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日常篇
相談事
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「ん、何時...?」
「おはよう。もうお昼だけど、ご飯作ったよ」
僕が起きると、当たり前のように話し掛けてくれる七海。
なんだか申し訳なくて、真っ直ぐ姿を見ることができない。
「木葉...?」
「ごめん、なんでもない。ご飯、ありがたくいただくね」
急いで完食して、逃げるようにその場を後にする。
本当はきちんと話さないといけないのに、そんなことなんてできなかった。
そして夜、いつものように本屋の仕事をしていると後ろから声をかけられる。
「どうかしたの?」
「山岸...」
下の名前を教えてくれない友人、山岸。
彼の方から声をかけてくるのは珍しい。
「僕、迷ってるんだ。どうすればいいのか分からなくて...」
「それは恋人と?」
「...死神って心まで読めるの?」
「なんとなくそう思っただけ」
なんだか最近、笑顔が少しだけ優しくなったような気がする。
「君は上手くいってるみたいだね」
「別に雪芽とはそういうのじゃない」
「雪芽さんっていうんだね」
「とにかく、あの子とはそういうのじゃないから」
いつも淡々と言葉を告げるだけだった彼がこんな反応をするなんて、その女性はどれだけの影響を与えたのだろう。
僕は七海に悪影響ばかりを与えている。
...そんな気しかしないのは何故だろう。
「何かあったなら話して。僕にアドバイスなんてできないとは思うけど、聞くだけならできる」
山岸の言葉に、僕はあったことを正直に話した。
愛していることも、それによって生じる不安も...何もかも。
「それは、好きだからこそ持てる感情だ」
「え?」
「どうでもいい相手のことなら、そんなふうに思い悩んだりしない。
君が相手のことを沢山考えている証拠だと思う。...相手が君を嫌っていないなら、そのままでいいと思うよ」
感激のあまり、彼の腕を思いっきり掴んでしまった。
「ありがとう。...ねえ、君にも悩みがあるなら話を聞くよ」
「どうしてそれを、」
「やっぱりそうだったんだ...」
戸惑う様子を見せながら、何か思い悩んでいるようだ。
しばらくじっと見つめていると、観念したように話しはじめた。
「プレゼントを贈ろうと思っているんだけど、どんなものにすればいいのか分からないんだ」
『死神には感情がない』...以前、そんな言葉を伝えられたことがある。
最近はそんなこともないような気がしているが、出会った頃は確かにそうだったのかもしれない。
「僕なら、相手に喜んでもらえそうなものを選ぶかな。あと、好きそうなもの...?」
「どうして疑問形なの?」
話しながら整理をしていると、彼は本屋の扉に向かって話しかけた。
...と普通の人間は思うだろうが、そうではない。
「話せた?」
「...話しかけたら逃げられた」
死者が見えないのが普通だなんて、人間はなかなか面白いことを言う。
だが、僕は知っている。...視えることで苦労してきた人のことを。
「そっか、そういうときもあるんだね。ところで...そろそろ下の名前を教えてくれない?」
すると、彼は嬉しそうに名乗った。
「柊。大切な人がそうつけてくれたんだ」
「相手のことが本当に大切なんだね」
名前は先程聞いて分かっていたが、敢えて口にしない。
終業時間後、いつものように手をふる。
「それじゃあまたね...柊」
「うん、また」
こうして相談できる相手がいるというのはとても心強い。
──きっとこういう関係を親友と呼ぶのだろう。
「おはよう。もうお昼だけど、ご飯作ったよ」
僕が起きると、当たり前のように話し掛けてくれる七海。
なんだか申し訳なくて、真っ直ぐ姿を見ることができない。
「木葉...?」
「ごめん、なんでもない。ご飯、ありがたくいただくね」
急いで完食して、逃げるようにその場を後にする。
本当はきちんと話さないといけないのに、そんなことなんてできなかった。
そして夜、いつものように本屋の仕事をしていると後ろから声をかけられる。
「どうかしたの?」
「山岸...」
下の名前を教えてくれない友人、山岸。
彼の方から声をかけてくるのは珍しい。
「僕、迷ってるんだ。どうすればいいのか分からなくて...」
「それは恋人と?」
「...死神って心まで読めるの?」
「なんとなくそう思っただけ」
なんだか最近、笑顔が少しだけ優しくなったような気がする。
「君は上手くいってるみたいだね」
「別に雪芽とはそういうのじゃない」
「雪芽さんっていうんだね」
「とにかく、あの子とはそういうのじゃないから」
いつも淡々と言葉を告げるだけだった彼がこんな反応をするなんて、その女性はどれだけの影響を与えたのだろう。
僕は七海に悪影響ばかりを与えている。
...そんな気しかしないのは何故だろう。
「何かあったなら話して。僕にアドバイスなんてできないとは思うけど、聞くだけならできる」
山岸の言葉に、僕はあったことを正直に話した。
愛していることも、それによって生じる不安も...何もかも。
「それは、好きだからこそ持てる感情だ」
「え?」
「どうでもいい相手のことなら、そんなふうに思い悩んだりしない。
君が相手のことを沢山考えている証拠だと思う。...相手が君を嫌っていないなら、そのままでいいと思うよ」
感激のあまり、彼の腕を思いっきり掴んでしまった。
「ありがとう。...ねえ、君にも悩みがあるなら話を聞くよ」
「どうしてそれを、」
「やっぱりそうだったんだ...」
戸惑う様子を見せながら、何か思い悩んでいるようだ。
しばらくじっと見つめていると、観念したように話しはじめた。
「プレゼントを贈ろうと思っているんだけど、どんなものにすればいいのか分からないんだ」
『死神には感情がない』...以前、そんな言葉を伝えられたことがある。
最近はそんなこともないような気がしているが、出会った頃は確かにそうだったのかもしれない。
「僕なら、相手に喜んでもらえそうなものを選ぶかな。あと、好きそうなもの...?」
「どうして疑問形なの?」
話しながら整理をしていると、彼は本屋の扉に向かって話しかけた。
...と普通の人間は思うだろうが、そうではない。
「話せた?」
「...話しかけたら逃げられた」
死者が見えないのが普通だなんて、人間はなかなか面白いことを言う。
だが、僕は知っている。...視えることで苦労してきた人のことを。
「そっか、そういうときもあるんだね。ところで...そろそろ下の名前を教えてくれない?」
すると、彼は嬉しそうに名乗った。
「柊。大切な人がそうつけてくれたんだ」
「相手のことが本当に大切なんだね」
名前は先程聞いて分かっていたが、敢えて口にしない。
終業時間後、いつものように手をふる。
「それじゃあまたね...柊」
「うん、また」
こうして相談できる相手がいるというのはとても心強い。
──きっとこういう関係を親友と呼ぶのだろう。
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