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日常篇
まだまだ知らなかったこと
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あれが木葉の能力なの?、なんて...やっぱり私には訊けなかった。
それに木葉はさっきのものを自覚していないようだ。
貸してもらった部屋で前回置いて帰ってしまった部屋着に着替えながら、誰かに話してみるべきか迷ってしまう。
(ラッシュさんに訊いてみようかな...)
「おまたせ。ティーセットを置いたままにしてあったんだけど、何か淹れてもいい?」
「え、いいの?」
「勿論」
「それじゃあ僕は何かお菓子を用意しようかな」
いつもどおりの会話に、いつもどおりの風景。
ただひとつ違うことがあるとすれば、私が疑問を抱いたままだということだ。
いつもならそれを木葉にぶつけるけれど、今回はそんな簡単な問題ではないような気がする。
「...熱っ」
「え、大丈夫!?」
考え事をしながら淹れていたせいか、手の甲に勢いよくお湯をかけてしまった。
「取り敢えず水で冷やそう?」
「ごめん。迷惑をかけて...」
今日は怪我をしてばかりで、さっきから迷惑をかけっぱなしだ。
「気にしないで。...はい、できた」
木葉は水ぶくれになってしまった部分に丁寧に処置を施してくれる。
ただ、彼が少しだけ震えているように見えて...怪我をしなかった方の手できゅっと抱きしめた。
「七海?」
「...噛みたいの?」
「本当は...ちょっとだけ噛みたい」
多分、それも混ざっている。
けれどそれだけではないはずだ。
「私は大丈夫だから、噛んで」
ブラウスのボタンを上ふたつ開けて、そのまま木葉の胸に顔を埋める。
彼は少しだけ戸惑っているようだったけれど、ゆっくりと牙が差し入れされていく感覚がした。
「ごめん、痛かった?」
「大丈夫」
やっぱり体が熱くなって頭はふわふわするものの、痛みなんてほとんどない。
ぼんやりした思考を働かせて、ある重大なことに気づく。
「怪我をしたら血が美味しくなくなるんじゃなかったっけ?」
「それはそうだけど...ごめん、我慢できなかった。
怪我してるのに、あんまり吸ったら駄目だよね」
木葉はいつも痛そうな表情をする。
こんなに優しい人を、私は他に知らない。
「木葉の喉は潤った?」
「すごく満たされた。...ありがとう」
そのとき、自分の体の変化に気づく。
頬の腫れが少しだけひいている。
それに、さっき怪我をしたばかりの手の痛みがほとんどない。
「純血種の人たちなら怪我を完璧に治すこともできたんだろうけど、僕にはそれが限界なんだ。
...少しは痛みがマシになったかな?」
「だいぶ楽になったよ。...本当にありがとう」
こんなこともできるなんてすごい、なんて軽々しく言えない。
木葉に笑っていてほしくて、結局話せないままプチティーパーティがはじまる。
「七海が淹れてくれた紅茶、すごく美味しいね!」
「喜んでもらえてよかった。このクッキーもすごく美味しいね」
しばらく他愛のない会話が続いたとき、木葉にじっと見つめられる。
そしてそのまま、秘密の話をするように耳許でひそひそと囁かれた。
「...後で少しだけ星を見ない?」
それに木葉はさっきのものを自覚していないようだ。
貸してもらった部屋で前回置いて帰ってしまった部屋着に着替えながら、誰かに話してみるべきか迷ってしまう。
(ラッシュさんに訊いてみようかな...)
「おまたせ。ティーセットを置いたままにしてあったんだけど、何か淹れてもいい?」
「え、いいの?」
「勿論」
「それじゃあ僕は何かお菓子を用意しようかな」
いつもどおりの会話に、いつもどおりの風景。
ただひとつ違うことがあるとすれば、私が疑問を抱いたままだということだ。
いつもならそれを木葉にぶつけるけれど、今回はそんな簡単な問題ではないような気がする。
「...熱っ」
「え、大丈夫!?」
考え事をしながら淹れていたせいか、手の甲に勢いよくお湯をかけてしまった。
「取り敢えず水で冷やそう?」
「ごめん。迷惑をかけて...」
今日は怪我をしてばかりで、さっきから迷惑をかけっぱなしだ。
「気にしないで。...はい、できた」
木葉は水ぶくれになってしまった部分に丁寧に処置を施してくれる。
ただ、彼が少しだけ震えているように見えて...怪我をしなかった方の手できゅっと抱きしめた。
「七海?」
「...噛みたいの?」
「本当は...ちょっとだけ噛みたい」
多分、それも混ざっている。
けれどそれだけではないはずだ。
「私は大丈夫だから、噛んで」
ブラウスのボタンを上ふたつ開けて、そのまま木葉の胸に顔を埋める。
彼は少しだけ戸惑っているようだったけれど、ゆっくりと牙が差し入れされていく感覚がした。
「ごめん、痛かった?」
「大丈夫」
やっぱり体が熱くなって頭はふわふわするものの、痛みなんてほとんどない。
ぼんやりした思考を働かせて、ある重大なことに気づく。
「怪我をしたら血が美味しくなくなるんじゃなかったっけ?」
「それはそうだけど...ごめん、我慢できなかった。
怪我してるのに、あんまり吸ったら駄目だよね」
木葉はいつも痛そうな表情をする。
こんなに優しい人を、私は他に知らない。
「木葉の喉は潤った?」
「すごく満たされた。...ありがとう」
そのとき、自分の体の変化に気づく。
頬の腫れが少しだけひいている。
それに、さっき怪我をしたばかりの手の痛みがほとんどない。
「純血種の人たちなら怪我を完璧に治すこともできたんだろうけど、僕にはそれが限界なんだ。
...少しは痛みがマシになったかな?」
「だいぶ楽になったよ。...本当にありがとう」
こんなこともできるなんてすごい、なんて軽々しく言えない。
木葉に笑っていてほしくて、結局話せないままプチティーパーティがはじまる。
「七海が淹れてくれた紅茶、すごく美味しいね!」
「喜んでもらえてよかった。このクッキーもすごく美味しいね」
しばらく他愛のない会話が続いたとき、木葉にじっと見つめられる。
そしてそのまま、秘密の話をするように耳許でひそひそと囁かれた。
「...後で少しだけ星を見ない?」
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