜色に染まる。
本当ならシェリに帰るよう伝えた方がいいのだろうが、無理に引き離すのはなんだか気が引けた。
「ねえ、ふたりとも。もう少し遊んでいこうか」
「いいん、ですか?」
「僕は構わないよ。七海は?」
「折角だし、どこかへ行くのもいいかもしれない」
「それじゃあ、決まり!」
シェリが少し先を歩き出したとき、七海にだけ聞こえるようにそっと耳打ちした。
「シェリが帰ったら、ふたりきりで過ごそうね」
七海は顔を赤らめながら小さく頷く。
今すぐ口づけてしまいたい...そう思うほどに彼女は美しかった。
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