42 / 258
日常篇
未知との遭遇
しおりを挟む
...ボクノ、ハハオヤ?
「ごめん、ちょっと理解が追いついてない」
あんなに若くて綺麗な人が木葉のお母さんだなんて言われても、どうしても考えこんでしまう。
信じるとは言ったけれど、あまりに予想外の答えに戸惑っているのは事実だ。
「...純血種のヴァンパイアというのは、ある一定の時期から年をとらなくなるんだ。
僕は半分だから分からないけど、母親は純血種だから見た目の年齢が止まってる。...ラッシュさんもだけどね」
「知らなかった...」
「ごめんね、僕がちゃんと説明しておくべきだった」
純血種はということは、ラッシュさんもそうなのだろうか。
詳しく訊いてもいいのか困っていると、ドアが2回ノックされる。
(こんな時間に誰だろう?)
「ごめん、ちょっと見てくるね」
「僕も行く。心当たりがないんでしょ?」
「うん...」
扉を開けると、そこには傘が立て掛けられていた。
「その傘は七海の、だよね...」
「どうしてここにあるんだろう」
ふたりで顔を見合わせ、何も見なかったことにしてドアを閉める。
「傘、回収しなくてよかったの?」
「うん。あの傘、無くしたんじゃなくて人にあげたの。
びしょ濡れで風邪を引いちゃいそうだったから」
「...その人の気配は?」
真剣な眼差しを向けられて、私はその人の特徴を覚えている範囲で話した。
「黄色いワンピースを着た女の子で、何かを待ってるみたいにずっとその場から動かなくて...他の人は気づいていないみたいだった。
だけどその子からは、なんだか冷たい空気が漂ってい、て...」
そこからだんだん声が小さくなってしまう。
それは、ある可能性に気づいてしまったからだ。
「七海、大丈夫?」
「うん。もしかしてあの子、生者じゃなかったのかな...?」
「多分そうなんじゃないかな...」
私は相変わらず、見分けがつかないことがある。
雰囲気で何となく分かることもあれば、やっぱり困っている人がいたら助けたいと思う。
...私が1番助けてほしかったとき、周りの人たちにそうしてもらえなかった。
助けてと言えない人だって、きっと世界には沢山助けてほしいと思っている人が沢山いるのだから。
(いけない、また考えちゃった)
「その子はきっと、七海にお礼がしたかったんだろうね」
「私に?」
「傘をさしてもらえて嬉しかったんじゃないかな?
だから返しに来たとか...あ、どうして家を知っていたのかは謎だけど」
木葉の言葉はいつも温かい。
少し怖いけれど、あの女の子はとてもいい子だったのだろう。
玄関に置かれていたものを回収して、もう1度ご飯を温め直す。
あの傘をずっと大切にしようと思いながら、料理皿を握りしめた。
(ありがとう)
──心の中でそう呟きながら。
「ごめん、ちょっと理解が追いついてない」
あんなに若くて綺麗な人が木葉のお母さんだなんて言われても、どうしても考えこんでしまう。
信じるとは言ったけれど、あまりに予想外の答えに戸惑っているのは事実だ。
「...純血種のヴァンパイアというのは、ある一定の時期から年をとらなくなるんだ。
僕は半分だから分からないけど、母親は純血種だから見た目の年齢が止まってる。...ラッシュさんもだけどね」
「知らなかった...」
「ごめんね、僕がちゃんと説明しておくべきだった」
純血種はということは、ラッシュさんもそうなのだろうか。
詳しく訊いてもいいのか困っていると、ドアが2回ノックされる。
(こんな時間に誰だろう?)
「ごめん、ちょっと見てくるね」
「僕も行く。心当たりがないんでしょ?」
「うん...」
扉を開けると、そこには傘が立て掛けられていた。
「その傘は七海の、だよね...」
「どうしてここにあるんだろう」
ふたりで顔を見合わせ、何も見なかったことにしてドアを閉める。
「傘、回収しなくてよかったの?」
「うん。あの傘、無くしたんじゃなくて人にあげたの。
びしょ濡れで風邪を引いちゃいそうだったから」
「...その人の気配は?」
真剣な眼差しを向けられて、私はその人の特徴を覚えている範囲で話した。
「黄色いワンピースを着た女の子で、何かを待ってるみたいにずっとその場から動かなくて...他の人は気づいていないみたいだった。
だけどその子からは、なんだか冷たい空気が漂ってい、て...」
そこからだんだん声が小さくなってしまう。
それは、ある可能性に気づいてしまったからだ。
「七海、大丈夫?」
「うん。もしかしてあの子、生者じゃなかったのかな...?」
「多分そうなんじゃないかな...」
私は相変わらず、見分けがつかないことがある。
雰囲気で何となく分かることもあれば、やっぱり困っている人がいたら助けたいと思う。
...私が1番助けてほしかったとき、周りの人たちにそうしてもらえなかった。
助けてと言えない人だって、きっと世界には沢山助けてほしいと思っている人が沢山いるのだから。
(いけない、また考えちゃった)
「その子はきっと、七海にお礼がしたかったんだろうね」
「私に?」
「傘をさしてもらえて嬉しかったんじゃないかな?
だから返しに来たとか...あ、どうして家を知っていたのかは謎だけど」
木葉の言葉はいつも温かい。
少し怖いけれど、あの女の子はとてもいい子だったのだろう。
玄関に置かれていたものを回収して、もう1度ご飯を温め直す。
あの傘をずっと大切にしようと思いながら、料理皿を握りしめた。
(ありがとう)
──心の中でそう呟きながら。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる