ハーフ&ハーフ

黒蝶

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日常篇

星空と碧

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昔はよくここで泣いていた。
どうすればいいのか分からなくて...半分でいいのか迷って。
それが今、こんな形でいい思い出ができた場所に変わろうとしている。
「七海は、僕にとって月みたいだ」
「どうして?」
「月みたいに、優しい明かりで照らしてくれるから。
あとは...いつも包みこんでくれるから」
正直な思いを言葉にのせただけなのに、七海はとても恥ずかしそうに下を向く。
その頬は夜の暗さでも分かるほど赤く染まっていた。
「そんなふうに言われたら照れる...でも、ありがとう」
「僕は思ってることを言っただけだから」
「それがすごく嬉しい」
サンドイッチが無くなりはじめた頃、七海は小さなプラスチックの箱を鞄から取り出す。
「あんまり時間がかかるものは作れなかったから、こんなのしかないけど...」
そこからは可愛らしいデコレーションが施されたパンケーキが飛び出して、メープルシロップが入った小瓶が添えられていた。
きっと、僕が甘いものに目がないから用意してくれたのだろう。
「ありがとう、すごく嬉しい...!」
「ちょっと焦げちゃったんだけど、美味しい?」
「うん。やっぱり七海が作ったものはなんでも美味しいね」
七海と食べたものならというのが正確だとは思うが、僕はまだそれを口にできるほど大人ではないらしい。
ひとくち、またひとくちと食べているうちに、星々の輝きが強くなる。
「七海」
「どうしたの?」
「口、開けて?」
おずおずと開かれたそこに、切り分けたパンケーキを放りこむ。
「さっきから手が止まってるけど、何か心配事?」
彼女は遠慮がちに、言葉を選びながらといった様子で訊いてきた。
「...木葉、血がほしいの?」
「どうしてそう思うの?」
誤魔化しても無駄だと分かっていても、ついそんなふうに切り返してしまう。
「さっきから呼吸が浅くなってるから。それから、顔色があんまりよくない。あとは...」
「降参するよ。やっぱり七海相手には隠しきれないみたいだ」
ここまでバイクで向かっているときから分かってはいた。
...好きだとか愛しいだとか、そんな感情の中に噛みたいという欲が紛れ込んでいることは。
「我慢しなくていいから...噛んで」
「ありがたいけど、ここでは嫌だ。それに、もう少しふたりで景色を楽しみたい」
今夜はまだ理性がしっかりと残っている。
それなら、夜のデートを満喫したい。
赦されるならずっとこのままでいたいと思うくらいに、七海の隣は居心地がいい。
「分かった。それじゃあ無理だと思ったらすぐ教えてね」
「ありがとう」
彼女を励ますつもりが、僕の方が元気をもらっている。
いつものことながら、その優しさに甘えてしまうのだった。
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