ハーフ&ハーフ

黒蝶

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日常篇

朝陽の色

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「...あれ?」
窓から注ぎこまれる光に照らされて、あまりの眩しさに目を開ける。
(まだ5時45分...?)
それでも、少しずつ昇っていく太陽を見られるのは新鮮だった。
私は昨日、どんなふうに寝てしまったのだろう。
「...?」
頭の下に何かあるのを感じて起きあがると、そこには木葉の腕があった。
私が寝ている間、ずっと腕枕をしてくれていたらしい。
(どうしよう、ちょっと恥ずかしくなってきちゃった...)
近くのテーブルに視線をやると、何やらメモ書きがあるのを見つけた。
《七海へ

僕はきっと起きられないだろうから、おなかが空いたら冷蔵庫の中のものを自由に使ってください。
だけど、1番下の段に入ってる小瓶には触らないでほしい。
それ以外は、本当に何を使っても構わないから!
絶版になったものも沢山紛れてるはずだから、本も読みたいものがあれば自由に読んでね。
僕のことは気にせず、帰りたくなったら帰っちゃってね。
楽しい思い出ができてよかった。本当にありがとう》
それは間違いなく木葉の字で書かれていたけれど、本当に使ってしまってもいいのか不安でもう1度横になる。
...勿論、木葉の腕はちゃんと避けて。
綺麗な朝陽を浴びられて、このお部屋は本当にいいところだなと思う。
嫌なことを全部忘れられるし、隣には愛しい人が眠っていて...本当に堪らない気持ちになる。
(...っ、いけない)
泣いてはいけないと思えば思うほど、だんだん体を動かすのが辛くなる。
誰にも話していない、悪夢の日のこと。
時々思い出しては怖くなって、震えが止まらなくなってしまうのだ。
「ななみ、ど、したの...?」
「木葉...」
ふにゃふにゃな声で私に話しかけながら、ゆるゆると抱きしめられる。
「よしよし、だいじょうぶだから...」
「これじゃあ動けないよ」
「こうしてたら、だめ?」
私はこの、『駄目?』に弱い。
寝惚けているからなのか、破壊力はいつもの何倍もある。
「...駄目じゃないよ。抱きしめたまま離さないで」
「うん」
それだけ言うと、木葉は再び寝息をたてはじめる。
(泣いているのに気づかれた?それとも、寝惚けていただけ?)
どちらともとれる優しさに、今はただ甘えていたい。
いつの間にか太陽はすっかり昇りきっていて、その景色もまた綺麗だと感じながらゆっくり瞼をおろす。
このままずっと眠っていたいと思うほど、心地よい時間だった。


──そんな姿を見て、少年はほっとする。
「七海、どうして泣いてたの?」
その言葉は、小鳥のさえずりに吸いこまれて消えていった。
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