ハーフ&ハーフ

黒蝶

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日常篇

率直な想い

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「...ここ、来て」
「え、こう?」
空の黒が濃くなってきた頃、七海に言われるままに布団に入る。
すぐ隣には彼女の顔があって、緊張して眠れそうにない。
「何か考え事?」
「やっぱりちょっと照れくさいなって思ってるだけだよ...」
七海の願いは、こうして『同じ布団で一緒に寝ること』だ。
きっと変な意味ではなく、言葉どおりの意味なのだろうとすぐに理解した。
「...他の人には、さっきみたいな可愛いこと言わないでね」
「可愛いこと?」
「一緒に寝て、なんて...絶対に他の男の人には言っちゃ駄目だよ」
「...?うん、分かった」
その反応は、純粋としか言い表せない。
それ以外の言葉が見つからなかった。
恋人をベッドに誘うのには別の意味があると母は言っていたが、それは僕にも分からない。
鼓動が高鳴り止まらないうえに...早くもじわじわと欲求が襲ってくる。
「木葉、抱きついてもいい?」
「それは構わないけど...頭、少しだけ上げて?」
いつかのように腕枕をすると、目の前の顔は一瞬のうちに色を変える。
頬は赤く染まり、白い肌がより際立っていた。
そのあまりの美しさに息を呑む。
「あ、あんまりじっと見ないで...」
胸に顔を埋められ、鼓動が早鐘を打つ。
「ご、ごめん!」
「...お願い、抱きしめててほしいの」
それが願いならと、そのまま背中に回している方の腕の力を強める。
「苦しくない?」
「...好き」
こうやって甘えてくるとき、彼女には何かあった印だ。
だが、今は訊く気にはなれない。
折角くつろいでいてくれているのなら、その思いを大切にするべきだと思うから。
「こうしていると眠れそう?」
「ありがとう」
しばらくそのままの体勢でいると、穏やかな寝息が耳に届いた。
彼女はぐっすりと眠っているようで、少し動いたくらいでは起きない。
「明日、聞かせてね」
吸血欲求を押し殺し、そっと額に口づける。
やはり夜ということもあって目が冴えてしまい、なかなか寝つけなかった。
どうしても好きの中に噛みたいが混ざってしまう。
...母に相談してみた方がいいのかもしれない。
偶然持っていた本を片手で開き、黙々と読み進める。
【たとえ種族が違っても、この気持ちは変えられない】
──それは、種族を越えた恋物語。
店長さんにおすすめされて読んでみると、主人公や状況が自分に似ていた為に2日ほどで終わってしまった。
僕たちの未来も、こんなふうに明るいものになってほしい...いや、してみせる。
最後まで読み終え、密かに決意した。
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