ハーフ&ハーフ

黒蝶

文字の大きさ
上 下
38 / 258
日常篇

まだまだ知らなかったこと

しおりを挟む
あれが木葉の能力なの?、なんて...やっぱり私には訊けなかった。
それに木葉はさっきのものを自覚していないようだ。
貸してもらった部屋で前回置いて帰ってしまった部屋着に着替えながら、誰かに話してみるべきか迷ってしまう。
(ラッシュさんに訊いてみようかな...)
「おまたせ。ティーセットを置いたままにしてあったんだけど、何か淹れてもいい?」
「え、いいの?」
「勿論」
「それじゃあ僕は何かお菓子を用意しようかな」
いつもどおりの会話に、いつもどおりの風景。
ただひとつ違うことがあるとすれば、私が疑問を抱いたままだということだ。
いつもならそれを木葉にぶつけるけれど、今回はそんな簡単な問題ではないような気がする。
「...熱っ」
「え、大丈夫!?」
考え事をしながら淹れていたせいか、手の甲に勢いよくお湯をかけてしまった。
「取り敢えず水で冷やそう?」
「ごめん。迷惑をかけて...」
今日は怪我をしてばかりで、さっきから迷惑をかけっぱなしだ。
「気にしないで。...はい、できた」
木葉は水ぶくれになってしまった部分に丁寧に処置を施してくれる。
ただ、彼が少しだけ震えているように見えて...怪我をしなかった方の手できゅっと抱きしめた。
「七海?」
「...噛みたいの?」
「本当は...ちょっとだけ噛みたい」
多分、それも混ざっている。
けれどそれだけではないはずだ。
「私は大丈夫だから、噛んで」
ブラウスのボタンを上ふたつ開けて、そのまま木葉の胸に顔を埋める。
彼は少しだけ戸惑っているようだったけれど、ゆっくりと牙が差し入れされていく感覚がした。
「ごめん、痛かった?」
「大丈夫」
やっぱり体が熱くなって頭はふわふわするものの、痛みなんてほとんどない。
ぼんやりした思考を働かせて、ある重大なことに気づく。
「怪我をしたら血が美味しくなくなるんじゃなかったっけ?」
「それはそうだけど...ごめん、我慢できなかった。
怪我してるのに、あんまり吸ったら駄目だよね」
木葉はいつも痛そうな表情をする。
こんなに優しい人を、私は他に知らない。
「木葉の喉は潤った?」
「すごく満たされた。...ありがとう」
そのとき、自分の体の変化に気づく。
頬の腫れが少しだけひいている。
それに、さっき怪我をしたばかりの手の痛みがほとんどない。
「純血種の人たちなら怪我を完璧に治すこともできたんだろうけど、僕にはそれが限界なんだ。
...少しは痛みがマシになったかな?」
「だいぶ楽になったよ。...本当にありがとう」
こんなこともできるなんてすごい、なんて軽々しく言えない。
木葉に笑っていてほしくて、結局話せないままプチティーパーティがはじまる。
「七海が淹れてくれた紅茶、すごく美味しいね!」
「喜んでもらえてよかった。このクッキーもすごく美味しいね」
しばらく他愛のない会話が続いたとき、木葉にじっと見つめられる。
そしてそのまま、秘密の話をするように耳許でひそひそと囁かれた。
「...後で少しだけ星を見ない?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

処理中です...